マセラティ・クアトロポルテ(FR/6AT)広大な宇宙に、地球が存在するような奇跡

ある人はマセラティらしさを思い、ある人はフェラーリを想起。ある人は「とある映画」を連想し、またある人はピニンファリーナを讃える。5代目、伝説が詰まりすぎている。

ある人はマセラティらしさを思い、ある人はフェラーリを想起。ある人は「とある映画」を連想し、またある人はピニンファリーナを讃える。5代目、伝説が詰まりすぎている。

美しすぎるボディをまとう

1963年にデビューした、マセラティ・クアトロポルテ。6世代にわたって、特異な立ち位置を築き上げてきた。

いつの時代もレースフィールドゆらいのパワートレインを鼻先にねじ込み、美しすぎるボディをまとった。

初代のV型8気筒エンジンは、最高速230km/hに導いた。

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2代目は幻だった。シトロエンSMのシャシーにベルトーネデザインの4ドアボディが被せられたが、第一次オイルショックの不運と、V6エンジンの力不足が理由で、たった13台の受注生産に終わった。

3代目は、9年のブランクの末に登場する。

1979年デビューのこれは、デ・トマソの4ドアサルーン「ドーヴィル」の延長版を下敷きとし、4.2リッターならびに4.9リッターV8は、ビジネスユースの高速マシンとして受けた。5年間で1876台が市場投入された。

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1994年には4代目がデビュー。

マルチェロ・ガンディーニの手によって描かれたデザインの信奉者は多い。98年には、クアトロポルテ・エボルツィオーネも加わる。

そして5代目。この記事の主役だ。詳細は次項に示すことにしよう。

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日本人として誇らしい歴史

2003年9月。フランクフルト・モーターショー(第60回)で、5代目マセラティ・クアトロポルテが産声を上げた。

この頃、マセラティはフェラーリの傘下となり、ベルトーネ、ジウジアーロ、ガンディーニと続いた外装デザインは、ピニンファリーナとのタッグが半世紀ぶりに復活した。

何を隠そう、ケン・オクヤマ(奥山清行)がデザインした。

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日本人として誇らしい歴史に残る事実だと思えるのは、5代目クアトロポルテがあまりにも美しく、そして人気を博しているからだろう。

パワートレインはフェラーリF430とベースを同じくする、4.2リッターV型8気筒DOHC32バルブ自然吸気。

デビュー当初は、デュオセレクトと呼ばれるセミオートマティックトランスミッションをリアアクスル直前に置くトランスアクスル形式を採用した結果、前後重量バランスは47:53。

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のちにアメリカ市場を意識して、セミATに加えてトルコンATも加わる。

トリムレベルが増えたりと複雑になりつつあった展開は、マイナーチェンジ時に、クアトロポルテ/クアトロポルテS、クアトロポルテ・スポーツGT Sに整頓された。

クアトロポルテ・スポーツGT Sは、レセンス編集部でも試乗しており、その際の彩り豊かなキャラクターが、鮮明に蘇る。

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「高貴」だと感じるはずだ

今回テストするのは、2005年式のモデル。なんと「20年落ち」だ。

いっぽうマイレージは2.9万kmしか刻んでおらず、整備記録をみると、そのほとんどが正規ディーラーで実施され、クラッチ交換も市場に出る直前に完了していた。

いわゆる初期のモデルは、最終モデルを見慣れているわたしからすると、ツルンとした控えめな印象である。後からついた装飾はなく、デザイナーのスケッチブックからそのまま出てきたかのようだ。

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ボディカラーにも驚かされた。実物を見るまではグレーだと思い込んでいたけれど、日の当たる箇所によって、イエロー、グリーン、ブルー、パープルと、複雑なオパールのような色。

イタリア人にしか、こんな色は作れない。仮にドイツ人が真似したとしても似合う車はないだろう。

室内に乗り込んでも、ムンムンと香る革の香り、ウッドの華やかさにうっとりする。

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現行クアトロポルテだけを知っていれば、そちらはそちらで「高級」と思うだろうけれど、いちどこの5代目を知れば「高貴」だと感じるはずだ。

この、やんごとないかんじ。工業製品ではなく工芸品だ。

走り出すと、まず驚くのはエンジンサウンドだ。マセラティと聞くと、ラッパのような派手な高音をイメージするかもしれないが、初期型はそんなことがない。

音量は大きいけれど、排気音よりエンジン音。機械的な、しかし控えめで美しい旋律だ。

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乗り心地もいい。正確さよりも、ドラマを選んだハンドリングもマセラティらしい。

デュオセレクトによる変速も、コツを掴めば、心配よりむしろ操っていることによる楽しさが圧勝している。

クアトロポルテに抱くイメージは、この初期型を知ってなお、充実する。

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たぶん壊れるだろう。4枚もドアがあるのに、見た目ふつうのセダンなのに、ちょっくらコンビニにといったクルマでもない。

はかなく、あやうい。

けれど、このクルマを買う人がいれば、それだけでも称えられることだ。またこのクルマを一度でも所有したという事実が一生の宝物になるのだろう。

SPEC

マセラティ・クアトロポルテ

年式
2005年式
全長
5060mm
全幅
1895mm
全高
1440mm
ホイールベース
3065mm
車重
2030kg
パワートレイン
4.2リッターV型8気筒
トランスミッション
6速AT
エンジン最高出力
401ps/7250rpm
エンジン最大トルク
451Nm/4750rpm
タイヤ(前)
235/35R19
タイヤ(後)
285/35R19
  • 上野太朗 Taro Ueno

    幼少から車漬け。ミニカー、車ゲーム、車雑誌しか買ってもらえなかった男の末路は、やっぱり車。今、買って買って買ってます。エンジンとかサスとか機構も大事だけれど、納車までの眠れない夜とか、乗ってる自分をこう見られたいとか、買ったからには田舎に錦を飾りにいきたいとか、そんなのも含めて、車趣味だと思います。凝り固まった思想を捨てたら、窓越しの世界がもっと鮮やかになりました。

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