ロータス・エリーゼ(MR/5MT)エリーゼか、それ以外か

ロータス・エリーゼ(MR/5MT)エリーゼか、それ以外か

ロータス・エリーゼに乗らずして、ドライビングプレジャーを語ることはできない。タイトベンド連なる峠道を存分に走らせて、そう断言する。あまりにもピュアな車であった。

ロータス・エリーゼの歴史

ロータス・エリーゼは、英ロータス車が世に送り出した2座の軽量ミッドシップ・スポーツカー。1999年〜2021年、22年間販売された。

エリーゼは大きく3世代に分けられる。

1999〜2001年。フェイズ1。車両重量690kg(公称)。初期ロットはブレーキローターがアルミディスク(量産車初)。リアのハブキャリア、エンジンベイもアルミだった。

厳密にいえばこの世代、商標の関係で正式には「エリーゼ」とは呼ばれていない。「111(ワン・イレブン)」と呼ばれていた。

2001年にフェイズ2となる。2011年まで販売された。途中までは「111」「111S」と呼ばれた。2004年、従来のローバー製エンジン(1.8リッター直列4気筒自然吸気)に加え、トヨタ製エンジンが並ぶ。

ここで初めて「エリーゼ」の名が生まれる。ベースグレードがそれを名乗る。こちらがローバー製エンジンを搭載。トヨタ製は「スポーツ111R」を名乗った。(従来の111の後継)

2006年、ローバー製エンジンは破綻により消滅。ベースグレード「エリーゼ」は「エリーゼS」(5MT)に昇進(パワーもアップ)。「111R」は「エリーゼR」(6MT)に。さらにスーパーチャージャー搭載の「エリーゼSC」(6MT)が加わった。

ここまで通称で「111」という表記を使っているけれど、こと形式番号は例えば111Rは「120」であったりと何かと複雑だ。興味をもった個体が、どの年式の、どのグレードで、どのパワートレインを搭載しているかは厳密なリサーチが必要だ。

2011年。フェイズ3になる。パワートレインは1.6リッター自然吸気と1.8リッタースーパーチャージャー(いずれも直列4気筒)となる。2021年、「エリーゼ・スポーツ240ファイナル・エディション」をもって生産終了。エキシージとエヴォーラも終了が発表され、エリーゼ/エヴォーラを統合した「エミーラ」が発表されている。

2022年の今、ロータスはいわばブランドとして過渡期にあり、古典的なライトウエイトスポーツファンは期待と不安の只中にある。

「なんにもない」車なのだ

今回テストするのはフェイズ2のエリーゼだ。年式は2006年。先述のとおりフェイズ2にはローバー製とトヨタ製のパワートレインの2本立て。ローバー製=Kシリーズは2種類ある。

18K4Fと18K4Kの2種類で、テスト車は18K4Kを搭載。それぞれの違いは、可変バルブタイミングの有無。出力も異なる。

18K4F
122ps/5600rpm
168Nm/4500rpm

18K4K
156ps/7000rpm
174Nm/4500rpm

外観を見ていてひとつの事に気づく。あまりにクルマが小さいため、いつも自分の目線から見下ろしていたけれど、目線を車の位置までさげてエリーゼを見つめると、その迫力に驚く。

これがフェラーリサイズであれば、かなり「派手」だと言えるに違いない。

ギュッとすぼまる胴体から、前後フェンダーに向けて程よいエッジを残しながら繋がるライン。背中の真後ろにあるエンジンを中心に、「よく走る」ことを第一主義に掲げた、潔よすぎるデザインが実に気持ちよい。そこに下心のようなものはまったく見えない。

かといって味気ないわけではなく、むしろセクシーだと表現することもできそうだ。

編集部の若手メンバー(20代前半)と体をくねらせて室内に滑り込む。「なんにもないっすね!」と彼は驚く。というか引いている。

無理もない。むき出しのアルミバスタブ。アシストなしのステアリング。ペラペラのシート。生まれが平成も中盤に差し掛かろうとしていた彼にとって、いや、昭和の終わりにだって、これほど簡素な車は存在しなかったのだから…。

キーを捻った。

ピュア! 純度、100%

キーを捻った刹那、物理的な振動をもって、ローバー製パワートレインは目覚めた。乾いた音。淀みがない(色気もない)。

バイクみたくサイドミラーをクイッと調整し、細くて薄いアクセルペダルを踏みながらクラッチを離す。なめらかにパワーが伝達され、程よいトルクとともに進み出す。

エンジン音が後ろから聞こえるというのは、いつだって、どんな車だって格別だ。動き出せば、岩のように重たかったノンアシストのステアリングもみっちりと情報を伝えてくれる。

路面の小さな凹凸、うねりに対し、エリーゼはピュアに追従する。少なからず「乗り心地がよい」という表現を見るけれど、正直にいって良くないと思う。頭はゆれている。シートは硬くて薄い。だから乗って15分くらいから疲れているし、複線の踏切を超えるときなんて地獄だ。

いっぽうこの車がキラリと輝くのは、タイトベンドの連続する峠道であると思う。正直に申し上げて飛ばした。まずザラついた4気筒が水を得た魚のように力強く歌い始める。アクセルオン、オフの繰り返しで、いまこの車のどこに荷重があるのかが手にとるようにわかる。

丁寧に操作しなければダメだ。うかつにアクセルをゆるめようものならば、瞬時にスピンモードに入る。ピュア! ピュア! ピュア!

エリーゼより純粋に走りを楽しみたいならば、あとはもうランニングシューズを履いて自分で走るくらいしかないのでは、と思えるくらい、介在物が一切ない。

これこそを生っぽいというのだと思った。

エリーゼ体験後の思考変化

はっきりいって、シチュエーションを選ぶ車である。この車で通勤から子どもの送り迎え、スーパーの買い物をする光景は思い浮かばない。

木曜日くらいから、日曜日の朝焼けを思い浮かべる。金曜日をなんとかやりすごす。土曜日はお酒を口にせず、遅くとも21時には眠り、朝3時からシャワーを浴びる。ガレージで暖気、峠を攻める。一汗かいたあと、朝焼けを見ながら缶コーヒーを開ける。こんな乗り方こそが、エリーゼも自分も生き生きできる。

長い人生でみれば、この車と目いっぱい戯れる時間なんて一瞬だ。しかしその一瞬が、かけがえのない時間であるのだ。

一度でもこの車を味わってしまえば、今後出会うドライビングプレジャーを目的にした車は全て、「エリーゼ以上か、あるいは以下か」という尺度で見ることになるだろう。

これが決して不幸なことではないのは、「エリーゼ以上」と呼べる純粋な楽しさの車が、この世にほとんど存在しないから、である。

人生、変えてみませんか? 薄いシートを通して、あるいは小さなステアリングを通して、エリーゼは私にそう語りかけている気がした。

SPEC

ロータス・エリーゼ

年式
2006年
全長
3800mm
全幅
1720mm
全高
1130mm
ホイールベース
2300mm
トレッド(前)
1460mm
トレッド(後)
1510mm
車重
840kg
パワートレイン
1.8リッター直列4気筒
エンジン最高出力
156ps/7000rpm
エンジン最大トルク
174Nm/4500rpm
サスペンション(前)
ダブルウィッシュボーン
サスペンション(後)
ダブルウィッシュボーン
タイヤ(前)
175/55R16
タイヤ(後)
225/45R17
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