メルセデス・ベンツSL320(FR/5AT)恐らく永遠に色褪せぬ銀幕のメルセデス

当時どれだけの人がこのSLに憧れたことだろう。オープンで街に山に繰り出すには必然的に重いハードトップ置き場が必要で、それもある種の購入資格みたいなものであった。

当時どれだけの人がこのSLに憧れたことだろう。オープンで街に山に繰り出すには必然的に重いハードトップ置き場が必要で、それもある種の購入資格みたいなものであった。

シュポルト・ライヒト

SL。Sport Leicht。シュポルト・ライヒト。軽量スポーツカーを意味する。メルセデス・ベンツのなかでSLはオープンスポーツカーの最高峰に位置づけられる。

初代=W198の誕生は1954年だった。最初は誰もが知るガルウイングドア。1957年にはクーペの生産が終了。ロードスターに1本化された。

数々のレースで勝利をおさめたが、なかでもカレラ・パナメリカーナ・メヒコにおける勝利は印象的だった。

メルセデス・ベンツSL320(FR/5AT)恐らく永遠に色褪せぬ銀幕のメルセデス

2代目=W133はその後、1963年、ツーリングカーとしてのキャラクターを強めて登場した自社製4ATやパワステを装備していた。

筆者(上野太朗)はパゴダ・ルーフ付きの極上個体で400kmを走破する機会に恵まれたこともある。そのときの記憶と、今回のSL320の印象にも通ずる物があり、あとで書き記したいと思う。

3代目=R107 は、ミドルサイズのW114を下敷きにSクラス用エンジンを載せるという、ぜいたくな組み合わせだった。そのぶん重くなった。だからSLは、シュポルト・ライヒトから、ラグジュアリーの意味合いを強めることになった。

メルセデス・ベンツSL320(FR/5AT)恐らく永遠に色褪せぬ銀幕のメルセデス

そして今回の主役、18年ぶりにフルモデルチェンジした4代目=R129。

1989年〜2001年まで販売された。その後、5代目〜7代目(2024年時点で現行型)へと続くのだ。既に70年のヒストリー。

RESENSE(レセンス)編集部は既に、5代目と7代目の試乗をしているので、合わせてご覧いただきたい。

世界最高峰ロードスター

ときは1980年代半ば。3代目=R107系は、20年弱という期間、相変わらず作り続けられていた。市場の期待はおのずと高まった。世界最高峰ロードスターの跡継ぎはどうなるのだろう、と。

デビューした4代目=R129型は、ひとことで言って華やかだった。

ブルーノ・サッコが率いたデザインは、エッジと丸みが見事に融合され、先代+55mmの2515mmに達したホイールベースは、あきらかにSLのルックスを贅たくにした。

メルセデス・ベンツSL320(FR/5AT)恐らく永遠に色褪せぬ銀幕のメルセデス

1989年にジュネーブショーで発表された際は、500SL、300SLがラインナップされ、日本には前者が導入された。1993年には、600SL(V12)、280SL(L4)も追加導入された。

1994年にはモデル名とグレードを示す数字が入れ替わる。つまり◯◯◯SLはSL◯◯◯と表記されるようになった。

その後も、デザインや装備の変更が複数回実施された。

メルセデス・ベンツSL320(FR/5AT)恐らく永遠に色褪せぬ銀幕のメルセデス

さて、今回試乗するSL320の登場は1995年まで遡る。1997年にはASRが標準化された。1999年には2度目のマイナーチェンジが実施される。

SL320のエンジンは、M112型に置き換わる。排気量は3199ccのV型6気筒で、ボア×ストロークは89.9×84mm。耐久性も自慢のひとつだ。

外装はリアコンビネーションランプ、ドアミラーが小変更を受け、また内装はメーターやステアリングの形状変更が施された。タイヤサイズは1インチアップの17インチとなった。試乗車はそのファイナルモデルということになる。

メルセデス・ベンツSL320(FR/5AT)恐らく永遠に色褪せぬ銀幕のメルセデス

すべての調和がここに

1991年生まれの筆者にとって、この車のイメージはそのまま「バブル」というキーワードに結びつく。

物心つくころには、バブルという時代は終焉を迎えていたわけだが、それでも段差のついたテールライトや、ゆったりと作られたボディスタイルなど、すべてが贅たくに感じられるのだった。

極めつけは室内に置かれた「電話」。使い方なんて知る由もないけれど、しかし特別な時代背景を垣間見る、重大なディテールということができそうだ。

メルセデス・ベンツSL320(FR/5AT)恐らく永遠に色褪せぬ銀幕のメルセデス

いざ走り出すと、まずこの重厚感に驚く。すべての動作が、意味を物語ってくるかのようだ。

重い、だから間違えようがない。そうだ、この時代のメルセデス・ベンツ。安全神話という言葉が再び思い浮かぶ。

スピードにのると、別の一面が見えてくる。明らかに重みがあるのに浮遊している感覚といおうか。金庫の中に入って、(水ではなく)油の中で浮かんでいるような、安心感と心地よさ。

メルセデス・ベンツSL320(FR/5AT)恐らく永遠に色褪せぬ銀幕のメルセデス

どれくらい走っても疲れることはないだろう。この不思議な感覚は、先述の「パゴダ」に乗ったときとちっとも変わらない。

エンジンがどうこうとか、ハンドリングが、乗り心地がどうこうとか、そういった価値観とはかけ離れた、すべての調和がここにある。

最初のデビューから40年以上が経っていることが信じられない。このころのメルセデス・ベンツの味わいは、あるいは永遠に色褪せないのかもしれないとさえ思った。

メルセデス・ベンツSL320(FR/5AT)恐らく永遠に色褪せぬ銀幕のメルセデス

この個体に関していえば、いまは売り切れてしまったが、2000年前後、5万kmちょっと、新車みたいなコンディションで300万円台半ばだったと記憶している。

払ったお金で得るものについては、つくづく人それぞれの感受性によると思うのだけど、いやー、これは得るものが多すぎやしませんか…。

メルセデス・ベンツSLの歴史を丸ごと買っちゃうような感覚。オーナーさんが羨ましい。というかちょっと僻む。

SPEC

メルセデス・ベンツSL320

年式
2000年式
全長
4500mm
全幅
1810mm
全高
1295mm
ホイールベース
2515mm
車重
1690kg
パワートレイン
3.2リッターV型6気筒
トランスミッション
5速AT
エンジン最高出力
224ps/5600rpm
エンジン最大トルク
314.8Nm/3000~4800rpm
タイヤ(前)
245/45R17
タイヤ(後)
245/45R17
  • 上野太朗 Taro Ueno

    幼少から車漬け。ミニカー、車ゲーム、車雑誌しか買ってもらえなかった男の末路は、やっぱり車。今、買って買って買ってます。エンジンとかサスとか機構も大事だけれど、納車までの眠れない夜とか、乗ってる自分をこう見られたいとか、買ったからには田舎に錦を飾りにいきたいとか、そんなのも含めて、車趣味だと思います。凝り固まった思想を捨てたら、窓越しの世界がもっと鮮やかになりました。

    著者の記事一覧へ

メーカー
価格
店舗
並べ替え