トヨタ・ソアラ2.0GTツインターボ(FR/5MT)白洲次郎に想いを馳せながら

ベントレー、ブガッティ、ポルシェ、ランドローバー、メルセデス・ベンツ。名立たる外国車を知る男、白洲次郎が開発陣に意見した「ソアラ」を「エモさ」という目線から。

ベントレー、ブガッティ、ポルシェ、ランドローバー、メルセデス・ベンツ。名立たる外国車を知る男、白洲次郎が開発陣に意見した「ソアラ」を「エモさ」という目線から。

ひとくくりにして「エモい」

今、10代後半の人々のあいだで「平成」が流行っている。

「イニシャルD」に「スラムダンク」、「写ルンです」に「喫茶店」。彼らにとって「平成」は、懐かしい、ではなく「味わってみたい」憧れ。

わたしは好きな言葉でないが、ひとくくりにして「エモい」と口を揃える。その平成像には、昭和もミックスされているように思える。まだスマートフォンどころか、ようやくケータイを全員が持てるようになったか、ならなかったかの時代だ。

トヨタ・ソアラ2.0GTツインターボ(FR/5MT)白洲次郎に想いを馳せながら

体験したことのない時代や国に対するあこがれからくる内容は往々にしてその純度を高める。

その時代よりもむしろ「平成らしさ」「昭和らしさ」は濃い味に増幅され、愛でられる。クルマもそうだ。

当時、羨望の眼差しを向けられた車も、今ではそれ以上に期待が高まり、その期待がプライスタグにものり移ることさえある。

トヨタ・ソアラ2.0GTツインターボ(FR/5MT)白洲次郎に想いを馳せながら

彼らが憧れる昭和〜平成は、バブル景気の像とも重なる。その時代を代表するクルマも多く―恵まれた時代だった―ハイソカーと言われたりもする。

80年代の国産高級車をくくるこの言葉は和製英語「High society car」の略語だ。今回の主役、トヨタ・ソアラもその時代のど真ん中。反体制運動やヒッピー文化が落ち着いて、しっとりと落ち着いた暮らしが求められるようになった時代に生まれ落ちた2代目である。

最上級グライダーを意味するソアラは1986年1月に発売開始。大枠は初代のデザインを引き継ぐが、ディテールはスムーズになり、リファインされた。

トヨタ・ソアラ2.0GTツインターボ(FR/5MT)白洲次郎に想いを馳せながら

全グレードにおいて6気筒

2代目ソアラは、すべてのガラスに三次曲面ガラスが用いられ、その表面をボディ表面と同一面に近づけたおかげで、全体のつながりがなめらかで、近未来的になった。

室内では、スペースビジョンメーターが世界で初めて採用された。虚像表示方式は、情報を浮かび上がらせる。焦点を合わせやすくする目的だ。

これもまた未来の車に乗った気分にさせたことだろう。

トヨタ・ソアラ2.0GTツインターボ(FR/5MT)白洲次郎に想いを馳せながら

エンジンは3リッター直列6気筒ターボ(7M-GTEU型)を頂点に、2リッターモデルはツインターボを含む3車種が展開された。

VZ→VX→2.0GT→2.0GTツインターボ→3.0GT→3.0GTリミテッドとグレードアップし、テスト車はそのうち2.0GTツインターボ。

ライバルの日産レパードは直6と直4の2本立てだったいっぽうで、ソアラは全グレードにおいて6気筒を採用しリードした。

トヨタ・ソアラ2.0GTツインターボ(FR/5MT)白洲次郎に想いを馳せながら

サスペンションはトヨタ2000GTいらいの4輪ダブルウィッシュボーンで、電子制御サスペンションのTEMSや、エアサスペンション(3.0GTリミテッド)が奢られたことも画期的だった。

1989年には電動でルーフとリアウインドウを折りたたんで格納する「エアロキャビン」も発売。

決して万人のための車ではないにもかかわらず、贅沢な時代だったなと思う。

トヨタ・ソアラ2.0GTツインターボ(FR/5MT)白洲次郎に想いを馳せながら

デートカーってこういう車

あらためて間近で見る2代目ソアラは「エモさ」の塊に思えた。

当時では近未来的だったディテールが今では愛らしく、また当時は派手だったかもしれないけれど、現代のド派手な車で溢れた環境から見ると、奥ゆかしささえ感じる。

具体的には、低いボンネットや薄いドアが、とても繊細に感じさせるのだ。

トヨタ・ソアラ2.0GTツインターボ(FR/5MT)白洲次郎に想いを馳せながら

乗りこむと、ふかふかなシートにまず驚く。応接室のソファみたいに身体が沈み込む。表面の手触りにもうっとりする。

足元のフロアマットの毛足の長さも、この車が室内でくつろぐことを許してくれているのだと感じさせてくれる。

ベージュとブラウンの掛け合わせ。そのどれもが、原体験のないわたしにとってさえ、リラックスさせてくれるのだった。

トヨタ・ソアラ2.0GTツインターボ(FR/5MT)白洲次郎に想いを馳せながら

一瞬で目覚めたエンジンは、細いマフラーを震わせながら、静かに、粛々と、走り出すのを待っている。事前イメージとは裏腹に、軽い操作感で、ペダルとシフトノブを操作する。まったく癖がない。乗りやすさもまたドライバーと助手席の住人をリラックスさせてくれる。

ちょっと心もとないなと思っていた下のほうのトルクも、回転があがると頼れる存在になる。音や回転感も脚色がなくピュアだ。乗り心地もいい。丸いタイヤ、バンザイ。すべてに外連味がない。乗りやすい。

結果的に最も多用する低〜中速域は、想像を遥かにこえてイージー。デートカーってこういう車なのかと納得する。

あの時代を懐かしんで買う層も、あの時代に憧れて買う層も、新鮮な発見があるに違いない。

文:上野太朗(Taro Ueno)

SPEC

トヨタ・ソアラ2.0GTツインターボ

年式
1988年式
全長
4675mm
全幅
1695mm
全高
1345mm
ホイールベース
2670mm
車重
1420kg
パワートレイン
2リッター直列6気筒+ツインターボ
トランスミッション
5速MT
エンジン最高出力
210ps/6200rpm
エンジン最大トルク
274.6Nm/3800rpm
タイヤ(前)
215/60R15
タイヤ(後)
215/60R15
  • 上野太朗 Taro Ueno

    幼少から車漬け。ミニカー、車ゲーム、車雑誌しか買ってもらえなかった男の末路は、やっぱり車。今、買って買って買ってます。エンジンとかサスとか機構も大事だけれど、納車までの眠れない夜とか、乗ってる自分をこう見られたいとか、買ったからには田舎に錦を飾りにいきたいとか、そんなのも含めて、車趣味だと思います。凝り固まった思想を捨てたら、窓越しの世界がもっと鮮やかになりました。

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