メルセデス・ベンツS300hロング(FR/7AT)ディーゼルとハイブリッドと旗艦

ビジネス企画で異業種の異色コラボというものが意外なヒットにつながることがある。名車×ディーゼル×ハイブリッド。これを自社で企画出来る所がメルセデスの凄さなのだ。

ビジネス企画で異業種の異色コラボというものが意外なヒットにつながることがある。名車×ディーゼル×ハイブリッド。これを自社で企画出来る所がメルセデスの凄さなのだ。

自動車史を語るときに

Sクラス。自動車史を語るとき、この名を避けて通ることはできない。

メルセデス・ベンツのフラッグシップにして、あらゆる高級車の指標たる存在だ。そして今回、私はS300h、W222型のステアリングを握ることになった。

ハイブリッドモデルとして登場したこのクルマは、ディーゼルと電気モーターの協奏による"新時代"の一章を静かに、しかし確実に綴り始めた。

メルセデス・ベンツS300hロング(FR/7AT)ディーゼルとハイブリッドと旗艦

運転席に腰を落ち着けると、まず目を引くのは広がる"現代のサロン"とも称すべき空間だ。シートに身体を沈めれば、柔らかなレザーがまるで高級ホテルのラウンジチェアのように身体を包み込む。

目の前に広がるデジタルディスプレイは無機質さを感じさせず、現代的なテクノロジーと古典的な優雅さが見事に融合している。

質感の高いウッドトリムは陽の光を受けると、表面に微かな陰影を生み、その姿はまるで職人が仕上げた芸術品のようだ。

メルセデス・ベンツS300hロング(FR/7AT)ディーゼルとハイブリッドと旗艦

ボタン一つでエンジンが目覚める。いや、"目覚める"という表現はふさわしくない。気がつけば、もうクルマは息をしている。ディーゼルと電気モーターが紡ぎ出す"静寂"の世界。

アクセルをそっと踏み込むと、街がゆっくりと動き出し、自分が中心にいるような錯覚を覚える。エンジン音もロードノイズも、まるで別の次元に追いやられたかのようだ。この世の"騒音"とは無縁の領域が広がっている。時折、窓の外の風景が遠く感じるほどに、その静けさは別格だ。

しかし、アクセルを少し深く踏めば、ディーゼルターボが確かな鼓動を感じさせる。トルクが一気に立ち上がり、しなやかに車体を押し出す。

その瞬間、まるで風を従える船のように、S300hは優雅に、そして力強く道を切り拓いていく。この二面性がS300hの真骨頂だ。都市の喧騒を滑るように抜けていくこのクルマは、"ラグジュアリーとは何か"を教えてくれる。

メルセデス・ベンツS300hロング(FR/7AT)ディーゼルとハイブリッドと旗艦

浮遊する雲の上を進む

走り出してすぐに、W222の"しなやかな脚"を感じる。メルセデス・ベンツ伝統のエアマティックサスペンションが、路面とクルマの間に見えない"クッション"を敷いたかのようだ。

大小の凹凸を飲み込み、わずかな揺れすらも穏やかにいなす。その感触は浮遊する雲の上を進んでいるかのようで、乗る者に現実世界のざらつきを忘れさせる。

だが、ただ柔らかいだけではない。ステアリングを切れば、その挙動は驚くほど正確だ。わずかな舵角に対しても、車体は応えるかのように一体となって曲がっていく。あれほど大きなボディが、まるで意思を持つかのように素直に動く。この安定感と一体感は、"大型セダン"という枠組みを超え、まさに"Sクラス"の走りだ。

メルセデス・ベンツS300hロング(FR/7AT)ディーゼルとハイブリッドと旗艦

そして、心臓部のディーゼルとモーターの組み合わせが、走りにさらなる奥行きを与えている。

2.2リッターのディーゼルターボが発するトルクは頼もしく、それを電気モーターが滑らかにアシストする。発進時の力強さ、巡航時の穏やかさ、アクセルを戻してもスムーズに減速するその感触。

S300hは、エコを押し付けるのではなく、あくまで"自然"な形で高効率を実現しているのだ。

メルセデス・ベンツS300hロング(FR/7AT)ディーゼルとハイブリッドと旗艦

例えば、信号待ちからそっと発進する時、ほとんど音もなくスルスルと進んでいく。

それは、"重さ"という物理法則すら忘れさせる滑らかさだ。そして、高速道路では一転、ディーゼルのトルクが躍動し、車体が地面に吸い付くような安定感を見せる。

モーターとエンジンの"絶妙な協調"が、ドライバーに驚きと安堵を同時に与える。ハイブリッドという技術が、ここでは新たな走りの"哲学"に昇華されている。

メルセデス・ベンツS300hロング(FR/7AT)ディーゼルとハイブリッドと旗艦

ひとつの答えを示した

走るほどに、このクルマの"静かな主張"が聞こえてくる。S300hは、あえて目立とうとしない。けれどもその佇まい、走り、そして存在感は、まぎれもなく"特別"なのだ。

ラグジュアリーセダンにディーゼルハイブリッドという選択肢を用意するのは、少々意外に思えるかもしれない。だが、W222型Sクラスにおいてそれは見事に正解だった。

WLTCモードで約20km/Lという燃費性能は、驚異的な数値だが、それがすべてではない。重要なのは、その燃費があくまで"自然体"の走りから生まれているということだ。

メルセデス・ベンツS300hロング(FR/7AT)ディーゼルとハイブリッドと旗艦

このクルマに乗っている限り、無理にエコを意識する必要はない。アクセルを踏めば力強く、離せば穏やかに。余裕ある動力性能と高効率が、ドライバーにも同乗者にも、静かな安心感をもたらすのだ。

そして、その背景にはメルセデス・ベンツが積み重ねてきた技術と哲学がある。

また、S300hには最新鋭の安全装備が惜しみなく投入されている。アクティブディスタンスアシストやレーンキープ機能が、ドライバーをしっかりとサポートし、疲労感を和らげる。その半自動運転技術は、もはや"運転"という行為を別次元へと導いているのだ。

メルセデス・ベンツS300hロング(FR/7AT)ディーゼルとハイブリッドと旗艦

試乗を終え、静かにエンジンを切ったとき、その余韻が心に残った。

S300hは華美な装飾や派手なパフォーマンスを必要としない。それでいて、確かな"未来"を感じさせる一台だ。ラグジュアリーカーの頂点として、そして持続可能な時代の象徴として、S300hはひとつの答えを示している。

それは、革新と伝統が美しく交錯する、現代の"Sクラス"という物語なのだ。

SPEC

メルセデス・ベンツS300hロング

年式
2016年式
全長
5150mm
全幅
1915mm
全高
1495mm
ホイールベース
3035mm
車重
2170kg
パワートレイン
2.2リッター直列4気筒ディーゼル+ターボ
トランスミッション
7速AT
エンジン最高出力
204ps/3800rpm
エンジン最大トルク
500Nm/1600~1800rpm
モーター最高出力(後)
27ps
モーター最大トルク(後)
250Nm
タイヤ(前)
245/45R19
タイヤ(後)
275/40R19
  • 上野太朗 Taro Ueno

    幼少から車漬け。ミニカー、車ゲーム、車雑誌しか買ってもらえなかった男の末路は、やっぱり車。今、買って買って買ってます。エンジンとかサスとか機構も大事だけれど、納車までの眠れない夜とか、乗ってる自分をこう見られたいとか、買ったからには田舎に錦を飾りにいきたいとか、そんなのも含めて、車趣味だと思います。凝り固まった思想を捨てたら、窓越しの世界がもっと鮮やかになりました。

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