「クラウン」の6代目。家族の昔を知りたいと思うとき、接点が多いであろう父の時代よりも、近いながらどこか隔たりを感じる祖父の時代に興味が行く傾向があるということ。
クラウンは「純国産車」
1955年、初代トヨタ・クラウン(写真はトヨタ公式より)が誕生した。トヨタは「あらゆる意味において国産モータリゼーションのはじまり」と表現。「我が国の自動車業界へ大きな自信を与えた」と資料には綴られている。
この時代、いすゞはヒルマン、日産はオースティン、日野はルノーと提携し、ノックダウン生産(=他所で生産したパーツを現地で組み立て/販売する生産方式)していた。
いっぽうのクラウンは「純国産車」だった。
1962年には2代目(写真はトヨタ公式より)が登場。ボンネットとトランク面がフラットな「フラットデッキ・スタイル」を採用し、アメリカの風味を強くまとった近代的なルックスになった。
1967年には3代目(写真はトヨタ公式より)が登場する。テーマは「日本の美」。
オーナードライバーへ訴求するため、公用車や社用車のようなブラックから、自家用車らしいホワイトのカラーで各家庭にアピール。2ドア・ハードトップボディが加わったのもポイントだ。
そして1971年。日本経済は順調に推移。クラウンは4代目(写真はトヨタ公式より)となり、美しく丸みを帯びたスピンドルシェイプに生まれ変わる。
1974年には5代目(写真はトヨタ公式より)となる。吉永小百合の広告を覚えている方も多いだろう。4ドア・ピラード・ハードトップが加わる。オーバードライブ付き4速ATや車速感応型パワステなど高級装備が備わった。
ついにこの記事の主役、6代目(写真はトヨタ公式より)クラウンが1979年に登場する。立ち直りつつある日本経済。高級車として地位を築いていたころだ。
開発趣旨は「ゆとりと信頼性、静粛性に優れた車内、省資源」。ツートーンカラーの採用やターボ車の初投入など、この世代もニュースが盛り沢山だった。
それから現在は14代目。すべての代を追っていくと、原稿用紙がいくらあっても足りなくなってしまう。主役の6代目について掘り下げていこう。
クラウンというブランド
基本的に、いわゆる輸入車の世界で育ってきたわたしにとって、クラウンは「おじいさんの車」に思えた。
いつだってコンセプトは同じで保守的。しかし歴史を振り返ってみると、おのおのの世代に特徴をもちながらも(失敗も成功もあった)、クラウンというブランドは強く維持されているように思える(それってかなり難しい)。
そんななか6代目は、なかでもオーソドックスさを極めたデザインを身にまとう。当時を振り返る資料によると「(5代目の成功を受け継ぐためにも)絶対に失敗できなかった」という背景も垣間見える。
ウエッジシェイプでありながら前後に伸びやか。メッキも多くフォーマルだ。ボディ・バリエーションは、もちろん4ドアセダンを主軸としつつ、2ドア&4ドア・ハードトップ、ステーションワゴンが設定された。
これだけでも贅沢なのに、ヘッドランプの形状などそっくりそのまま差別化したりと、現代では考えづらいコスト投下がなされ、デザインが棲み分けられている。
取り寄せた当時のカタログを読むと、まず第一に大きな文字でこう書かれている。
「高級車は、みずからを語るとき、すべてに第一級の証しを示さなければならない」。
「高級車の価値、それは頂に立つ車だけが誇れる機能です。」
(中略)
「単に新しいだけでなく、新しい価値を生み出してこそ、変化は意味あるものとなる。」
(中略)
「新世代の高級車の新たな価値を込めて、絶対の自信をもってお送りいたします。」
最近はここまで文章をもって人にアプローチする製品も減った。いや、ここまで自信を文章に載せた製品もない。おのずと期待は高まるものだ。乗ってみよう。
実直に、そして揺るぎない
平成生まれの私にとって、この世代のクラウンを間近で見るのは初めてのことかもしれない。
思っていたよりも繊細で上品だ。ピンとしわが伸ばされたシャツのように、折り目はパネルをまたいで一直線につながる。
華奢なピラー、全身にまとったメッキ。自然とこちらも「いつも以上に注意深くたいせつに扱おう」と思いはじめる。
室内にお邪魔すると、高級ホテルではなく、国会議事堂みたいな静謐さ。靴を脱ぎたくなる。緊張はしないけれど明らかに異質な空間。でもどこかリラックスしている自分もいる。ふしぎだ。
張り巡らされたモケット生地には、日本語でていねいな注意書きが記されている。
そして手に触れられる部分は、上からピッタリとビニールが貼られている。どうやらこれは購入時に選べたらしい。いかにも日本的。「ていねい」なのだ。
ほっそりとしたシフトレバーを倒してアクセルを踏むと滑るように前に進む。エンジンは縁の下の力持ち。主張せずに、軽やかに車をすすめてくれる。
大きくてほっそりとしたステアリングは右に左に動かす必要もない。運転手は、行きたい方向を定め、あとはほんのちょっと入力するだけでいい。まるで車のほうから「あとはわたしがやっておきますので」と語りかけられているようだ。乗り心地もふわふわ。
奇をてらったところはまったくなく、実直に、そして揺るぎない執着をもって「高級車とはなにか」に向き合って作られたことが随所に伝わってくる。いいなあ。
車はいい。自分が乗っている姿はどう見られているだろう?
現代だからこそ、たとえミスマッチだったとしても成立しそうだ。最近「ちょっとハズシ」で、日本車のネオクラに乗る若い層が増えている。わたしの周りにも少なからずいる。
しかし諸君! せっかくならクラウンはどうだろう? ハズシがハズシじゃなくなる前に、新しい価値を生み出してみよう。誰かの真似は真のおしゃれではない。クラウンが真の国産高級車を追求したように、あなただって自分だけの価値を追求できるはずだ。
文:上野太朗(Taro Ueno)
SPEC
トヨタ・クラウン・スーパーサルーン・ターボ
- 年式
- 1983年式
- 全長
- 4860mm
- 全幅
- 1715mm
- 全高
- 1435mm
- ホイールベース
- 2690mm
- 車重
- 1430kg
- パワートレイン
- 2.8リッター直列6気筒ターボ
- トランスミッション
- 4速AT
- エンジン最高出力
- 145ps/5000rpm
- エンジン最大トルク
- 230Nm/4000rpm
- タイヤ(前)
- 205/70R14
- タイヤ(後)
- 205/70R14