ベントレー・ベンテイガ6.0(4WD/8AT)拝啓、1990年代の新幹線車中より

ベルベットのような触感のW12。シルキーシックスという表現があるなら、トゥエルブの場合シルクが倍なわけだが、そうではなく、「シルクベルベット」ということだろう。

ベルベットのような触感のW12。シルキーシックスという表現があるなら、トゥエルブの場合シルクが倍なわけだが、そうではなく、「シルクベルベット」ということだろう。

思いついたのは新幹線の中

“その人”がW12エンジンを思いついたのは新幹線の中、だったらしい。90年代のことだ。

自社のコンパクトな狭角V6エンジンを2つ組み合わせた12気筒エンジン=W12は当初、ジウジアーロデザインのスーパーカーW12ナルドに積まれて速度記録にも挑戦したが、結局、市販されることはなかった。

V6×3のW18というさらに大胆なアイデアが生まれ、それを“その人”は超高級ブランド、彼のイメージとしてはロールスロイス、に積もうと考えた。

ベントレー・ベンテイガ6.0(4WD/8AT)拝啓、1990年代の新幹線車中より

結果的に手に入ったのはロールスではなくベントレー。“その人”はすぐさま方針を転換し、フランスの名門ブガッティブランドを取得。

W18は市販への課題が大きすぎるとみるや、W8×2のW16を新たに開発し、ヴェイロンに積んだのだった。

ちなみにW12もW18も共にコンセプトカーの世界プレミアは東京だった。“その人”の日本贔屓も大いに偲ばれる。

ベントレー・ベンテイガ6.0(4WD/8AT)拝啓、1990年代の新幹線車中より

以上がVW製W12エンジンのざっくりとした物語であり、“その人”とはもちろん、かの故フェルディナント・ピエヒ博士であった。

惜しむらくはそんなW型エンジンも今や最新モデルのスペック表上で見つけることは叶わない。ベントレーはこの秋、W12エンジンを積む最後のクルマを生産した。W16を積んだヴェイロンの後継モデルであるシロンもまたモデルチェンジし、最新のブガッティトゥールビヨンにはV16が積まれている。

ポルシェの孫が作ったW型エンジン。自動車史に残る名機が今ならまだ、いろんなモデルのなかから見つけることができる。しかもかなりリーズナブルに。ベンテイガもまたピエヒのW12を味わうには今、格好のモデルだと思う。

ベントレー・ベンテイガ6.0(4WD/8AT)拝啓、1990年代の新幹線車中より

大きくても小さくてもダメ

ベンテイガの堂々たる、けれどもスポーツネスの感じられるバランスの良いスタイルには、何度見ても感心させられる。

標準ボディの他にエクステンドも存在するが、取材車両は標準で、それでも十分に立派。ちなみに簡単に見分ける方法はドアの下辺長が前後で同じなのがロングである。つまりリアドアがかなり大きい。

スーパーカー乗りの友人にもベンテイガをデイリーユースに使う人が多い。なかでも印象的だったのがモナコに住む友人のひとことで、「これより大きくても小さくてもダメなんだ」。あの狭くて小さい国でも良いサイズ。それは物理的にも精神的にもそう、ということなのだろう。

ベントレー・ベンテイガ6.0(4WD/8AT)拝啓、1990年代の新幹線車中より

惚れ惚れとする内外装のコンビネーションカラーもまたベントレーの中古車を探すときの醍醐味だ。なんだろう、新車でオーダーすれば好きな組み合わせをいくらでも手に入れることができるというのに、中古車で自分好みを見つけたときの感動の方が大きい。宝探しに似ているのかも知れない。

京都の街を走り出す。モナコの友人の言葉を思い出す。確かにちょうど良いサイズだ。そのうえ、W12エンジンの豊かなトルクがクルマのサイズを、走っている間だけ、もう一回り小さく感じさせてくれる。だから、込み入った京都の路地でもためらうことなく入っていける。

よくできた乗用車。もしくは、実用車の最高峰。わかりやすく言ってしまえば、そんなところだろうか。

ベントレー・ベンテイガ6.0(4WD/8AT)拝啓、1990年代の新幹線車中より

本当にW12が似合っている

それにしてもW12エンジンのスムースさは単に心地よいを超えて官能的ですらあった。

エンジンフィールに触感があったとすれば、W12のそれはベルベットに違いない。極めて滑らかで、そのうえちょっとエロティックで...。

ブランドにW12を超えるV8+モーターユニットが出てきた今となっても依然、その加速フィールは現役バリバリである。しかも十二分に速いにも関わらず、決して暴力的ではない。絶妙にセッティングされている。

ベントレー・ベンテイガ6.0(4WD/8AT)拝啓、1990年代の新幹線車中より

もちろん思い切り踏めばかなりスリリングに走ってくれるが、なぜかV8ほどのバイオレンス、突拍子の無さ、を感じない。やはりエンジンの回転そのものが上品だからだろうか。アグレッシブではないのだ。そこが良い。

ベンテイガに限らず、モダンベントレーには本当にW12が似合っている。

そりゃそうだ、初代のコンチネンタルGTに積まれていたのが自然吸気の6リットルW12だった。あのカタチとこのエンジンで今のベントレーというブランドの方向性が決定づけられたのだから。

ベントレー・ベンテイガ6.0(4WD/8AT)拝啓、1990年代の新幹線車中より

見栄えも乗り味も恐ろしく趣味のいいベンテイガW12に乗りつつ、しばらくは豊富に出回るであろうW12搭載のベントレー中古車をじっくり探して、自分の想像を超えるような、もし自分が新車でオーダーする立場であっても思いつかないか決める勇気のないようなコンフィグレーションの個体を探してみるのも面白いと思った。

思いつかないコンフィグを見つけ出す。

それこそ中古車探しの醍醐味であり、リアル宝探しではないか!

SPEC

ベントレー・ベンテイガ6.0

年式
2016年式
全長
5150mm
全幅
1995mm
全高
1755mm
ホイールベース
2995mm
車重
2530kg
パワートレイン
6リッターW型12気筒ツインターボ
トランスミッション
8速AT
エンジン最高出力
608ps/5250~6000rpm
エンジン最大トルク
900Nm/1250~4500rpm
タイヤ(前)
285/40ZR22
タイヤ(後)
285/40ZR22
  • 西川淳 Nishikawa Jun

    マッチボックスを握りしめた4歳の時にボクの人生は決まったようなものだ。以来、ミニカー、プラモ、ラジコン、スーパーカーブームを経て実車へと至った。とはいえ「車いのち」じゃない。車好きならボクより凄い人がいっぱいいらっしゃる。ボクはそんな車好きが好きなのだ。だから特定のモデルについて書くときには、新車だろうが中古車だろうが、車好きの目線をできるだけ大事にしたい。

    著者の記事一覧へ

メーカー
価格
店舗
並べ替え