クルマの歴史を振り返るとき、「大衆車」と呼ばれていたということはつまり、当時の技術や指標を味わえる。試乗車はオリジナルコンディション、これ以上に何を望むだろう。
華奢で愛らしく感じる
フォルクスワーゲン・ゴルフの3代目。
2代続いたカクカクっとして丸目の先代とうってかわって、目は楕円に、全体の角もヤスリがかけられたみたいに丸くなった。
Cd値は0.30〜0.33。丸くなったデザインの目的はひとまず果たせたといえる。
ホイールベースはそのままに、全長は35mm、全幅は30mm、全高は5mm大きくなった。
新車当時、筆者(上野太朗)はずいぶん大きくなったと思ったものだが、令和の今ゴルフIIIを見ると、なんと小さなことかと驚く。
ゴルフっぽくなくなってしまったと思っていたデザインも、現行ゴルフを起点に遡って見ると、華奢で愛らしく感じる。不思議なものだ。
当時のハイライトとしては、ステーションワゴンの追加、狭角V型6気筒エンジンの追加(VR6)などが目立つが、(地味に)1.2/1.6/1.8リッターの排気量構成が、1.3/1.8/2.0リッターに拡大している点もポイント。
最上級モデルは言うまでもなくGTIであった。
設定されたグレードは、CLi(2/4ドア)、CLディーゼル、GLi、GTI、VR6。今回テストするのはGLi。ピンピンにキレイなフルオリジナル個体である。
もうまったく別の車だ
先述のとおり、この30年の間で、こんなに世の中の車が大きくなったのかと驚くほどゴルフIIIは小さく見える。
気になって調べてみるとゴルフVIIIのサイズはゴルフIIIより全長×全幅×全高×ホイールベースが、275mm×95mm×55mm×145mmも拡大している。
もうまったく別の車といっていいくらいの差である。
ニュイーンと集中ロックがゆっくりと開き、パコっとドアを開ける。
この感触もまた、現代と隔世の感。
ザラッとした手触りのシートはギュッと中身が詰まった硬さ。室内は驚くほどシンプル。スイッチはいちいち硬く、僕たちが感じていた大衆車の中のドイツっぽさってこれだよなと記憶が鮮明に蘇る。
大きくストロークするシフトノブをガシガシ動かしながらするドライブはちょっとしたスポーツだ。
たったの115psしか発揮しない1984cc直列4気筒エンジンに鞭打って走れば、野太いサウンドが室内に満ちる。
趣味が一気に彩りを増す
おもしろいのは、当時、大衆車としてしか見ていなかった車が、30年たった今、「愛でる」対象になっていること。
クルマを見つめるという行為に「時間軸」が付加されることで、趣味が彩りを一気に増す。
それを教えてくれたのがこのゴルフIIIだということも興味深い。
それもGTIでもVR6でもない、素朴なGLiが…。
まだまだあなたの知らない車趣味のおもしろさはありますよ。地味で華奢なゴルフが優しい顔で耳打ちしてくれたようだった。
文:上野太朗(Taro Ueno)
SPEC
フォルクスワーゲン・ゴルフGLi
- 年式
- 1995年式
- 全長
- 4020mm
- 全幅
- 1695mm
- 全高
- 1435mm
- ホイールベース
- 2475mm
- パワートレイン
- 2リッター直列4気筒
- トランスミッション
- 5速MT
- エンジン最高出力
- 115ps/5400rpm
- エンジン最大トルク
- 165.7Nm/2600rpm
- タイヤ(前)
- 185/60R14
- タイヤ(後)
- 185/60R14