メルセデス・ベンツ S580 4マティック AMGライン(4WD/9AT)確かなモノ

「新しいの出るなら注文入れといて」と試乗なんてせずとも、案内だけで「S」から「S」へ当たり前のように毎回乗り換える。旗艦はそんな層から文句が出てはならないのだ。

「新しいの出るなら注文入れといて」と試乗なんてせずとも、案内だけで「S」から「S」へ当たり前のように毎回乗り換える。旗艦はそんな層から文句が出てはならないのだ。

Sクラスはこれで2度目

われわれレセンスがSクラスをテストするのはこれで2度目。初回は「S400d」、そして今回がSクラスのフラッグシップ「S580」だ。

パワートレインを基準に整理すると、まず、2021年1月末にS400dとS500がデビューした。それぞれにロングホイールベース仕様が設定され、S400dは3リッター直列6気筒ディーゼルターボ(330ps/700Nm)、S500は3リッター直列6気筒ガソリンターボ(435ps/530Nm)を搭載。

ガソリンエンジンはエンジンとトランスミッションのあいだに電気モーター「ISG」(22ps/250Nm)と48V電気システムを組み合わせている。

メルセデス・ベンツ S580 4マティック AMGライン(4WD/9AT)確かなモノ

そして同年9月、S580が加わる。メルセデス・ベンツはこれを「メルセデス・ベンツのフラッグシップモデル」と表現した。

標準ホイールベース、ロングホイールベースともに、4リッターV型8気筒ツインターボ(M176型)に48VシステムとISGを組みあわせる。結果的に内燃機関は503ps/5500rpm、700Nm/2000-4500rpmを、モーターは20ps、208Nmを湧出する。

メルセデス・ベンツ S580 4マティック AMGライン(4WD/9AT)確かなモノ

なお独立したラグジュアリーブランドとしてメルセデスAMGと並列で存在する、メルセデス・マイバッハにもSクラスベースのモデルが存在する。

こちらは通常のSクラスのロングホイールベースからさらに180mm延長したもので、鼻先には4リッターV型8気筒ツインターボ(503ps/700Nm)を搭載するS580と、6リッターV12ツインターボ(612ps/900Nm)を搭載するS680の2本立てとなる。

メルセデス・ベンツ S580 4マティック AMGライン(4WD/9AT)確かなモノ

一日の長という言葉だ

日が傾きはじめた東京で目にしたメルセデス・ベンツS580は、金がうっすらと混ざった銀の、つるりとまるいボディが夕日を美しく跳ね返していた。

一見、球体のような印象を抱くのは、それぞれのパネルをなめらかなサーフェスで繋げているからだ。間近に寄るとパネル同士がきっちりと等しい隙間で合わさっており、またパネルの折り目がぴっちりと立ち上がり、質感の高さを感じさせる。

メルセデス・ベンツ S580 4マティック AMGライン(4WD/9AT)確かなモノ

また真横から見ると、短いフロントオーバーハングと長いホイールベース、なだらかに落ちていくCピラーより後のラインなど「そうか、このデザインはSクラスのサイズだから、落ち着くのか」と妙に納得する。

CもEもSも似たように見えるけれど、それぞれ線の立ち上がりが少しずつ異なり、ことSクラスはずっと伸びやかでエレガントなのだ。

メルセデス・ベンツ S580 4マティック AMGライン(4WD/9AT)確かなモノ

つるりとしたなめらかなデザインはインテリアにも通ずる。

ドライバーに向いた12.8インチの有機ELディスプレイを中心に、それぞれのサーフェスは液体のごとくつながり、ひとつひとつのしつらえは良く、同時に温かみもある。

ミニマリズムを押し進めればどこか冷たくなるはずのデザインは、いや、なぜかSクラスの場合、落ち着く。長らくラグジュアリーカーを作り続けてきたメルセデスには「一日の長」という言葉が当てはまる。

メルセデス・ベンツ S580 4マティック AMGライン(4WD/9AT)確かなモノ

疲れ知らず、のひと言

東京から京都に向かった。走りに関しては、疲れ知らず、のひと言だった。

かかった時間は割愛するが、休憩は給油のたった1回。S400dの試乗記で感じたサスペンションの伸びと縮みの収束の速さ、そのスムーズさには感心しきりだった。

またシートのバネ感との相性もいい。先代に比べて当たりは硬いが、それでも車体全体をフラットな姿勢のまま屈伸させる様は、いかにもメルセデスといったところだ(そんな乗り味のメルセデスはさいきん減った)。

メルセデス・ベンツ S580 4マティック AMGライン(4WD/9AT)確かなモノ

さて心臓部分の4リッターV型8気筒ツインターボ(M176型)は、上記のキャラクターにぴたりと合うものだった。低い回転域からワワワっと静かに湧き上がる穏やかで、しかし確かなトルクはこの車への満足度の中心になりうる。

トルク値だけ見るとディーゼルと変わらないが、その盛り上がりにドラマがある。(さいわいなことに)音はAMGのようにバリバリ言うわけではないが、後方から節度ある音量でV8らしい音が聞こえる。ガソリンだよなあ。気づくと頬が緩んでしまうのだった。

メルセデス・ベンツ S580 4マティック AMGライン(4WD/9AT)確かなモノ

もうひとつ、特にSUVに慣れていると、やはりエンジンルーム×居住スペース×(独立した)トランクスペースをもつ3ボックス車の確かな剛性感に身を委ねる安心がある。

メルセデスはセダン屋だ、なんていうと「いつの時代ですのん」とツッコミが来そうだけれど、いや、やっぱりセダン屋なのだと実感した。

気づいたら京都についていた。

文:上野太朗(Taro Ueno)

SPEC

メルセデス・ベンツ S580 4マティック AMGライン

年式
2022年式
全長
5180mm
全幅
1930mm
全高
1505mm
ホイールベース
3105mm
車重
2160kg
パワートレイン
4リッターV型8気筒+モーター
モーター
ISG 22ps/250Nm
トランスミッション
9速AT
エンジン最高出力
503ps/5500rpm
エンジン最大トルク
700Nm/2000~4500rpm
タイヤ(前)
255/40R20
タイヤ(後)
285/35R20
  • 上野太朗 Taro Ueno

    幼少から車漬け。ミニカー、車ゲーム、車雑誌しか買ってもらえなかった男の末路は、やっぱり車。今、買って買って買ってます。エンジンとかサスとか機構も大事だけれど、納車までの眠れない夜とか、乗ってる自分をこう見られたいとか、買ったからには田舎に錦を飾りにいきたいとか、そんなのも含めて、車趣味だと思います。凝り固まった思想を捨てたら、窓越しの世界がもっと鮮やかになりました。

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