ロールス・ロイス・スペクター(4WD)ゴーストではない、もうひとつの幽霊(後編)

ロールス・ロイスの放つEV、スペクターへ試乗。今回は前/中/後編の3回に渡りRESENSE読者へお届け。後編はいよいよ四国へ、そこから九州へ。BEVは大丈夫か?

ロールス・ロイスの放つEV、スペクターへ試乗。今回は前/中/後編の3回に渡りRESENSE読者へお届け。後編はいよいよ四国へ、そこから九州へ。BEVは大丈夫か?

まさにクルーザー気分だ

淡路島の平日の高速道路は空いている。

だからといってぶっ飛ばさなくてもクルーズしているだけで気持ちいいのがロールス・ロイスというクルマで、スペクターでは望めば強力な走りを提供できるにも関わらず、10分の1くらいのパフォーマンスを楽しんでいるだけで気分がいい。まさにクルーザー気分だ。

鳴門大橋を渡って徳島県に入る。程なくして香川うどん県だ。高速を降りて讃岐うどんでも啜りたい気分だけれど、あいにく淡路SAで玉ねぎやらタコやら牛やらを詰め込んでしまった(淡路SAでの食事は上りがオススメ)。

ロールス・ロイス・スペクター(4WD)ゴーストではない、もうひとつの幽霊(後編)

このまま愛媛まで走ろうか。思案しているとナビゲーターがちょっと深刻な声で話しかけてきた。「急速充電器がこの先極端に少ないですね」。

東名阪での移動に慣れていると、SAはもちろんPAでも急速充電器はあるし、なかには浜松や沼津のように150kWhが備わるSAさえ存在する。だからBEVでの高速道路利用に以前ほど“電欠恐怖心”を抱くことなどないのだけれど、その感覚でいると他の地域では痛い目に遭いそうだ。

香川へ入って讃岐うどんと思った先にとりあえず充電器のあるSAがあったので念のため充電しておこうということに。小さめの施設で、確かに急速充電器があった。ただし50kWhだ。

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最近のBEVには目的地をセットすると先々の充電スポットを教えてくれる機能が備わっている。

しかも容量の目安も教えてくれるので便利だ。とりあえず50kWh器に繋いで先の充電施設をチェックしてみれば...

宇和島までこの先、50kWhがあるにはあるけれど、全て一般道に点在しているようだ。

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でも少しは気が楽になる

結局、トイレ休憩だけのつもりがコーヒーも飲んで50kWhに30分繋いでおいた。100km分くらいしか入らないけれど、それでも少しは気が楽になる。

問題はこのままだと愛媛からフェリーに乗って大分に着いてからがちょっと厳しい気がすること。サンセット狙いで愛媛の海岸線を走りたいから少し余裕も欲しいし。

この先の四国、高速道路上にはどうやらなさそうなので、松山に入って一般道へ降りてみることに。ナビにはたくさんの50kWh器が出てくるのだが、いずれも幹線道路沿いというよりも脇に入った何かの施設に付随しているよう。

おそらく相当前に国か県の施策として設置された充電器たちではないだろうか。試しにナビを信じて最寄りにアプローチしてみると、見事に施設丸ごと存在しなかった。

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めげずに西を目指して走っていると、定休日の大型家具店で急速器を発見。

ためらうことなく入って繋げたものの、周りにはラーメン屋くらいしか見当たらない。せめてコンビニでもあればコーヒーでも買って時間を潰せるのに...スペクターの周りで所在なげに(もしくは携帯掛けつつ)うろつく男二人の怪しいことよ。

20分ほどで70km分くらい入ったので、ひと安心。これなら佐賀関から大分市内まで十分もつだろう。

電欠の心配さえなくなれば、スペクターは再び地上最高の乗用車としてドライバーを包み込んでくれる。瀬戸内の海岸線を走りながら、日本の素晴らしい風景を楽しむ。

さほど広くはない国道に大型車両も頻繁に行き交うが、スペクターを堂々と走らせているかぎり、怯むということがない。なんという安心感だろうか。

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普及のためにとりあえず

夕暮れどきの佐田岬半島を快調にドライブし、三崎港へたどり着いた頃には完全に日も落ちていた。

ここから大分県の佐賀関までは国道九四フェリーを利用する。わずか31kmの“クルマ渡し”。関西から大分へのドライブにはこれが最適ルートというわけだ。

平日ということもあって船内はガラガラ。日中にできなかったメールチェックをすませ、いくつか事務作業をしているうちに佐賀関に。そこから市内までは半時間ほどのドライブだ。バッテリー残量も100kmと十分。とはいえ、改めて急速充電インフラの必要性を感じるドライブであった。

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否、BEVありきで考えるのであれば、という注釈が必要であろう。

そもそもBEVは長距離ドライブには向かない(しかもロールス・ロイスだし!)し、急速充電器もバッテリー寿命を縮めてしまうので使わないに越したことはない。それに今回、京都から大分までのドライブで他にBEVの姿を見かけることはなかった。淡路島でも、だ。

これが東名阪の高速道路であれば、150kWh器が空いていてくれるかどうか心配になるくらいにBEVが走っている。だからこそ充電設備は充実している、とも言えるし、充実していることが知られているから走っているとも言える。卵と鶏なのだ。

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よくよく考えてみればインフラから先に完成して、はいどうぞと普及する個人的なツールなどない。

携帯電話だって初期の頃は使えない場所が多かった。道路やガソリンスタンドだってそうだ。自動車の黎明期にスタンドと道の整備から始まった、などという話は寡聞にして知らない。

要するに多くの人が“使いたい”と思うツールになってはじめてインフラも追いつこうとする。

ロールス・ロイス・スペクター(4WD)ゴーストではない、もうひとつの幽霊(後編)
ロールス・ロイス・スペクター(4WD)ゴーストではない、もうひとつの幽霊(後編)

今のところそれは東名阪のみで、その他はさほど必要に迫られていないけれど普及のためにとりあえず作っておきましょう程度のものだ。

だから多少の不便は仕方ないし、その不便を乗り越えてでも欲しいと思える商品(BEV)を自動車メーカーは提案し続けるほかない。本当にBEVを普及させたいのであれば、だ。

スペクターのように走ってくれるリアリティある価格のBEVが出てくれば欲しいかもなぁ。

新生アルピナがそんなクルマを出してくれそうな気もするのだけれど。(完)

文:西川淳(Jun Nishikawa)

ロールス・ロイス・スペクター(4WD)ゴーストではない、もうひとつの幽霊(後編)

SPEC

ロールス・ロイス・スペクター

年式
2024年式
全長
5475mm
全幅
2144mm
全高
1573mm
ホイールベース
3210mm
車重
2890kg
パワートレイン
電気モーター×2
システム最高出力
584ps/900Nm
タイヤ(前)
255/40R23
タイヤ(後)
295/35R23
  • 西川淳 Nishikawa Jun

    マッチボックスを握りしめた4歳の時にボクの人生は決まったようなものだ。以来、ミニカー、プラモ、ラジコン、スーパーカーブームを経て実車へと至った。とはいえ「車いのち」じゃない。車好きならボクより凄い人がいっぱいいらっしゃる。ボクはそんな車好きが好きなのだ。だから特定のモデルについて書くときには、新車だろうが中古車だろうが、車好きの目線をできるだけ大事にしたい。

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