アストン・マーティンDB11ヴォランテ(FR/8AT)これはハズシか、否、伝統か

英国流の着こなし、もっと言えば英国紳士の伝統的な装いは比較的暗めのイメージに思える。しかしアストンときたらどうだ、明度が正反対でもバッチリと様になるではないか。

英国流の着こなし、もっと言えば英国紳士の伝統的な装いは比較的暗めのイメージに思える。しかしアストンときたらどうだ、明度が正反対でもバッチリと様になるではないか。

クーペに勝るとも劣らず

モダンアストンの魅力の一つとして、クーペに勝るとも劣らずヴォランテ(オープン)も美しいという事実を挙げておきたい。

要するに悩ましい。私はいつも絶対オープンを買う派とか、屋根開きには乗らない主義で、といった方々はそんな悩みもないだろうからさておく。

そうではなくて「なんか最近アストン・マーティンって良いよね」と目先の変化を楽しんでみようと思ったような人たちにとって、悩ましい選択肢だと思うのだ。

アストン・マーティンDB11ヴォランテ(FR/8AT)これはハズシか、否、伝統か
アストン・マーティンDB11ヴォランテ(FR/8AT)これはハズシか、否、伝統か

久方ぶりにDB11ヴォランテと対面した。シルエットはほとんどクーペと変わらない。ソフトトップは薄く、見事なまでにクーペラインを再現できている。トップを観察するだけで時間が過ぎていく。妥協がないのだ。

当然のことながら、開けても美しい。閉じても開けても美しいとなれば、一粒で二度美味しいわけで、欲張りな筆者などはもうそれだけで(アストンの場合には)ヴォランテを選んでしまいそうだ。

英国流に言えば“ドロップヘッドクーペ”である。クーペも、スパイダーでも美しいDB11にこそふさわしい呼び方だと今更思ってしまう。

アストン・マーティンDB11ヴォランテ(FR/8AT)これはハズシか、否、伝統か

あえていずれかのスタイルに軍配を挙げるとすれば、やはりすっきりとしたオープンスタイルだろうか。やっぱり自分はヴォランテ派なのだろう。

インテリアからは“オープンだからじっくり見ていってください”と言いたくなるような色気が匂い立つ。

このあたり、もちろん新車で好みのコンフィグレーションをオーダーできるにこしたことはないのだけれど、中古でササッたときの痛快さも捨てがたい。

アストン・マーティンDB11ヴォランテ(FR/8AT)これはハズシか、否、伝統か

8気筒でも十分に官能的

V8エンジンはそれなりの爆音で目を覚ます。12気筒ほどの威圧感はない。けれども元気良さではV8の方が上だ。

実際のところ、パフォーマンススペックだけを見れば両エンジンのあいだに驚くほどの違いはない。それゆえこれもまた悩ましい点なのだけれど、あいにくヴォランテにはV8の設定しかなかった。

悲しむべきか、余計な悩みが減って喜ぶべきであろうか。個人的にはヴォランテにV12の設定があってもよかったと思っている。クルーザーなのだから…

アストン・マーティンDB11ヴォランテ(FR/8AT)これはハズシか、否、伝統か

それはともかく、パフォーマンス的にいってV12になんら劣るところはない、むしろ少しは鼻先を軽く感じるあたりでメリットさえあると思えば、もはや4気筒の差などどうでも良くなってくる。

オープンにして走らせていると、クローズド時よりノーズの動きが軽やかに思われた。

重量バランスの変化がそう思わせるのかもしれない。ボディはしっかりと補強されているから、頼りなく思うこともない。むしろ肩の力が抜けて心地良いと感じたほど。

アストン・マーティンDB11ヴォランテ(FR/8AT)これはハズシか、否、伝統か

V8ノートのシャワーを浴びて走る。

優雅なオープンカーには上等なエンジンが必要で、だからこそ12気筒も欲しいと思ったわけだけれど、この8気筒でも十分に官能的だ。ドライブしていると一角の人物になったような錯覚を覚える。

英国の上等モデルは人を作るのかもしれない。そういえばヴォランテを駆っているあいだ、気持ちが焦るということがなかった。

アストン・マーティンDB11ヴォランテ(FR/8AT)これはハズシか、否、伝統か

ずっとエレガントでもある

感心したのはトップを閉めて、つまりクーペ状態で走らせた時のライドフィールだった。

クーペに遜色ないと言っていい。スカットルシェイクはなく、実にクーペらしい。そうであるならば、もはやフィックスドヘッドを買う理由が見当たらなくなってしまう。

積極的にトップを開けない人だって楽しめるからだ。むしろカラーコンビネーションを楽しめるという点で、ソフトトップは面白い。ずっとエレガントでもあるし。

アストン・マーティンDB11ヴォランテ(FR/8AT)これはハズシか、否、伝統か

もっとも、自分がこのクルマに果たして似合っているのかどうか、クーペであればさほど気にしなくても、身体を曝け出すオープンの場合には、クルマとの関係性が衆目に晒され、同時に問われてもしまうような気がする。

逆にいうとアストンのオープンを乗りこなそうと思うような人は、よほど自分に自信があるのかもしれない。羨ましい限りだ。

そこでふと思い直す。英国車は人を作ってくれるのではなかったか、と。ならば多少気が引けるのも承知でヴォランテオーナーへの道を踏み出せば、付き合っていくうちに自分だってきっとふさわしい人間になれるんじゃないだろうか、とも思えてくる。

アストン・マーティンDB11ヴォランテ(FR/8AT)これはハズシか、否、伝統か

要するに懐が深い。これもまたアストン・マーティンの、否、モダンな英国ブランド高級モデルの、目には見えない大きな魅力の一つではなかったか。

そう考えると適度にパワフルで勇ましいエンジンと、適切にニンブルなハンドリング性能を備えたDB11 V8ヴォランテは、数あるDB11バリエーションの中で最も“美味しい”選択なのだと思えてきた。

ボディ、トップ、内装と好きなカラーコンビを奇跡的に見つけることができたなら…

文:西川淳(Jun Nishikawa)

SPEC

アストン・マーティン DB11ヴォランテ

年式
2019年式
全長
4750mm
全幅
1950mm
全高
1300mm
ホイールベース
2805mm
車重
1870kg
パワートレイン
4リッターV型8気筒ツインターボ
トランスミッション
8速AT
エンジン最高出力
510ps/6000rpm
エンジン最大トルク
675Nm/2000-5000rpm
タイヤ(前)
255/40ZR20
タイヤ(後)
295/35ZR20
  • 西川淳 Nishikawa Jun

    マッチボックスを握りしめた4歳の時にボクの人生は決まったようなものだ。以来、ミニカー、プラモ、ラジコン、スーパーカーブームを経て実車へと至った。とはいえ「車いのち」じゃない。車好きならボクより凄い人がいっぱいいらっしゃる。ボクはそんな車好きが好きなのだ。だから特定のモデルについて書くときには、新車だろうが中古車だろうが、車好きの目線をできるだけ大事にしたい。

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