ワークアウトなんて言いながらジムに行かず、この頃の全身で操るクルマを買ってみるのはどうだろう。車内では想像以上にスポーツしているかもしれない。まさに一挙両得だ。
徐々に近代化された
大衆車のベンチマークとも言えるフォルクスワーゲン・ゴルフ。今や第8世代まで受け継がれている。
今回の主役はゴルフII。それもGTIだ。
そもそもゴルフIIのデビューは1983年秋。ゴルフIからのフォルムは大まかに引き継がれつつ、各所が近代化された。といってもまだ三角窓はあったし、ドアミラーも古風なものの時代。マイナーチェンジを経て、徐々に近代化された。
GTIの日本への正規輸入が始まったのもこの世代から。SOHC 8バルブのGTIが登場したのちに、DOHC 16バルブが加わる。丸目ヘッドライトが左右2灯か4灯で見分けがつきやすい。
前者は通常モデルより15ps増しの105psを発揮。2ドア、5MT、左ハンドルのみの設定であった。タイヤは185/60 14インチ。
エアコンやパワステ、パワーウインドウや電動ドアミラーが標準で備わり、リアスタビライザーや強化ダンパー、スポーツマフラーなどが備わった。
ゴルフI GTIと同じく、バンパー外周には赤いストライプが入る。GTIの象徴にもなったのだった。
その後、複数回のマイナーチェンジを経て登場したのが、この記事の主役、GTI 16Vである。
いわゆる「4灯グリル」
1987年2月、まずは2ドアのみが導入される。最高出力は125psに到達。リップスポイラーは厚みを増し、ブレーキを冷やすために冷却ダクトが設けられた。
8か月後、10月には4ドアが加わる。グリルやエンブレムの位置が細かく変わり、いわゆる「4灯グリル」になる。
ブラック、ホワイト、ブルーメタリック、レッドの4色展開となり、さらにここから細かな変更を受けつつ成長していった。
89年にはブレーキが大きくなる。グレーメタリックも選べるようになった。
90年モデル(89年10月以降)はビッグバンパーに切り替わる。
集中ドアロックが備わるのもこの頃だ。この次点でホワイトとレッドが消滅した。
そして90年10月、91年モデルが最終MYとしてラインナップされる。シートの柄や形状、スピーカーの追加などがハイライト。
テスト車は89年式。
サスペンションが車高調整式の社外品に入れ替わり、フロントタワーバーが追加されている。排気系もワンオフ制作され、タイヤはミシュランのパイロットスポーツ3を組み合わせている。
純度の高まった「憧れ」
小さい。カクカクしている、軽い。令和の今、もっともつくれない車は、ゴルフIIみたいな車だろう。愛嬌もある。
元気なエンジンはビンビンと回り、抜けのよい乾いた音が響く。
ひょっとして硬いかなと思っていたアシは、ほどよい減衰力と強化されたボディのおかげでまろやか。手元に伝わってくる情報はリアルで、ステア操作の反応に脚色はない。
80年代の車ってこんなに「リアル」だったのだ。経験的にわかっていたつもりでも、実際に乗ると、ことさら強く感じる。
現代車に慣れきった身体のなまりにも気付かされる。「車を走らせている!」という実感。アドレナリンが湧き出す。
別物のモンスターと思っていたGTIは、ターボや電気に慣れていると、実際のところ大して速くもない。しかし一生懸命にシフト操作をしハンドルを切れば、体感的には実際のスピードより何十km/hも出ている感覚になる。スポーツしている。と思う。ちょっと汗をかいている。
「憧れのGTIを再び操れている」という充足感もあるのだろう。ピンと張った赤いストライプ、ゴルフボールみたいなシフトノブ、チェック柄のシート。
目に入ってくる、そして身体に触れるすべての情報は、長い時間を経て、さらに純度の高まった「憧れ」へと昇華されているようだ。
これを、今、手に出来るとしたら幸せである。今だからこそ、もっと幸せなのかもしれない。チャンスだ、と思うならば次のアクションは明らかに決まっている。
文:上野太朗(Taro Ueno)
SPEC
フォルクスワーゲン・ゴルフGTI 16V
- 年式
- 1989年式
- 全長
- 4050mm
- 全幅
- 1680mm
- 全高
- 1430mm
- ホイールベース
- 2475mm
- 車重
- 1060kg
- パワートレイン
- 1.8リッター直列4気筒
- トランスミッション
- 5速MT
- エンジン最高出力
- 125ps/5800rpm
- エンジン最大トルク
- 167Nm/4250rpm
- タイヤ(前)
- 195/50R16
- タイヤ(後)
- 195/50R16