マセラティ・グランカブリオ・スポーツ(FR/6AT)依存性に要注意

マセラティ・グランカブリオ・スポーツ(FR/6AT)依存性に要注意

マセラティ・グラントゥーリズモのオープンエアタイプ「グランカブリオ」。自然吸気のV8や6速AT、そしてオープン。こんな甘美な車が他にあるのか…。ため息のでるもはや芸術作品。

グランカブリオという芸術作品

マセラティ・グラントゥーリズモを目の前にしていつもハッとする。クーペ・ボディの車は世の中に数あれど、ここまで均整のとれた車は他にない。

以前執筆した試乗記で、アストンマーティンV8ヴァンテージのことを「後継車を困らせる美しさ」といった趣旨のことを述べた。間もなく発表されるであろうグラントゥーリズモ後継もまた、かなりのプレッシャーを感じていることだろう。

その美しさの理由として考えられるのが、前後に伸びやかなピニンファリーナが描いたボディだ。2007年、同社の大型セダン「クアトロポルテ」を基本に、ホイールベースを125mm縮めて設計された全長4910mmのボディは、いわゆる「ロングノーズ・ショートデッキ」と呼ばれる、スポーツカーの黄金比をそのまま取り入れているといえよう。

それでいてマセラティ伝統のグリルやフェンダー横の3連ダクト、オリジナリティの高い前後ライトなど、他のどの車とも似つかわない要素が散りばめられる。

もう15年前の車であるのに、だけど色褪せないのはそういったディテールが理由になっているのだろうと思う。

クーペのデビューから遅れること2年。カブリオレが加わる。電動の幌を閉めた状態で真横から見る。これがまた美しい。

クーペボディにはあるCピラーのトライデントは諦めなければならないけれど、それが何だと言えるほどの、遜色ないシルエットに息を呑むのであった。

パワートレインとミッションは

マセラティ・グラントゥーリズモのことをあまり詳しくない向きにとって、調べれば調べるほどゴチャゴチャとして感じるのはパワートレインならびにトランスミッションについてであろう。

同じ6速なのに、オートマティックがあり、シングルクラッチのロボタイズドMTがあり…。同じV8なのに、排気量や出力の違いがあったり…。

おさらいすると、2007年のデビューから2019年生産終了まで下記のバリエーションが時代やグレードによる組み合わせによって選べた。

パワートレイン(いずれもV8)
・4.2リッター(405ps/460Nm)
・4.7リッター(440ps/490Nm)
・4.7リッター(450ps/510Nm)
・4.7リッター(460ps/520Nm)

トランスミッション
・6速オートマティック
 (前後重量配分49:51)
・6速ロボタイズドMT(MCシフト)
 (前後重量配分48:52)
 ※エンジンと一体だったトランスミッションを、デフに移設した、いわゆる「トランスアクスル化」による配分変化。

今回試乗するモデルは、いわゆる最終モデルにあたり、4.7リッターV8エンジンと6速オートマティックを組み合わせる。

それらの組み合わせが、この後の試乗で光ることになるとは思っていなかった。

「いい音」の理由を分解しよう

年式は2019年といえどもエンジンスタートはアナログ。物理的にキーをステアリングコラムに挿入してひねる。

エンジン回転が一瞬の盛り上がりをみせた刹那、これが「いい音」なのだ。

いきなりスポーツモードにすると、さらにその「いい音」は、音色に倍音が重なり、にわかに音量も大きくなる。

この「いい音」を分解して考えてみると、車速に対する盛り上がり、いやもっと根本まで考えると、アクセルを踏む力に対する加速の比例など、すべての調和がなせる技だと筆者は感じている。

たとえば想像してほしい。いわゆる直管マフラーをエンジンに突きさした、ひと昔前のやんちゃなバイク。

傍から見て心地よくないのは、その近所迷惑な音量はもちろんのこと、進むスピードよりも遙か先に音が進んでいるとでもいおうか…。速度と音のミスマッチが、ある種の心地悪さの理由になっている。

それがこのグランカブリオ。アクセルをじわりと踏んだ感触と、それにともなう車速変化(もっといえばリアにグッとトルクがかかった際の姿勢変化も)、そして速度に対する音の盛り上がり。

すべてに対する一体感こそが「いい音」を確かなものにしているのである。

天に上るような快楽。今後こんな音の車が出てくることは、もうないだろうな…。

この「いい音」だけのために、500字も書いてしまった…。他の部分は?

快楽と背徳 強い依存性に注意

快音響かせる自然吸気V8エンジンに目が行きがちなものだが、グランカブリオの動的性能には嫌なところがない。

その理由に先述の前後バランスがある。ほとんど前後均等な重量配分のおかげで、今回の試乗で走った比較的タイトなコーナーが連続する峠道でも、急に動きが破綻したり、ここぞと言うときに物足りないと思うことはほとんどなかった。

もちろん体躯が体躯なだけに、ひらひらと舞うようなコーナリングは難しい。けれど前後にのびやかなボディなりの、優雅で卒のない動きをする。

だから例えば箱根の温泉旅館に行って、途中の峠道で嫌になったりすることはない。それどころか帰りの東名高速で、海老名あたりの大渋滞に悲しむこともない。パーシャルスロットルでさえ響き渡る音を楽しめるのだから。

上まで回してどうこうとか、コーナーで飛ばしてどうこうを細かく突き詰めるのではなく、アイドリング+α〜4000rpmで、出来る限り低いギアを積極的に選びながらゆったりと流す。

何よりグランカブリオは幌を全開にして、しかも6速オートマティックのおだやかな変速に身を任せる快楽がある。

一般的には、車は工業製品だから、何か突出するところがあれば、諦めなければいけない箇所がある。(すべてを諦めなければならない車も少なからずある)

けれど、デザイン、音、そして卒のない走り、全てがこの車には備わっている。

この類の快楽には背徳感が伴う。この背徳感が快楽の理由にもなる。マセラティ・グランカブリオ。強い依存性に要注意だ。一度手にすると抜け出せまい。

SPEC

マセラティ・グランカブリオ・スポーツ

年式
2019年
全長
4910mm
全幅
1915mm
全高
1380mm
ホイールベース
2940mm
トレッド(前)
1590mm
トレッド(後)
1590mm
車重
2070kg
パワートレイン
4.7リッターV型8気筒
トランスミッション
6速オートマティック
エンジン最高出力
460ps/7000rpm
エンジン最大トルク
520Nm/4750rpm
サスペンション(前)
ダブルウィッシュボーン
サスペンション(後)
ダブルウィッシュボーン
タイヤ(前)
245/35 ZR20
タイヤ(後)
285/35 ZR20
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