メルセデスAMG G63マヌファクトゥーア(4WD/9AT)覆水盆に返るとしたら

車種に限定すると、硬派と軟派なファン層が混同するクルマは多くない。「G」には某RRレイアウトのように、諸行無常のなかにも頑固な意思が共通して存在するからだろう。

車種に限定すると、硬派と軟派なファン層が混同するクルマは多くない。「G」には某RRレイアウトのように、諸行無常のなかにも頑固な意思が共通して存在するからだろう。

つい骨付きと呼んでしまう

骨付き...というと焼肉や唐揚げのようだが、実はクルマの話。

たとえばGクラスのようなクルマを指して、私はつい骨付きと呼んでしまう。でもそこには数多のSUVとの区別、そして頭の片隅に抱く本物への敬意を込めているつもりだ。

骨とは独立したラダーフレームのこと。そこに乗員が収まる上屋が載った、ボディ・オン・フレームの四駆という成り立ちは、SUVのみならず全てのクルマの基本ともいえるものだ。

メルセデスAMG G63マヌファクトゥーア(4WD/9AT)覆水盆に返るとしたら

今もそれを踏襲するのはジープ・ラングラーやトヨタ・ランドクルーザー、スズキ・ジムニーなど、悪路走破性を売りとする本格的なモデルが多い。

そしてピックアップトラックをベースとするアメリカの大型SUVたちも好んでこのメカニズムを採用している。

先進的なサスシステムや様々な電子制御を駆使すればモノコックフレームでも驚くほどの走破性を実装することも可能だから、もはや乗り味の鈍なラダーフレームにこだわる意味はないのでは...

という意見は半分正解なのかもしれない。

メルセデスAMG G63マヌファクトゥーア(4WD/9AT)覆水盆に返るとしたら

でも、ラダーのクルマにはモノコックのクルマとは一線を画する護られ感がある。

路面入力はフレーム本体で受け止め、上屋は独立している点も大きいのだろうし、支持する足回りの骨太さもそれに影響しているのだろう。

ワークホースとはよく言ったもので、農耕馬と暮らすような安心感がラダーのクルマにはある。

メルセデスAMG G63マヌファクトゥーア(4WD/9AT)覆水盆に返るとしたら

実質フルモデルチェンジ

Gクラスも出自はそういうところにある。

高機動車として欧州各国の軍隊に配備される一方で、その走破性や多用途性を求める民間に向けたW460型が発売されたのが79年のこと。

その後、90年には現代的な装備や豪華なトリムを備えたW463型となり、現在のGクラスの基本形が出来上がった。

その後、18年に実質フルモデルチェンジともいえる現行型が同じW463A型として現れ、今に至るわけだ。

メルセデスAMG G63マヌファクトゥーア(4WD/9AT)覆水盆に返るとしたら

現行型は前軸側のサスがリジットから独立式になるなど、機能面でも大きな進化を遂げたおかげで、オンロード適性が著しく改善された。

毎日乗るにも遠出するにも苦にならない、そんな乗りやすさがうけてだろう、それまでもたくさんいたGクラスは、あれよあれよと現行型に入れ替わってしまった感がある。

Gクラスは今やメルセデスのキャラものという一面がある。ディズニーでいえばミッキー、任天堂ならマリオのようなもので、意匠そのものがスリーポインテッドスターと表裏といっても過言ではない。かように扱いの難しい銘柄だが、巧く使えば話題作りにも繋がり存在感を高めることもできる。

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というわけで、Gクラスは先代も折につけ、ボンネットに12気筒を押し込まれたり、車台を伸ばした6輪車が作られたりと、ギョッとするような企画がものになってきた。

クルマの性格的に、太客である中東系の嗜好を汲んできた、そんな一面もあるのだろう。現行型はコロナ禍も挟んで供給がまったく追いつかなかった感もあり、一発芸に頼る暇もなければその必要もなかったのだろう。

強いて初の色物を挙げれば、施されたばかりのマイナーチェンジで加わったBEVのG580がそれにあたるのかもしれない。でも、多くの人にとってはG63でも充分に傾いてる1台ということになるのではないだろうか。

メルセデスAMG G63マヌファクトゥーア(4WD/9AT)覆水盆に返るとしたら

火傷も小さくて済むだろう

先代でも前述のG65のみならず、G63やG55などAMG物件の破天荒なGクラスは幾つかあったが、さすがにシャシー側にパワーを受け止める余力がなく、電子制御でなんとか諌めている感が端々にみてとれた。

持てるパワーを使いこなすには、リサーキュレーティングボール式ステアリングと四輪リジットの癖を織り込んで操作を前倒しする時差修正が必要だ。破綻がないのはさすがメルセデスだが、慣れは明らかに求められる。

が、現行型の63はシャシーの刷新もあって、限りなく普通の感覚で取り回せるようになった。むしろ素直に曲がってくれすぎて、自重や重心にまつわる自制心を傍らで働かせておかないと、調子に乗りすぎて四駆アンダーという典型的なパターンに陥りやすい。

メルセデスAMG G63マヌファクトゥーア(4WD/9AT)覆水盆に返るとしたら

日本的な用途でみれば、クルマとしてのバランスはどうみても直6ディーゼルの350dや400dの方が優れている。

それでも敢えて63を選ぶという伊達や酔狂の心が、クルマ選びを華のあるものにしてきたことも確かだ。仮にそれが間違いだったと後悔しても、現状の人気なら火傷も小さくて済むだろう。

迷ったら挑戦。そう思える方なら63はありだ。

文:渡辺敏史(Toshifumi Watanabe)

SPEC

メルセデスAMG G63 AMG世田谷スペシャルオーダー

年式
2022年式
全長
4873mm
全幅
1984mm
全高
1966mm
ホイールベース
2890mm
車重
2560kg
パワートレイン
4リッターV型8気筒+ターボ
トランスミッション
9速オートマティック
エンジン最高出力
585ps/6000rpm
エンジン最大トルク
850Nm/2500-3500rpm
タイヤ(前)
295/40R22
タイヤ(後)
295/40R22
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価格
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