あまり馴染みがないものに出会った時どう思考するか。「自分探しの旅」と若者が世界中を旅するように、多様性に触れ何かを探すということは自身の立ち位置を求めるのだ。
この子は何者なのか
このページで紹介するのは2代目ベクトラ。
いやあ困った。なにせ調べごとをしようにも資料がないのだから。運良く80kmほど走らせることができたので、乗った感触はしっかりと手元に残っているのだけれど、そもそもこの子は何者なのか…。ここを調べるのに苦労した。
とはいえなんとか資料をかき集めた。まずはベクトラの概要からご紹介したい。
徹頭徹尾「地味」だ
オペル・アスコナ(ご存知ですか?)の後継車種として生産されたのは1988〜2010年のたった22年。
3世代、7年、8年、7年と現役期間を過ごした。
セダン、ハッチバック(欧州のみ)のほか、1997年以降はワゴンも加わった。国によって、同じベクトラを名乗りつつも、オーストラリアではホールデンだったり、ラテンアメリカではシボレーとして売られていたのも特徴だ。
2代目ベクトラは1995年のフランクフルトモーターショーで発表された。
5ドア版のキャッチコピーは ―果たして実際はどうだったかは置いておいて― 「群衆の一歩先をいく」だった。
セダンとワゴンにはそれぞれ、1.8リッター、2リッター直4、2.5リッターV6が用意された。2001年には、2リッター直4→2.2リッターに、2.5リッターV6→2.6リッターへと拡大。
グレード名は、直4がGLとCD、V6がCDX。どのモデルにも4速ATが組み合わされた。
ボディサイズは全長が4480mm(ワゴンは4490mm)、全幅が1710mm、全高が1420mm。ホイールベースは2640mm。
直4とV6は外観でも違いがあり、タイヤサイズ、2本出しのマフラーが識別点だ(今後見比べることがあるとしたら)。また内装も、後者には少しばかりウッドパネルの加飾がつく。
とはいえ…である。ベクトラは、徹頭徹尾「地味」。と、思っていたが、実際は?
気がついたら私は…
実際も、ぱっとみるかぎり地味である。あまりにオーソドックスな3ボックス様。
真横から写真を撮って黒く塗りつぶしたら、99%は何の車かわからないのではないかと思うほどだ。
日産でもトヨタでもホンダでも、どんなエンブレムがついていても納得しちゃうかも。
そんななかでも気に入った点は3つ。ボンネットから続くミラーは個性的でいい。
またCピラーのグラスエリアも視界がよいので好き。またやっぱりオペルらしさともいえる、いかにも空気抵抗が小さそうな全体形状もいい。
乗り込むとやっぱり地味。同時に懐かしさが込み上げてくる。独特の香り、布シートの柄、座り心地…。あれ、ちょっと好きになり始めている? まさか…。
エンジンをかける。シフトレバーをコトコトと動かしてDにいれる。走り出すと、地味〜なエンジン音が車内に入ってくる。ドラマはゼロだ。
適切な重さのアクセルを適切に踏む。適切なスピードでベクトラは進む。ハンドルを切ってみる。切った分だけアストラは適切に曲がる。ザ・ふつう。「ふつう」に体を浸している。包まれている。
同時にこれが安心感につながっていることに気づく。両手足を広げて浮力の高い水にぷかぷか浮いているような感覚。
あれ、好きかも? と思ったのは、20kmちょっと走ったころだった。
わたしは日ごろ、エグゾーストノートだの、馬力だの、ゼロヒャクだの、見栄えだの、リセールバリューだの、そんなことばかりを気にして車に対峙してきた。
「車を知れば知るほど、価値観が狭まっていませんか?」。どこからともなく、そんな声が聞こえてきた気がした。
「あるいは車を知ったつもりになっているだけかもしれませんよ」。またどこからともなく声が聞こえた。
その声がベクトラのものだと気がついたのは80kmの行程が済んだころだった(錯乱)。
気がついたら私は、ハンコを押していた。私はオペルを買っていた。
誰かが作った価値観に乗っかる日々はもうやめよう。邪念を捨てて、真剣に車の本質に向き合おうと心に決めたのだった。
SPEC
オペル・ベクトラ
- 年式
- 1996年式
- 全長
- 4480mm
- 全幅
- 1710mm
- 全高
- 1420mm
- ホイールベース
- 2640mm
- 車重
- 1300kg
- パワートレイン
- 1.8リッター直列4気筒
- トランスミッション
- 4速AT
- エンジン最高出力
- 115ps/5400rpm
- エンジン最大トルク
- 170Nm/3600rpm
- タイヤ(前)
- 185/70R14
- タイヤ(後)
- 185/70R14