オペル・アストラCD(FF/4AT)忘れかけてはいたけれど、実はどこか欲している

財布の中のお札、裏に描かれているものは何でしょう? では旧札の裏は? 普段身近なのに(だったのに)ヒトが意識していないものは沢山。アストラ、思い出してみません?

財布の中のお札、裏に描かれているものは何でしょう? では旧札の裏は? 普段身近なのに(だったのに)ヒトが意識していないものは沢山。アストラ、思い出してみません?

ほとんど忘れられたクルマ

え!? オペル!?

取材するクルマのラインナップを見て驚いたのだった。いうなれば「ほとんど忘れられたクルマ」。

これに乗ることができるのは嬉しいけれど、なぜこのクルマが「あえて」レセンスの錚々たるラインナップにヒョイと組み込まれているのか。

「そのワケを読み解きなはれや」という、重めのメッセージとも受け取れたのだった。

オペル・アストラCD(FF/4AT)忘れかけてはいたけれど、実はどこか欲している

1862年設立の独オペル、日本での発売は1927年まで遡る。

休止や輸入権の移行を経て、われわれの記憶としてはっきり残っているのはヤナセが輸入販売していた1993年以降だろう。

ベクトラ、オメガ、アストラ、カリブラ(懐かしい響き!)などをラインナップし、装備に対する価格の手頃さで人気を博した。

オペル・アストラCD(FF/4AT)忘れかけてはいたけれど、実はどこか欲している

日本自動車輸入組合のデータによると、1996年のピーク時は、年間登録台数が4万台弱を記録していたが、99年には2万台を割った。国産車と比べる際に、弱い部分が多いというのが大方の見方だった。

2000年、ヤナセから日本ゼネラルモーターズに輸入権が移管される。しかし結局うまくいかず、日本から撤退。

しかし2019年、今度はグループPSAが、オペル再輸入を宣言。延期に次ぐ延期で凍結。この記事の執筆を機にオペルジャパンのホームページを訪ねたが、ドメインは失効され、閲覧できない状態だ…。

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ラテン語で「新星」を意味

アストラに話を戻そう。

初代の登場は1991年。競合はフォルクスワーゲン・ゴルフ。アストラはラテン語で「新星」を意味した。

テスト車の2代目は1998年に発売開始した。資料によると、アルミニウム製サブフレーム、コルベットが採用した高水圧高張力ボディが自慢だった。

オペル・アストラCD(FF/4AT)忘れかけてはいたけれど、実はどこか欲している

日本仕様は5ドアハッチバック/ワゴン、4ドアセダン、2ドアクーペ/カブリオレの展開。ガソリンエンジンのみで、4速オートマティックが組み合わされた。

恐らくアストラをこんなにまじまじとみたのは20年ぶりくらいだろう。

いやいや、ここまで近くでみたことは初めてかもしれない。いかにアストラを「思い込み」で捉えており、それを記憶していたか…。見るべきところが意外に(?)多い。

オペル・アストラCD(FF/4AT)忘れかけてはいたけれど、実はどこか欲している

Cピラーに沿うかたちでガラスが縦方向にも横方向にもラウンドしている。リアトランク後端は控えめだがキリッと立ち上がり、流れ落ちてきたガラスとの融合が美しい。

まるで威嚇しているかのような現代の車たちに比べて、優しい目、薄いグリルに心が落ち着く。何よりボディは小さい、タイヤは丸い。

没個性的だと思いこんでいたアストラは、実は控えめで上品。ネイビーという色も素晴らしくいい。この魅力に気づくのに20年掛かったなんて…。

オペル・アストラCD(FF/4AT)忘れかけてはいたけれど、実はどこか欲している

忘れかけていたあのころ

乗り込んでもなおほっとする。まずは香り。布、樹脂、広いグラスエリア、物理ボタン…。忘れかけていたあのころの記憶が一気に蘇り、むせ返りそうになるほどだ。

キーをひねると車体がブルルと震えて目覚める。ぶーーぶーーと排気音が聞こえる。シフトノブをばったんと倒し、大きく細いステアリングを握って重ったるいアクセルを踏む。

この20年で車は大きく進化したように思えるし、いや基本的なことはほとんど代わっていないじゃないかとも思えるし、なんなら現代車の一部がチープになってしまったなとも思う。

オペル・アストラCD(FF/4AT)忘れかけてはいたけれど、実はどこか欲している

ぐるぐるといろんな感情が渦巻く。

エンジンは力強い。ステアリングは適度に重い。サスペンションの動きもしっかりしている。そして驚くのは車体のしっかり感。「ああ、おれの思うドイツ車像ってこうだったなあ。」とあらためて気づく。

この手の車に乗っていつも思うのは「車ってこれでいいじゃないか」である。そう思える最も中核にあるのが、この頃の、このサイズのドイツ車なのかもしれない。

オペル・アストラCD(FF/4AT)忘れかけてはいたけれど、実はどこか欲している

嫌なところがまったくない。これこそが車の模範解答ではないかとさえ思う。いいなあ。ほしいなあ、いやこれ買っちゃうなあ。本気で考え始めている。

こんな奇跡のような1台を箱入り娘のようにするもよし、距離を気にせずどこへでも行くのもよし、わたしならスーパースポーツの横にぽんと並べて2台を同じように大切すると思う。

20年以上を経て生き残ったアストラが送る余生。ちょっとは贅沢させてあげようではないか。

文:上野太朗(Taro Ueno)

SPEC

オペル・アストラCD

年式
2000年式
全長
4110mm
全幅
1710mm
全高
1420mm
ホイールベース
2615mm
車重
1210kg
パワートレイン
1.8リッター直列4気筒
トランスミッション
4速AT
エンジン最高出力
125ps/5600rpm
エンジン最大トルク
170Nm/3800rpm
タイヤ(前)
195/60R15
タイヤ(後)
195/60R15
  • 上野太朗 Taro Ueno

    幼少から車漬け。ミニカー、車ゲーム、車雑誌しか買ってもらえなかった男の末路は、やっぱり車。今、買って買って買ってます。エンジンとかサスとか機構も大事だけれど、納車までの眠れない夜とか、乗ってる自分をこう見られたいとか、買ったからには田舎に錦を飾りにいきたいとか、そんなのも含めて、車趣味だと思います。凝り固まった思想を捨てたら、窓越しの世界がもっと鮮やかになりました。

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