ドラマを全く見ない人。曰く、いちいち他人事で翌週まで感情を引き延ばされ自分を乱されたくないのだと。腑に落ちるかもしれぬ。
C43は違う車になった
ボディサイドのエンブレムを二度見した。TURBO ELECTRIFIED。V8 BITURBOじゃないの? C43は違う車になったのだった。
エンブレムのゆらいは、エレクトリック・エグゾーストガス・ターボチャージャーにある。この厚さ40mmの電気モーターは、排気側のタービンホイールと吸気側のコンプレッサーホイールの間のターボチャージャーの軸に直接一体化される。
これが電子制御によってターボチャージャーの軸を直接駆動。コンプレッサーホイールを加速する。この加速は、コンプレッサーホイールが通常のターボチャージャーと同じく、排気の流れによって駆動されるようになるまで実行される。
結果、すべてのエンジン回転域でレスポンスを高める。言うまでもなく低回転域のトルクを高める効果もあるという。楽しみだ。
さらにBSGが2世代目になる。マイルドハイブリッドとしても機能。短期間ならば10kW=16psブーストしてくれるほか、セーリングや回生ブレーキなどの機能も果たす。
結果、408psと500Nmを湧出。2リッター直列4気筒という一見拍子抜けする字面にもかかわらず、3リッターV6ツインターボを搭載していた先代よりも18psの増強を果たした。
気になるのは、AMGを名乗るからには、ゴリッとしたキャラクターが最新のC43にあるのか。いくら技術面が進化したからといって、そこが無ければ…。果たして…?
先代になかったマナー
フォンと控えめに吠えて目覚めたC43は、アクセルを踏み込むと極めて滑らかに前に進み始めた。
ハンドルは重くもない。軽くもない。無駄な脚色はなく、素直にノーズを動かす。そのノーズがちょっとびっくりするくらい軽く左右に振れることに気づく。先代に比べると、その差はけっこう大きい。
アクセルペダルをあえて細かく踏んだり離したりしてみる。パワートレインはぴたりと足裏に沿うように反応をして見せる。これも先代になかったマナー。従順だ。
アクセルペダルを踏み増してゆくと、エンジンはシュルシュルとなんの引っ掛かりもなく回っていく。ターボラグ? そんな言葉が死後に思えるくらい滑らか。唐突さとは無縁だ。
そして速い。あっけなく速いというかんじ。暴力的なトルクの立ち上がりやサウンドを伴う加速をドラマというならば、この車にドラマはないけれど、一度体験してみると、これが新しい時代のAMGが43グレードとともに提唱するドラマなのだろうな、とも思う。
なお乗り心地は硬い。ふわふわとしたメルセデスらしいやわらかさや、ゴツゴツドシドシとしたAMGらしい硬さとはまた違って、入口でコツコツ(=タイヤサイズのせい)、でも中盤はハタハタ(=軽いホイールのおかげ)、最後はギュッと受け止める(=これは剛性のおかげだろう)イメージ。
目眩がするほど硬い訳では無いが、AMGなので少しは覚悟してね、と皆様にお伝えしたい。
ブレーキ(前:4ピストン/ドリルド、後:1ピストン)は十分に信頼に足るもの。総じてこの車には「安心で、かつ、かなり速い」という印象であった。うーん、優等生。
乗っておいてよかった
おそらく、古典的なAMGファンならば、この車を「ドラマに欠ける」と評価するだろう。私自身もその気持ちはよくわかる。
いっぽうで、こんな人がいることをよく知っている。「63はいらない、でも普通のCはいや」決まってそんな人は、きわめて理性的に車を判断し、選ぶ。
そしてそんな人がいることを、私のような一介の物書きの何百倍も高い解像度でマーケティングするメルセデスAMGは知り尽くしている。
そんなカスタマーには、M139エンジンをもって、エレクトリック・エグゾーストガス・ターボチャージャーで武装した渾身のプロダクトをあてがう。
これまで63にしか搭載されなかったAMGスピードシフトMCT(9速AT/湿式多板クラッチ)や、前後トルク配分31:69のフルタイム4WD、リアアクスル・ステアリング、そしてAMGライドコントロール・サス(四輪独立制御の連続可変ダンピング)、排気音を拾って車内スピーカーで誇張再生する「AMGリアルパフォーマンスサウンド」など、盛りだくさんのテクノロジーでもって、だ。
取り回しのよいCクラスに、上記の充実した装備をぎゅっと詰め込み、ステーションワゴンの新車は1146万円。1万km走った2年落ちのテスト車は800万円とちょっとで手が届く。
どうですか? 美味しくない? ステレオタイプな考えを捨てて、一度乗ってみれば、C43、いいなあと思うに違いない。
事実、私がそう思った。百聞は一見(一乗)にしかず、の典型例。乗っておいてよかった…。感謝したくなる車なのだった。
文:上野太朗(Taro Ueno)
SPEC
メルセデスAMG C43 4マティック・ステーションワゴン
- 年式
- 2022年式
- 全長
- 4791mm
- 全幅
- 1824mm
- 全高
- 1466mm
- ホイールベース
- 2865mm
- 車重
- 1810kg
- パワートレイン
- 2リッター直列4気筒+ターボ
- トランスミッション
- 9速AT
- エンジン最高出力
- 408ps/6750rpm
- エンジン最大トルク
- 500Nm/5000rpm
- タイヤ(前)
- 245/35ZR20
- タイヤ(後)
- 265/30ZR20