フィアット・バルケッタ(FF/5MT)イタリアンな一挙手一投足 小舟だからこそ

イタリアの考える人馬一体感を味わえる一台フィアット・バルケッタ。1090kgという重量にオープンボディとFFを組み合わせ、MTで駆る一台は不思議な調和を見せる。

イタリアの考える人馬一体感を味わえる一台フィアット・バルケッタ。1090kgという重量にオープンボディとFFを組み合わせ、MTで駆る一台は不思議な調和を見せる。

純粋に楽しむ時間

休日の朝4時に集合して、「山」へ走りにゆく。

RESENSE(レセンス)編集部員が定期的にやっているお楽しみだ。

毎日、朝から晩まであらゆる車に触れているけれど、いや触れているからか、つい純粋に楽しむ時間がなくなりがちだ。

前回は996型のポルシェ911で冬の峠道を駆け回った。今回はどんな新緑の峠道に何に乗って行こう。実際ドライブ前日から、どんなクルマが最高のドライブになるか、メンバーはその話題で持ちきりだった。

フィアット・バルケッタ(FF/5MT)イタリアンな一挙手一投足 小舟だからこそ

RESENSEのショールームは現在、RESENSE KYOTO、RESENSE OITA、そしてRESENSE TIMELESSの3ブランドに分けられている。

なかでもTIMELESSは、たんに旧い車ではなく、文字通り「どの時代においても」名車である車が並べられている。

つまり新しい年式であっても、将来のクラシックスになるのであればラインナップの1台になり得、比較的あたらしいアルファ・ロメオ4CやアルピーヌA110などが並べられることもある。

いっぽうラインナップの中心になりがちなのが、2000年前後の個性ある車たちだ。メンバーが青春をともにしたモデルも多く、おのずと見つめる目にも熱がこもり、ときに「偏った仕入れ」などと褒め言葉が飛び交う。

フィアット・バルケッタ(FF/5MT)イタリアンな一挙手一投足 小舟だからこそ

事実、現代車にくらべると味わいが濃い車も多く、おのずと市場からの熱視線とともにじわじわと価格が上がっているモデルも少なくない。

せっかくなら、ということで、ああじゃないこうじゃないと長い議論のすえに選んだ2台は、フィアット・バルケッタ(1997年)とプジョー106 S16(2000年)となった。

真剣に走らせても楽しいだろうし、やっぱり「あの素晴らしい愛をもう一度」精神も強く、僕たちは夜が明けるのをわくわくしながら待った。

フィアット・バルケッタ(FF/5MT)イタリアンな一挙手一投足 小舟だからこそ

全体の不思議な調和

雨が激しく降り、待ちに待った「朝ドラ」が一瞬危ぶまれたが、朝になればカラッと晴れた。メンバー3名、2台の車のキーをひねって出発した。

筆者はまずフィアット・バルケッタから乗った。15年ぶりの体験だった。X1/9以来の小型スポーツカーとしてフィアットからデビューした「小舟」は、同時期のフィアット・プントをベースとしたもので、つまり横置きエンジンのFFである。

わざわざホイールベースは短縮されており、5速トランスミッションを介して、1746ccの直列4気筒エンジンのパワー(130ps/6300rpm)とトルク(164Nm/4600rpm)が伝えられた。

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久しぶりにみるバルケッタは、当時の思い出の八掛けくらいに小さく感じた。また全体の印象でしか捉えきれていなかったデザインをよく見ると、あまりに凝った、そして他に類を見ない意匠に驚く。

たとえばリアフードのカット、その両脇に空気を含んだかのように広がるフェンダー、よく見ると四角形ではない奇妙な形のテールライト、なめらかなサーフェスのインパネなどだ。すべてがシンプルで流れるようなラインで構成され、2024年の今でもまったく古く感じない。

はっきりいって奇妙なディテールが多数あれど、全体が不思議な調和を見せていて破綻がない。イタリア人ならではのバランス感覚に感服する。

フィアット・バルケッタ(FF/5MT)イタリアンな一挙手一投足 小舟だからこそ

圧倒的な味の濃さ

いざ走りはじめて、車体の動きの軽さに驚く。スペックを調べてはっとする。1090kg(!)。当時としても軽いけれど、令和の現代からするととびっきり軽い。

そして当時は「なんて味気ないエンジンなんだ」と思っていたのに、ちょっとだけざらついたハスキーボイスの4気筒にわくわくしてくる。

「かっこだけの車」だと心のなかでカテゴライズしていた自分が恥ずかしくなるくらい、現代視点では味わい深いのだ。15年経つと、少しは客観的に車を見つめられるようになったのかもしれないし、それに現代車とくらべて圧倒的な味の濃さ。

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高まる気持ちを抑えていたつもりだったけれど、最初のタイトコーナーで思いっきりアンダーを出してしまった。気をつけねば…。

ステアリングは、切った瞬間からノーズの向きをぎゅっと変える。怖いくらいだ。

操舵感覚もぎょっとするほど軽い。このあたりも「イタリアン」だなあと思う。幌を開けた状態でも車体は意外としっかりしている。乗り心地はちょっと固めだ。

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下の回転域だと非力だから極力アクセルを深く踏んで、積極的な姿勢で車を操作する。

コーナーの入口よりちょっとあとまでブレーキを残しておくと、あるところからノーズがヒューっときれいに巻き込まれていく。我慢我慢。ここというタイミングでアクセルを踏めばまっすぐ出口に向かっていく。

完全バランス型のスポーツカーではないだけに、くせをうまく封じ込めてコーナーからコーナーへ征服していく快感がたまらない。

フィアット・バルケッタ(FF/5MT)イタリアンな一挙手一投足 小舟だからこそ

15年前に10年落ちだった車は、あたりまえのことだけれど、いまは25年落ちになっていた。

思ってた記憶と違う。いや、今のほうが、先入観や偏った考えがなく、車に寛容でいられるからかもしれない。もう、バルケッタの一挙手一投足が愛らしい。愉しい!

プジョー106 S16にも乗ってみたいけど、もう少しだけバルケッタを味わわせて…。そんな気持ちでひたすらにハンドルを切り、アクセルを踏み続けたのだった。

文:上野太朗(Taro Ueno)

SPEC

フィアット・バルケッタ

年式
1997年式
全長
3920mm
全幅
1640mm
全高
1265mm
ホイールベース
2275mm
車重
1090kg
パワートレイン
直列4気筒1746cc
トランスミッション
5速MT
エンジン最高出力
130ps/6300rpm
エンジン最大トルク
164Nm/4300rpm
タイヤ(前)
195/55R15
タイヤ(後)
195/55R15
  • 上野太朗 Taro Ueno

    幼少から車漬け。ミニカー、車ゲーム、車雑誌しか買ってもらえなかった男の末路は、やっぱり車。今、買って買って買ってます。エンジンとかサスとか機構も大事だけれど、納車までの眠れない夜とか、乗ってる自分をこう見られたいとか、買ったからには田舎に錦を飾りにいきたいとか、そんなのも含めて、車趣味だと思います。凝り固まった思想を捨てたら、窓越しの世界がもっと鮮やかになりました。

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