車名のあとに続く数字が「40」と言われると、もはや直4の2リッターディーゼルと想像することすら難しい。時代はその差を埋めるところまで来ているのだろうか、検証だ。
長くて幅広で低い
今回テストするアウディA7スポーツバックは、2018年、7年ぶりにフルモデルチェンジした2代目。A6とA8の中間に属する4ドアクーペ。デザイン/技術面で大きく変わった。
デザインは2014年発表のコンセプトカー「アウディ・プロローグ」が示したデザイン言語、つまり張りのある大きな面、シャープなエッジ、シンプルで力強いライン構成をとる。
全体のプロポーションは長く伸びたボンネット、長いホイールベース、短いオーバーハングで構成され、全長:4970mm(Sラインは4975mm)、ホイールベース:2925mm、全幅1910mm、全高:1415mm(Sライン=1405mm)と、長く幅広で低い。
フロントはA8に比べて低く幅広のシングルフレームグリル、細いヘッドライト、大きな縁取りのエアインレットが特徴で、スポーティネスを形とディテールで表現した。
またホイールハウス上のアーチ状の膨らみはアウディのモダンアイコンとして度々登場する「アウディ・クワトロ」から継承されたという。
リアはA7のデザイン文法通り、長くなだらかに落ちていくハッチゲートの後端はリップ状に少し突き出した形状をとる。
両側のテールライトモジュールは、それぞれ13の縦型ライトセグメントで構成され、ライトストリップで左右に繋がっている。
インテリアは先進性、スポーティネス、操作性、洗練性を意識して構成されたという。いずれもドライバー・オリエンテッドで、他のセダンモデルやSUVよりも積極的な走りを想起させる。
非常にスムーズだ
このクルマに関するもうひとつのハイライトはパワートレインだ。
2018年のデビュー当初は、3リッターV6ツインスクロールターボユニット一択だった。340psと500Nmを発揮しつつ、燃料消費率は12.3km/L(JC08)をうたったのは、A8と同様のマイルドハイブリッドシステムを組み合わせたからだ(欧州参考値100kmあたり0.7Lの消費削減)。
またブレーキング時に最大12kWという高いエネルギー回生を可能にした。加えてエフィシエンシー・モードかつ55〜160km/hでは、かなり頻繁にエンジンを止めてコースティングした。
そして2020年、2リッター直4ディーゼルターボ(EA288 evo型)が加わった。
「40 TDI」を名乗り、最大出力204ps/3750~4200rpm、最大トルク400Nm/1750~3500rpmを発生し、12Vマイルドハイブリッドシステムと協働する。
MHEV用リチウムイオンバッテリーの助けによって、55~160km/hの範囲でエンジンをオフにしたコースティング走行、また22km/h以下でのアイドリングストップを実現するほか、5秒間のエンジンアシスト(最大2kW、60Nm)を行う。
通常のスターターモーターより大型のBAS(ベルト・オルタネーター・スターター)のため、エンジン停止/再始動は非常にスムーズというメリットもある。結果的に欧州値で3%の省燃費効果につながるという。
ディーゼルユニットそれ自体はアルミ製シリンダーブロック、アルミ製ピストンなどで軽量化される。新開発の8穴ソレノイドインジェクターは、状況に応じて1行程あたり合計5~8回噴射(パイロット/メイン/ポスト噴射)。
7速Sトロニック、AWDクラッチを使用する高効率なクワトロシステムと組み合わせ、新車価格は812万円で、同内容のA6より67万円高の設定であった。なお、ガソリンモデルは1058万円。
なんということだ
果たして注目のディーゼルユニットは、音や振動で、その存在をまったくと言っていいほど感じさせない仕上がりだった。
室内にいる限り、よほど注意しないと回転を高めても、ノッキング音が漏れ入ることはなく、ステアリングやペダルに振動を伝えてくることもなかった。なんということだろう。
そして先述の大型のBAS(ベルト・オルタネーター・スターター)が、エンジンにスタート/ストップを極めて最低限の振動に抑えてくれる。ディーゼルの悪癖はほとんど感じられない。優秀だ。
肝心のトルクは、一般道、高速道路問わず、ほとんどの環境において十分。その立ち上がりも実になめらかだと感じた。
気になったのは乗り心地だ。全体のグレード展開からすると、もしやまるっと穏やかな「素」の味わいを体験できるか…? と期待を寄せていたが、硬い。
タイヤの銘柄によってはもっとマイルドになるかもしれないが、基本的にはサスペンションが突っ張ったような感触だ。タイヤの衝撃吸収、サスの伸縮、車体側の受けの相性が良くない。
インテリアはモダンなアウディに共通するクリーンな印象。よく整理されている。上側の10.1インチアッパースクリーンは、インフォテインメントシステムを操作するためのもの。
その下に8.6インチのスクリーンが備わり、空調システムなどを操作する。タッチすると触感と音によるフィードバックがある。
使い心地とクリーンなデザインを両立したインテリアにおいてアウディの右に出るものは、現時点なさそうだ。
気になっていた後方の視界も、案外細いCピラーのおかげでつらくない。
後席を立てた状態で535リッター、畳めば1390リッターまで広がる荷室もありがたい。A6が565/1680リッターだ。ここをどう考えるかで、あるいは日常の使い勝手で評価は分かれるだろう。
今回の試乗を通じて、A7はアグレッシブな仕立てで、デザインコンシャスでありながら、実用性を大きく犠牲にしていないことがわかった。あとは乗り心地、かな。
文:上野太朗(Taro Ueno)
SPEC
アウディA7スポーツバック 40 TDIクワトロ
- 年式
- 2021年式
- 全長
- 4970mm
- 全幅
- 1910mm
- 全高
- 1415mm
- ホイールベース
- 2925mm
- 車重
- 1900kg
- パワートレイン
- 2リッター直4ディーゼルターボ
- トランスミッション
- 7速AT
- エンジン最高出力
- 204ps/3750~4200rpm
- エンジン最大トルク
- 400Nm/1750~3500rpm
- タイヤ(前)
- 245/45R19
- タイヤ(後)
- 245/45R19