SUVとミニバンが王座を巡って熾烈な争いを繰り広げる昨今。約30年も前にミニバンというジャンルにおいて、片鱗を見せていた日産の名車を令和の今、道路上で検証する。
大胆な2ボックスデザイン
パールホワイトのボディに当時としては大胆な2ボックスデザイン。四角い顔と背の高いボディラインが醸し出すのは、なんとも言えないレトロフューチャー感だ。
平成初期のプロポーションは、今見るとむしろ"新鮮"に映る。
ボンネットは短く、ウエストラインは潔く水平。室内空間を最大限に生かすべくデザインされたシンプルなボディだが、現代のクロスオーバーSUVと並べてみても、その機能美は引けを取らない。むしろ、これこそがミニバンの本質ではないかとさえ思わせる。
目を引くのは、左右に大きく開くリアドアだ。
当時はまだスライドドアが一般的ではなく、この観音開きスタイルは異端とも言えたが、その思想は明確だ。「室内空間へのストレスフリーなアクセス」。
今、電動スライドドアやオートステップが当たり前の時代にあっても、この潔さは評価すべきだろう。
ルーフは高く、フラット。運転席に乗り込むと、その視界の広さに驚かされる。
まるで小さなバスの運転席のようだ。広々としたフロントガラスと四角いボディの恩恵で、車両感覚が掴みやすい。
これは昨今の複雑なシルエットのミニバンにはないアドバンテージだ。
「スポーティなミニバン」
キーをひねり、2L直列4気筒エンジン(SR20DE)が目覚める。今や"名機"とも称されるこのエンジンは、当時のファミリーカーとしては力強いパワーユニットだ。低回転域からのトルクは十分で、街乗りでの扱いやすさは今でも通用する。
アクセルを踏み込むと、軽快な加速が始まる。4速オートマティックは現代の多段ATには及ばないものの、シンプルかつ素直なフィーリングが心地良い。
最近の過剰なまでの電子制御に慣れた身には、このダイレクトな反応がむしろ新鮮だ。
高速道路に入っても、安定感は意外なほど高い。
直線ではエンジンの息の長さを感じ、80km/hからの追い越しもストレスが少ない。少々硬めの足回りが功を奏し、ロールも適度に抑えられている。
今で言う「スポーティなミニバン」という表現が、当時のプレーリージョイにはよく似合う。
だが、現代のクルマとの決定的な違いは"静粛性"だろう。
エンジン音、ロードノイズ、風切り音――それらがダイレクトに車内に伝わる。この"生々しさ"をどう感じるかはドライバー次第だが、ここに私は"機械を操る楽しさ"を見出した。
クルマが持つべき機能を提案
プレーリージョイが現代においても評価されるべき最大のポイントは、その"使い勝手"にある。室内は広く、まさに家族のリビングルームだ。
後席へのアクセスは抜群。チャイルドシートを取り付ける際にも、身体を屈めずに済む。このシンプルな「優しさ」が、今も色褪せない魅力だ。
二列目シートはリクライニング機能こそ限定的だが、足元スペースは十分。シートアレンジによってラゲッジスペースを広げることも可能で、大きな荷物を載せても不満は感じない。
運転席から見るインパネ周りは、今となってはアナログ一辺倒だが、視認性は非常に良い。
スイッチ類も物理的で分かりやすく、手探りでの操作が容易だ。
便利なタッチパネルもなければ、スマートフォン連携もない。だが、そこに不便を感じることはない。家族の笑顔と一緒なら、それでいい――そんな思想がこのクルマからは伝わってくる。
最後に、この車に乗りながら考えたのは「未来とは何か」ということだ。
日産プレーリージョイは、30年も前に今の時代のクルマが持つべき機能を提案していた。シンプルで無駄がなく、人に優しい設計。
デザインや静粛性こそ時代の波に取り残されたかもしれないが、その本質的な価値は何一つ失われていない。
SPEC
日産プレーリージョイ
- 年式
- 1997年式
- 全長
- 4545mm
- 全幅
- 1690mm
- 全高
- 1680mm
- ホイールベース
- 2610mm
- 車重
- 1410kg
- パワートレイン
- 2リッター直列4気筒
- トランスミッション
- 4速AT
- エンジン最高出力
- 145ps/6400rpm
- エンジン最大トルク
- 178.5Nm/4800rpm
- タイヤ(前)
- 195/65R14
- タイヤ(後)
- 195/65R14