アストン・マーティンDBSスーパーレッジェーラ(FR/8AT)己を時々かき乱せ

アストン・マーティンという響きにはどこか孤高なスポーツの香りと英国流のダンディズムたるイメージが付き纏う。目の前で貴方は萎縮しないだろうか、さてどう読み解く。

アストン・マーティンという響きにはどこか孤高なスポーツの香りと英国流のダンディズムたるイメージが付き纏う。目の前で貴方は萎縮しないだろうか、さてどう読み解く。

はっきりと破調的だ

互い違いにDBSとヴァンキッシュ。アストン・マーティンのFRフラッグシップモデル名としては今のところ、これら2種類の名が代わる代わる使われている。

12気筒存続が決まって、先だって発表されたフラッグシップがヴァンキッシュ。このDBSはその先代というわけだ。

最初の頃はスーパーレッジェーラと名乗っていた。後期モデルからはシンプルにDBS。単に商標の問題だろう。スーパーレッジェーラは一つのブランドとして復活しそう。それはさておき。

アストン・マーティンDBSスーパーレッジェーラ(FR/8AT)己を時々かき乱せ

ヴァンキッシュV12に始まったモダン・アストンの旗艦クーペは、いずれも長いノーズの下にV12エンジンを収めた上で、そのある意味“窮屈さ”をはちきれんばかりのグラマラスなスタイルで代弁させ、フード下に息づく古典的なマルチシリンダーエンジンの存在を誇示していた。

完全なる美しさに支配された8気筒モデルのクーペスタイルに比べて、だからDBSのそれははっきりと破調的だ。

フェンダーは不自然に張り出しては窪み、グリルは大仰この上なく、そのくせ灯火類は小ぶりである。美しいけれども野蛮だ。それをアストンの伝統と言われてもピンと来ないほど、たくましい。

アストン・マーティンDBSスーパーレッジェーラ(FR/8AT)己を時々かき乱せ

そもそもエレガントであるということは、個性が強く立ってこそはじめて成立するもの。

そういう意味ではDBSの確信的な見た目の破調所々破綻こそが、このクルマのエクステリアを魅力的なものに仕上げた要因であると言っていい。

美人は3日で飽きるというが、まさにその通りで、DBSのスタイルだけは何度見ても味わい深い。

アストン・マーティンDBSスーパーレッジェーラ(FR/8AT)己を時々かき乱せ

異質なオーラを発する

カーボンルーフがそれとなく異質なオーラを発する白いDBSスーパーレッジェーラ。

インテリアは濃いブルーでジュエリーパックを選択、ブルーのキャリパーを装備するなど、全体的に王道ながらセンスよくまとまった一台だった。

5.2リットルのV12ツインターボエンジンは相変わらず轟然と目を覚ます。今となっては懐かしいシフトセレクターボタンをしばし眺めて、おもむろにDを押した。

アストン・マーティンDBSスーパーレッジェーラ(FR/8AT)己を時々かき乱せ

この世代のアストンに座るといつもそう思っていたのだけれど、Dボタンを押すと何だか自分のヤル気スイッチも押したような気分になる。レバーやパドルでは、なぜかそんなふうには思わないものだ。

(街中だから)大して踏み込んでもいないのに、アストンのV12は低回転域でも存在感をあらわにする。

もちろんだからと言ってドライブに支障はなく、扱いづらいわけでもない。ただV12がすぐそこにありますよ、と乗り手に教えてくれているだけなのだ。

アストン・マーティンDBSスーパーレッジェーラ(FR/8AT)己を時々かき乱せ

そういえばイタリア製の12気筒クーペもそんな感じだったけれど、あそこまでドライバーを煽りはしない。

泰然か、狂気か。選ぶのはあくまでも乗り手であって、誰かに唆されて決めるものではないとクルマが言っている。英国生まれの高性能モデルの魅力はまさにそこだ。荒ぶる魂を隠しつつ装いは常に紳士的。もっともDBSやヴァンキッシュに限っていえば、その装いが少しだけアヴァンギャルドなのだけれど・・・。

盛大に唸るわりには実を言うと低回転域では少々重々しい、というあたりもまた、地に足のついたブリテッシュ的というべきか。

アストン・マーティンDBSスーパーレッジェーラ(FR/8AT)己を時々かき乱せ

欲望の火を焚きつける

精密機械の極致。それゆえ全てが整うまでに少し時間もかかる。

ドライバーがそのテンポに慣れるまでに時間を要するとでも言おうか。12気筒エンジンを普段から乗り回しているような人はさほど多くないわけで、その明確な違い、場合によってはネガティブ、こそ、そののちに感動へと変換されるための重要なステップであった。

節度を保って右足を動かしているうちに、期待感が高まっていくのが分かるだろう。音や振動、そしてコクピットの景色がそうさせる。もちろんアストン・マーティンのフラッグシップを自分は駆っているのだという自負心も、期待に酸素をふきつける。踏んでみたいという欲望の火を焚きつける。

アストン・マーティンDBSスーパーレッジェーラ(FR/8AT)己を時々かき乱せ

たまらずガバッと踏み込んだ。精密機械らしさは高回転域にこそ現れる。低回転域でも重々しさを吹き飛ばして余りあるような軽やかさだ。

不思議なことに、ひとたび高回転域まで回しそのフィールを味わったのちには、たとえ低回転域でも引き続き軽快にエンジンが回っているように思われる。

何だかマシンのご機嫌を損なうことなくドライブできたようで、とても嬉しい。

アストン・マーティンDBSスーパーレッジェーラ(FR/8AT)己を時々かき乱せ

もちろんよくできたグランツアラーである。スポーツカーであるというよりGTである、ということは想像つくと思うけれど、実を言うと少々ワイルドなGTだ。

クルマに全てを委ねて安楽にクルーズ、という類ではない。やはり12気筒エンジンの存在が、時折、ドライバーの平常心をかき乱す。

そんな時、眠気覚ましに思い切り踏めばいい。

文:西川淳(Jun Nishikawa)

SPEC

アストン・マーティンDBSスーパーレッジェーラ

年式
2019年式
全長
4712mm
全幅
1968mm
全高
1280mm
ホイールベース
2805mm
車重
1693kg
パワートレイン
5.2リッターV型12気筒+ツインターボ
トランスミッション
8速AT
エンジン最高出力
725ps/6500rpm
エンジン最大トルク
900Nm/1800-5000rpm
タイヤ(前)
265/35ZR21
タイヤ(後)
305/30ZR21
  • 西川淳 Nishikawa Jun

    マッチボックスを握りしめた4歳の時にボクの人生は決まったようなものだ。以来、ミニカー、プラモ、ラジコン、スーパーカーブームを経て実車へと至った。とはいえ「車いのち」じゃない。車好きならボクより凄い人がいっぱいいらっしゃる。ボクはそんな車好きが好きなのだ。だから特定のモデルについて書くときには、新車だろうが中古車だろうが、車好きの目線をできるだけ大事にしたい。

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