マクラーレン540Cクーペ(MR/7AT)ピュアスポーツの「大穴」

マクラーレン540Cクーペ(MR/7AT)ピュアスポーツの「大穴」

いつのまにかデビューから7年の歳月がすぎたマクラーレン540Cに、2022年の今乗ることで、これまで経験していなかったことを後悔。それほど車好きを喜ばせてくれるピュアなキャラクターである事を再認識した。

「軽いですよ! このクルマ」

つい数時間前までマクラーレン720Sに乗っていたレセンス編集部のほかメンバーが、このマクラーレン540Cから降りて一言目「軽いですよ! このクルマ。かなり乗りやすい。想像と違いました」と興奮気味にそう訴えかけた。

筆者はそれが不思議だった。

なぜなら540Cは、720Sより全長が左右5mm短いだけに過ぎず、高さは同じ。幅こそ左右30mmちょっと違うけれど、車重は10kgも540Cの方が重たいのだ。

だから不思議だった。

そもそもマクラーレン540Cって、どんな車なのか? これまた分かりづらい。

分かりづらいのはなぜかというと、やっぱりマクラーレンはどのモデルも外観が似ているし、それにV型8気筒を馬力/トルク違いで載せていることが多い。高価なモデルほど大きく、安価なモデルほど小さいわけでも、台数が多いわけでもない…。ミステリアスである。

そもそも「540C」とは何か?

マクラーレン540Cは、2015年4月にニューヨーク・オートショーで世界初公開。「旧シリーズ」の中では「スポーツシリーズ」に属した。この「旧シリーズ」というのは、マクラーレンはモデルラインナップを、複数グループに分けて立ち位置を分かりやすくする(少なくともそれを試みた)ための括りであるけれど、先ごろ「新シリーズ」に改変されている。

540Cがデビューした当時は
・スポーツシリーズ
・スーパーシリーズ
・アルティメットシリーズ
に分けられており、ちなみに今は
・GT
・スーパーカーズ
・アルティメット
となっている。

なおスポーツシリーズという名前自体は2021年まで6年続き、全世界で6モデル、およそ8500台がオーナーの元へ嫁いだ。

540Cには、同じスポーツシリーズ内に、兄貴分が2モデル存在。
・570GT(2750万円)
・570S(2556万円)
そしてこの
・540C(2188万円)
という新車価格になっていた。

570Sと540Cを抽出すると、外板寸法は全くの同値。ただし同じV8ツインターボ(M838TE型のバンク角90°)の出力が
570S:570ps/600Nm
540C:540ps/540Nm
と出し分けられており、
570S:0-100km/h:3.2秒
540C:0-100km/h:3.5秒
と結果的に異なっている。

走り始めると、これは軽い…

720Sを見た後だと、全幅の小ささのおかげかキュッと引き締まって見える。ヘッドライト周囲がグリッとくり抜かれた720Sに対して、透明パネルで覆う形状のデザインそのものもコンパクトに見せていると感じる。

リアの造形も、例えばバンパー両脇から台形に除くエグゾーストなど、その他のマクラーレンのようにナンバーの上、左右から突き出したものに比べて文化的。

全体を通して「たしかにマクラーレンなのだけれど、アンダーステイトメントの精神は忘れず」といった空気がある。端的にいって「エグみ」みたいなものが全く無い。シンプルで端正な外観だ。

車内に乗り込んでも720Sに比べてセンターコンソールがわずかにタイトだから、720Sのドライバーズシートに座るよりも左右に対して車体中央部に座っている感覚がある。

エンジンのスタートボタンを押すと、排気音自体は720Sに似たものだと感じた。ブブブっと野太く、低いが乾いている。その後すぐに音量は小さく落ち着く。

走り始めると、あれ、これは軽いゾ…。

軽いとはどういうことかというと、たとえばロータス・エリーゼに乗った時のような、ヒラヒラ、いやペラペラとした軽さではなく、重みのなかで機敏さを兼ね備えた類の軽さだと言うことに気づく。

もう少し深堀りしてみよう。

軽さを感じる秘密を紐解くと

ヒラヒラとせず、たしかに1つ1つに重みがあるものの、軽く感じる。

この理由は、明らかなステアリングの反応の良さにある。直進時、安全を確認した上で左右にステアリングを振る。ノーズはやや沈んだ姿勢でキュッキュッと操舵に応えてくれる。

フロント先端が窄まった、いや尖った車を操縦しているような感覚に陥る。

もう1つ、乗り心地がかなりマイルドだと思う。無理に固めているわけではないから、小気味よいステアリングと相まって、自分の想像している通りに車体の姿勢を作ることができる。

思ったままに動かせるから結果的に軽く感じるのだと思った。

ちなみにこの車、助手席に乗っていても、はっきりと安楽。真後ろから聞こえるエンジン音に耳を済ませていると、少し眠くなってきたりもするくらいだ。

加速を試すために、ひょいと右の車線にでてググッとアクセルを踏む。矢継ぎ早に変速が進行し速度が乗ってきたところで前方に車が飛び出してきた。スッと元いた車線に戻る。何気なくやったものの、この車だからこそ出来たのだなと感心した。

手と足の指先の延長線上に540Cがあり、そのノーズの先端まで神経が繋がっているような感覚がする。「意のまま」とはこういうことなのか…。知っていたつもりだったのに…。

ピュアスポーツカーの「大穴」

シートの調整やナビの操作は、正直言ってあまり考えられた設計ではない。現にこの個体のナビ履歴は2021年3月を最後に、何一つとして入力されていなかった。

だけどそれが何だ、とも思う。いつもの知っている道を、週末、気持ちよく流す。時に汗が滲むようなドライビングに高じる。これこそが540Cを紐解くに適したシチュエーションだと思う。

街ゆく誰かに振り返って欲しければ、たとえば同じ価格/パワー帯には、ランボルギーニ・ウラカンなどの色っぽかったり派手だったりのオルタナティブもある。

しかしこれはマクラーレンである。それも同社のモデル群の中で限りなく簡素で、もっともイギリスのスーパーカーとは何たるかを味わえるのである。

長く乗れば乗るほど味わいは増してゆくし、理解も深まるだろう。そのうえ快適性も高い。これはいくらでも乗っていられるぞと笑みが溢れる。

540Cの「C」は「Club」から来ている。「Club」と「Clubsports(クラブスポーツ)」は密接に関係しているだろう。

ピュアであることはすなわち、徹底して向き合いたくなる対象になりうるし、可能な限り長く付き合い、色んな側面を知ってみたくもなるのだなと思った。

この車を知らずして何を語れようか。

SPEC

マクラーレン540Cクーペ

年式
2016年
全長
4530mm
全幅
1910mm
全高
1200mm
ホイールベース
2670mm
車重
1440kg
パワートレイン
3.8リッターV型8気筒ツインターボ
トランスミッション
7速AT
エンジン最高出力
540ps/7500rpm
エンジン最大トルク
540Nm/3500-6500rpm
サスペンション(前)
ダブルウィッシュボーン
サスペンション(後)
ダブルウィッシュボーン
タイヤ(前)
225/35Z R19
タイヤ(後)
285/35 ZR20
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