同世代のB5より大きな排気量で、同世代のM5より快適なトランスミッションで。乱暴な足し引きをすれば、5シリーズに大排気量+オートマの安楽さを求めるならこれ一択。
アグレッシブなスタイル
BMW 5シリーズ、5代目E60型。そのデザインは登場時から大きな話題を呼んだ。
クリス・バングルが手掛けたアグレッシブなスタイルは、従来のBMWデザイン哲学を大胆に刷新したからだ。
鋭いラインが織りなすボディは、エレガンスと野性味を同居させ、見る者に強い印象を与える。
それでいて全体的なたたずまいは、控えめ。きちんとまとまっている。破綻していない。
特にヘッドライトとキドニーグリルの融合が生むフロントフェイスは、いまの5シリーズのデザイナーに見てほしいソリューションだと思う。
車内に入ると、BMW特有の「ドライバーを中心に据えた哲学」が随所に感じられる。ほどよく傾斜したセンターコンソール、適切な位置に配置された操作系、そして包み込むようなレザーシート。ドライバー中心の設計だ。
豪華さと機能性をこの時代としては見事に調和させている。素材や仕上げにも妥協がない。
デザインの挑戦と、BMWらしい洗練が見事に共存していることに今の時代でさえ驚かされる。
なめらかに前方へ進む
550iの心臓部には、4.8リッターのN62B48型V8エンジンが搭載されている。
このエンジンが放つ最大出力367psと490mのトルクは、単なるスペック以上のものを手元、足元、そして、耳にもたらしてくれる。
キーを回した瞬間、フォンとひと吠えした後、アイドリング音が低く響く。
アクセルをそっと踏み込むと、550iはなめらかに前方へ進む。これだけで「見事!」と喝采を送りたくなるくらいに、密な所作。
そこからトルクの厚みが低回転から高回転まで途切れることなく続く。
特に中高速域での加速にうっとりする。エンジンの咆哮は単なる音ではなく、美しい重音として耳に届く。このエンジンのためだけにお金を払ってもいいと思えるくらいだ。心の底から。
ステアリングフィールは極めて正確。適度な重みと高い応答性が相まって、車との一体感を感じさせる。
大型セダンでありながらスポーツカーらしい。今となっては小さくさえ感じる車体は、適度な重さとともに、思い通りに動かせる。
考え抜かれたリッチさ
E60型550iは、スポーツ性能を追求する一方で、長距離ドライブに必要な快適性も抜群だ。
サスペンションは硬すぎず柔らかすぎず、路面の凹凸を適切かつ、やわらかく吸収してくれる。
いまの技術では、20インチであろうが、21インチであろうが、初期の「アタリ」こそあれ、適切に処理してくれるけれど、いっぽうでこのサイズのタイヤがもたらす、愛おしい乗り味もやみつきになる。これで十分ではないか、とさえ思う。
車内の静粛性は非常に高く、高速道路でもストレスを感じることはほとんどない。
アクセルを強く踏み込んだ瞬間のみ、V8の力強い咆哮が室内に響き渡る。
このころの高級セダンに期待される装備がすべて揃いながら、どこまでも「駆けぬける歓び」に重点を置いている。
この車を買えば、BMWの目指していたことをピュアに感じ、この頃の考え抜かれたリッチさを再解釈できる。
本当の高級車って、こういうことだよなと、ストンと腑に落ちた。
SPEC
BMW 550i
- 年式
- 2006年式
- 全長
- 4855mm
- 全幅
- 1845mm
- 全高
- 1470mm
- ホイールベース
- 2890mm
- 車重
- 1810kg
- パワートレイン
- 4.8リッターV型8気筒
- トランスミッション
- 6速AT
- エンジン最高出力
- 367ps/6300rpm
- エンジン最大トルク
- 490Nm/3400rpm
- タイヤ(前)
- 245/40R18
- タイヤ(後)
- 245/40R18