プジョー 106 S16 リミテッド(FF/5MT)フランス流ナチュラルメイク

クラッチを踏む。その時々に必要なギアを自分で選びながら、音楽を聴き、余計な機能が一切付随しないハンドルを切り、走る。これでいいのだ。クルマは純粋無垢でいいのだ。

クラッチを踏む。その時々に必要なギアを自分で選びながら、音楽を聴き、余計な機能が一切付随しないハンドルを切り、走る。これでいいのだ。クルマは純粋無垢でいいのだ。

キーを交換して乗り換えた

RESENSE(レセンス)編集部員で峠道に向かった「朝ドラ」。前回は愉快なフィアット・バルケッタに心酔した。

ドライブ好きが集うレストハウスにてキーを交換して乗り換えたのはプジョー106 S16だった。

テスト車のマイレージはわずか4.9万km、213万円(総額)のプライスタグを掲げている。いわゆるバリものだ。

プジョー 106 S16 リミテッド(FF/5MT)フランス流ナチュラルメイク

プジョー106は、フランスで1991年〜2003年まで発売されたプジョーの最もベーシックなモデルであり、日本では1998年にXSiという1.6リッターエンジン搭載車が限定車として導入された。

以降、あらゆる特別仕様車が投入されている。

エンジンは1.6リッター(1587cc)直列4気筒自然吸気。118ps/6600rpm、142Nm/5200rpmと控えめ。5速MTを介して前輪で地面を掻く。車両はたったの960kg。

プジョー 106 S16 リミテッド(FF/5MT)フランス流ナチュラルメイク

フィアット・バルケッタもそうだけれど、やっぱりあのときの車って軽かったのだなあとしみじみ思う。

S16のSは「Soupape(スパップ)」のS。フランス語でバルブ、つまり16バルブであることを意味する。16本のバルブを備えた4サイクルエンジン。吸排気効率の高さをアピールしたのだった。

当時のカタログをみると、1ページ目に「17バルブ目は、あなたの鼓動だ。」と書かれている。なんとしびれるコピーライティングだろうか。こんな研ぎ澄まされた言葉を、当時はたくさん見ることができた。

プジョー 106 S16 リミテッド(FF/5MT)フランス流ナチュラルメイク

走り出す前からメロメロだ

いかにもプジョーらしいブルーのボディをあらためて見つめると、小さいながらも個性を放っていることがわかる。

全長はたったの3690mm、全幅はたったの1620mm、全高はたったの1370mm。安全性のために前モデルから延長したというホイールベースだって2385mmしかない。

小さなライト、広いグラスエリア、思い切りのいい面構成は、しかし一度見たら忘れない。また古さを感じさせない。プリミティブという言葉がぴったりだと思う。

プジョー 106 S16 リミテッド(FF/5MT)フランス流ナチュラルメイク

内装はとてもシンプルだ。エアコンのつまみに丸い物理スイッチ。思慮深く吟味され、ていねいに配置されている。押し心地もいい。

ああ、この時代の車、たまんない。走り出す前からメロメロである。

シートの座り心地もいい。硬すぎず、適度なコシがありながら、ふかふかした感触。簡単な構成でありながら長時間乗っても疲れないだろう。ステアリングとシフトノブのポジションもぴったりくる。

プジョー 106 S16 リミテッド(FF/5MT)フランス流ナチュラルメイク

これから始まる最高のドライビングを予感させる。

「その走りは、ドライバーの心臓までもツインカムにしてしまう。」

カタログに記されたもうひとつのコピーを脳内で再生しながら、いざ走り出した。

プジョー 106 S16 リミテッド(FF/5MT)フランス流ナチュラルメイク

控えめだけど確固たる意志

キーをひねると瞬時に目覚めた暖気済みのエンジンは、控えめだけど確固たる意志を持っているようだ。

ギアはニュートラルのままアクセルを軽く踏んでみる。フォーーーーン! 淀みなくエンジンが回る。抵抗ゼロ。抵抗との戦いともいえるエンジンがこんなに軽く回るのか…。ショックを覚えるほどだ。

プジョー 106 S16 リミテッド(FF/5MT)フランス流ナチュラルメイク

1速にいれてクラッチペダルを戻しつつ、アクセルを踏む。

この程度アクセルを踏めばエンジンが回るよな、とか、この程度クラッチペダルを戻すとギアがミートするよな、とか、ある程度の経験に基づく予想がぴたりと命中する。

こんな細やかな所作と反応が「相性」という言葉に置き換えられる。ほかメンバーもまったく違和感を感じずにドライブできていることを考えると、本当に仕立てのいい、万人にぴたりと寄り添うチューニングなのだろうと思う。

プジョー 106 S16 リミテッド(FF/5MT)フランス流ナチュラルメイク

思い切ってアクセルを踏みこんで峠道を登っていくと、控えめなパワーながらも、軽いボディゆえ結構なスピードに簡単に到達することがわかる。

FFとは思えない後輪の接地感も魅力。小さく軽い車ながらもどっしりと地面に張り付いている。安心して踏み込める。

速度が高まってもアンダーの傾向は極めて小さい。アクセルを離せば自然にノーズがコーナーに向かって入っていく(タックイン)。ハンドルでもペダルでもこの車を自由自在に操っている感覚。痛快。

プジョー 106 S16 リミテッド(FF/5MT)フランス流ナチュラルメイク

すべて自分の手の内で106 S16は踊り、しかも絶対に裏切ることはない。これこそがS16をカーマニアが評価する理由なのだと思う。ホットハッチのお手本だ。

今回、山に連れ出した2台は、同じ年代、同じFF、同じ趣味車というカテゴリーでありながら、まるで違うキャラクターだった。フィアット・バルケッタは陽気で華やか。プジョー106 S16は遊び心をもちながら従順。どちらも歴史に名を残すだろう。

その時々のモードでどちらを選んでも存分に楽しめる。発売から25年のときを経ているのに、ちっとも色褪せて無いどころか、今だからこそビビッドな色彩をまとっているように思えるのだった。

文:上野太朗(Taro Ueno)

SPEC

プジョー 106 S16 リミテッド

年式
2000年式
全長
3690mm
全幅
1620mm
全高
1370mm
ホイールベース
2385mm
車重
960kg
パワートレイン
1.6リッター直列4気筒
トランスミッション
5速MT
エンジン最高出力
118ps/6600rpm
エンジン最大トルク
142Nm/5200rpm
タイヤ(前)
185/55R14
タイヤ(後)
185/55R14
  • 上野太朗 Taro Ueno

    幼少から車漬け。ミニカー、車ゲーム、車雑誌しか買ってもらえなかった男の末路は、やっぱり車。今、買って買って買ってます。エンジンとかサスとか機構も大事だけれど、納車までの眠れない夜とか、乗ってる自分をこう見られたいとか、買ったからには田舎に錦を飾りにいきたいとか、そんなのも含めて、車趣味だと思います。凝り固まった思想を捨てたら、窓越しの世界がもっと鮮やかになりました。

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