ターボを新車でオーダーする。それだけで勇気がいるのに、この個体ときたら。パープルのようなバイオレットブルーにオートマティックを選択し、極め付きは右ハンドルだ。
見た瞬間に心を掴まれる
ポルシェ911ターボ(996型)は、その姿を見た瞬間に心を掴まれる車だ。
流れるようなボディラインは、ゆるやかに、しかし抑揚を持って前後に伸びる。外板が膨張したかのように美しく膨らむボディは、どの角度からみても、そしてどれだけ見ても美しい。
今振り返ると、クラシックとモダンが絶妙に融合しているようにも思える。
卵形のヘッドライトデザインは当時賛否を呼んだけれど、今となっては不思議な魅力がある。
エンジンをかけると、水平対向6気筒が生み出すメカニカルな鼓動が体に伝わり、おのずと期待が膨らむ。
基準車のカレラにくらべると、少しだけ音が低く、音量も大きく感じられる。
420psがフルに発揮されるまでには少しの「溜め」がある。アクセルをグッと踏み込むと、少しだけあとにリアが沈み、アスファルトを削らんばかりに加速していく。(当時のGT3より速い。)
その瞬間は、ただ速いだけでない特別な体験だ。もちろん現代の911ターボのほうが圧倒的に速い。しかしこの世代の911ターボは、じわりじわりと乗員を緊張させ、周囲を威嚇し、圧倒する。
加速の成り立ちが違うように思えるのだ⋯。
結果的に古びないのだ
996ターボが特別なのは、その性能だけではない。
実は日常でも使いやすいという点が、この車の大きな魅力だ。
街中を走らせると、その意外な穏やかさに驚かされる。
たしかに996世代のカレラと比べると引き締まってはいるのだけれど、たとえば992世代のターボと比べると明らかにマイルドだ。
ステアリングの緊張感もほどほどで、リラックスして運転できる。
インテリアも、ドライバーをリラックスさせる要素のひとつだろう。たしかにわかりやすく高級なパーツは少ないけれど、ひとつひとつのデザインがていねいに吟味され、辻褄があわなかったり、意味のない造作だったりすることがない。
シンプルで直感的に操作でき、無駄がない。
このあたりにもポルシェの細やかな配慮を感じる。
だから結果的に古びないのだと思う。
時代を超えた存在である
996ターボを試乗して思ったのは、この車が時代を超えた存在であるということだ。
2000年代初頭に登場したモデルでありながら、性能やデザインは今でも輝きを失っていない。
むしろ、現代の車にはない直接的なドライビングの楽しさを提供してくれる稀有な存在だ。
また、現代のスポーツカーは電子制御の進化により、誰でも高い性能を引き出せるようになっているが、996ターボにはドライバーが主役となる余地がしっかり残されている。
このアナログ感が運転に深い満足感を与えてくれる。特にマニュアルモードでギアを操る瞬間、エンジン音と加速が一体となる快感は何ものにも代えがたい体験だ。
いっぽうオートマティックモードで走る際のまったりとしたティプトロニック特有の変速マナーも心地よい。996世代のキャラクターと相性がいいし、いやこのティップこそ、996世代のキャラクターを作り上げているともいえるだろう。
さらに、ポルシェの信頼性の高さもこの車の魅力のひとつだ。
高性能でありながらメンテナンス性に優れ、現在でも多くの個体が健在だ。セカンドハンドの市場でも一定の人気を保ち、その希少性から価値が上がり続けている。
ポルシェ911ターボ(996型)は、単なる車ではなく、時代を超えた芸術品のような存在だと思う。
このクルマの鍵を手にしたとき、誰もが特別な感覚を味わうはずだ。ましてやテスト車のように、特別なカラーリングだったらなおさらだろう。
世の中にはそんな車と運良く出会ってしまう人がいることを、わたしは知っている。
SPEC
ポルシェ911ターボ
- 年式
- 2003年式
- 全長
- 4435mm
- 全幅
- 1830mm
- 全高
- 1295mm
- ホイールベース
- 2350mm
- 車重
- 1580kg
- パワートレイン
- 3.6リッター水平対向6気筒ツインターボ
- トランスミッション
- 5速AT
- エンジン最高出力
- 420ps/6000rpm
- エンジン最大トルク
- 560Nm/2700-4600rpm
- タイヤ(前)
- 225/40ZR18
- タイヤ(後)
- 295/30ZR18