私の元へ記事用の写真が届く。ろくに見もせず取り込んで後日編集しようと思い、チラっと見えたリアフェンダーの写真で、今の今まで4代目クアトロポルテだと思っていた。
欧州車風の見た目
ダイハツ・シャレードを忘れていた。
「そうか、たしかにシャレードって、あったよな⋯」。フェラーリやレンジローバー、きらびやなか高級車と同じお皿に、この車を盛るのは、とてもRESENSE(レセンス)らしい。
シャレードはかつてダイハツが販売していたコンパクトカーである。
人気は高く、資料によると90年代初頭まで、国内販売台数と輸出台数がほとんど同じだったという。
今回のテスト車は3代目=G100系。理詰めのカクカクした2代目の外装から一転、フロントのブリスターフェンダーや、後方に向かってシュッと切れたリアホイールアートなど、一見地味なのだけど、細かな工夫が随所に見られる欧州車風の見た目になった。
この世代から4ドア・セダンの「SOCIAL=ソシアル」も加わった。
ホイールベースは2340mmと同じながらリアトランクが後ろに設けられたことで、全長は3610mmから3995mmに伸びた。余談だけれどダイハツの3ボックスはシャルマン以来である。
小さく可憐に見える
シャレード・ソシアルは小さい。幅は1615mmしかなく、全高も高くて1400mm。ぶくぶくと大きくなってしまったリッターカーと比べても、また当時の記憶と比べても小さく可憐に見える。
けれど光が斜めに差し込む時間帯にたたずむソシアルは、ブリスターフェンダーやリアホイールアーチをはじめとした控えめな主張がじつに愛くるしい。
グレーだと思っていた塗料も、わずかにブルーが入っていて綺麗だ。
ちょっとフランス車みたいだなあ。と他の編集部員がひとりごちた。
そのとおりだと思った。
左右にわたるリアガーニッシュがつるんと隆起しているさまや、間近で見ると意外にも大きくラウンドしたリアガラスなど、セダンにしかない意匠も興味深い。
ハッチバックを基本にセダンに仕立て直すデザイナーの苦労を考えると、よけい魅力的に思えてくる。
ベヨンとドアを閉じると、80〜90年代のクルマらしい空間が広がる。小さなボディなのに室内は広い。窓も大きく明るい。
タイムスリップする
薄いキーをひねるとエンジンがちょっと眠そうに目を覚ます。
シフトレバーをカタカタとDレンジに倒せばグンと動力が伝わる。
じわりとアクセルペダルを踏むとエンジンの唸りが直接室内に入ってくる。たしかにこの頃のクルマってけっこううるさかったよなあ。エンジンの音と布やエアコンの匂いでさらにタイムスリップする。
テスト車は基準車より排気量が大きい1.3Lの直列4気筒エンジン(もちろん自然吸気だ)を積んでいたが、坂道でも思ったより進まないし、平たんな道でもヤリスやフィットにどんどん抜かれる。
それでも懸命にエンジンを働かせながらゆっくりと進むシャレードをいつのまにか応援している。
望外に乗り心地がよかったのは、やっぱりこの時代ならではのタイヤサイズと、贅沢にも前後マクファーソンストラットのサスペンションだからというのもあるだろう。
大きく細く遊びの多いステアリングを左右に揺らしながら走ることが楽しい。運転している生っぽい感覚が強いからだ。
忘れ去られていたシャレードは、1987年のデビューから40年を経て、絶妙な、そして他に代えがたいクルマになっていた。というか、私たち自身の向き合い方の変化をもって、静かな魅力がぐっと濃さを増したのだと思う。
若い人がそれっぽくおしゃれで乗るのもなんだか違うし、おじいさんが昔から乗ってます、といったふうにボロボロの状態で維持しているのもなんか違う。
でもたったの2.8万kmしか走っていないシャレード、それもソシアルに、ぴたりと似合う人がどこかにいるのだろうことはたしかだ。だとしたら羨ましいなあ。
SPEC
ダイハツ・シャレード・ソシアル・スーパーセレクション
- 年式
- 1991年式
- 全長
- 3995mm
- 全幅
- 1615mm
- 全高
- 1385mm
- ホイールベース
- 2340mm
- 車重
- 900kg
- パワートレイン
- 1.3リッター直列4気筒
- トランスミッション
- 3速AT
- エンジン最高出力
- 94ps/6500rpm
- エンジン最大トルク
- 107.9Nm/5000rpm
- タイヤ(前)
- 165/70R13
- タイヤ(後)
- 165/70R13