ベントレー・フライングスパー 6.0(4WD/8AT)英国発、王政復古の大号令

「ドイツの血が混じった」と言われるが、「混じった」とは輸血程度のものか、はたまた混血児か? ここは是非ご自身でステアリングを握り、体感してから判断頂きたい。

「ドイツの血が混じった」と言われるが、「混じった」とは輸血程度のものか、はたまた混血児か? ここは是非ご自身でステアリングを握り、体感してから判断頂きたい。

最も多く市販された12気筒

その昔、VWにはVR6というユニークなエンジンが存在した。

VはV型を、Rは直列型を、そして6はもちろん6気筒であることを表している。

シリンダーヘッドが一つにまとまっているので見た目には直列エンジン、しかも4気筒ぶんくらいの長さだからとてもコンパクト、けれども中身はバンク角の極めて狭いV型エンジンだ。

いわゆる狭角V6エンジン。

ベントレー・フライングスパー 6.0(4WD/8AT)英国発、王政復古の大号令

独特な仕組みを持つこのエンジンを使ってエンジニアリング的な思索を重ねた男がいた。フェルディナント・ポルシェの孫、フェルディナント・ピエヒだ。

VR6を2機並列させると12気筒になる。VとVでW。コンパクトな12気筒エンジンという画期的なコンセプトが誕生した。

もっともピエヒが天才的だったのは、それに止まらずW8やW16、さらには量産にこそ至らなかったもののW18まで実現したことである。V+V+V、すなわちそれはVWグループのアイコンとなるはずだった。

ベントレー・フライングスパー 6.0(4WD/8AT)英国発、王政復古の大号令

それはともかく。ピエヒの思いつきで生まれたW12エンジンはVW(フェートンやトゥアレグ)やアウディのみならずベントレーといったグループ内高級ブランドでも活用されることになった。

史上、最も多く市販された12気筒エンジンである。その数、ざっと10万機以上。なかでもW12イメージが似合ったのが21世紀になって華々しく復活を果たした英国の老舗、ベントレーだろう。

2004年、W12を積んだコンチネンタルGTを発表すると、そのブランドイメージは急速に回復し、世界的な人気を博すようになった。

ベントレー・フライングスパー 6.0(4WD/8AT)英国発、王政復古の大号令

世界最速スピードサルーン

2ドアクーペのコンチネンタルGTが大成功したことを受けて、シャシー&パワートレインを共有する4ドアサルーンが誕生する。

当初はコンチネンタル・フライングスパーと呼ばれたが、第二世代以降はシンプルにベントレー・フライングスパーとなった。

W12エンジンを積む世界最速スピードサルーンの登場だ。ちなみにフライングスパーとは馬具の拍車のこと。なんとも粋なネーミングじゃないか。50年代にベントレーの4ドアサルーンに使われていた名前でもあった。

ベントレー・フライングスパー 6.0(4WD/8AT)英国発、王政復古の大号令

第二世代以降、V8エンジンを積む仕様も存在するが、今となっては生産の終わったW12仕様の方がクルマ好きの気を引くだろうし、一度は試してみたいと思わせるに違いない。

今回、取材に供されたフライングスパーはW12を積んだ21年式のマリナー・ツーリング・ブラックラインで、ベルーガと呼ばれるソリッドブラックにダークブラウンのダイヤモンドキルティング・インテリアが実にツウ好みな組み合わせだった。

ベントレー・フライングスパー 6.0(4WD/8AT)英国発、王政復古の大号令

走行距離1万7000km。

これほど素晴らしくまとまったコンフィグレーションの個体を、ほとんどナラシレベルで手放してしまうとは、前のオーナーはどんなに剛気だったのか、などと想像しつつ、落ち着いた雰囲気のキャビンに収まって、ゆっくりと、できるだけ厳かにエンジンスタートボタンを押してみる。

6リッターW12エンジンは精密な機械のみが発しうる心地よいサウンドを静かに響かせ、ドライバーの意識の少し前で準備ができたことを告げるのだった。

ベントレー・フライングスパー 6.0(4WD/8AT)英国発、王政復古の大号令

最大の魅力はやはりW12

第三世代の魅力をパフォーマンス以外で語るとき、必ず話題になるのがスタイリングである。

特に真横。

極めてショートオーバーハングなフロント、プレミアムディスタンスの心地よいフロントセクション、薄いサイドウィンドウのグラフィック、フロントアーチの強さを讃えたままわずかに下り下りるサイドキャラクターライン、前後で等しい面積のドア、鋭い峰の走ったリアサイドフェンダー、骨太ながら流れるようにリアへと至るエンドピラー、そしてオーバーハングをしっかりとったリア...

スポーツサルーンのお手本であると言っていい。

ベントレー・フライングスパー 6.0(4WD/8AT)英国発、王政復古の大号令

もちろん、最大の魅力はやはりW12によるウルトラシルキーでかつパワフルなドライブフィールだ。

京都の街中をゆっくりと流すような場面から、高速道路を目的地まで淀みなく突っ走るような状況まで、W12パワートレインは扱いやすく懐深く丁寧に応答する。

工業製品としてのクオリティは申し分なく高く、隙がない。そういう点では“ドイツの血”が巧みに作用した。

ベントレー・フライングスパー 6.0(4WD/8AT)英国発、王政復古の大号令

驚くべきことに、その気になればスポーツカーのようにも走らせることができた。

ちょっとしたワインディングでは有り余る12気筒パワーを駆使して、連続するコーナーを自在に駆け抜ける。この世代からベースがFFではなくFRの4WDセットになっているから、ドライバビリティという点でも新たなフェーズに達していた。

一見ヤンチャな仕様に見えるけれど、その実、これみよがしに至らないギリギリのセンスで仕立て上げられたこの一台は、W12パフォーマンスを表現するに適切なアピアランスを有していると思う。

文:西川淳(Jun Nishikawa)

SPEC

ベントレー・フライングスパー 6.0

年式
2021年式
全長
5325mm
全幅
1990mm
全高
1490mm
ホイールベース
3195mm
車重
2540kg
パワートレイン
6リッターW型12気筒+ツインターボ
トランスミッション
8速AT
エンジン最高出力
635ps/6000rpm
エンジン最大トルク
900Nm/1350~4500rpm
タイヤ(前)
275/35ZR22
タイヤ(後)
315/30ZR22
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