ロールス・ロイス・スペクター(4WD)ゴーストではない、もうひとつの幽霊(中編)

ロールス・ロイスの放つEV、スペクターへ試乗。今回は前/中/後編の3回に渡りRESENSE読者へお届け。中編は結局それは誰得?京都発の長距離ドライブへ出かける。

ロールス・ロイスの放つEV、スペクターへ試乗。今回は前/中/後編の3回に渡りRESENSE読者へお届け。中編は結局それは誰得?京都発の長距離ドライブへ出かける。

下界の喧騒とは無縁

街中をできるだけ静かに走る。特にパッセンジャーには下界の喧騒とは無縁の空間を提供する。ロールス・ロイスの伝統である。

だからパワートレーンのフル電動化は英国の誇る世界最高峰ブランドにとって、マイナスどころか大いにプラスだと思う。

ロールス・ロイス社によると、カスタマーの9割以上が週に150kmもドライブすることはなく、年間の走行距離が3000kmを超えることもまず無いらしい。

ロールス・ロイス・スペクター(4WD)ゴーストではない、もうひとつの幽霊(中編)

われわれ凡人からすれば、こんなにも極上のグランドツーリングカー(最近のレイスやドーン、ゴースト、カリナンによる長距離ドライブはとにかく素晴らしい)を所有しながらそれはないだろうよ、と思ってしまうところだが、考えてもみて欲しい。

ロールス・ロイスを購入するようなお金持ちがクルマで数時間の遠方へ出かけるとなれば、もっと“有効”な手段(ヘリコプターとか)を選ぶはず。クルマはあくまでも自宅や会社の近辺で活用する便利なツールにすぎないのだから。

ロールス・ロイス・スペクター(4WD)ゴーストではない、もうひとつの幽霊(中編)

だったらそこそこのバッテリーを積んだBEVでも十分に間に合う。

実際、ロールス・ロイス初となる量産BEVスペクターのバッテリー容量は約100kWhと、思ったほどデカくない。乗用車としては大容量な部類だけれど、ちょっとした高級ブランドの最上級モデルなら積んでいておかしくない容量だ。

バッテリーの容量を増やせばその分重くなって電費的には不利だし値段だって高くなる。そもそも高くて重いロールスロイスだからその影響はさほど大きくないとはいえ(だからBEV向きともいえる)、ものには限度もあろう。

カスタマーの使い方に見合った性能を。スペクターのパフォーマンスはそうして決まったに違いない。

ロールス・ロイス・スペクター(4WD)ゴーストではない、もうひとつの幽霊(中編)

全てを上回っていた

そんなロールス・ロイスのフル電動車を長距離ドライブに連れ出そう、という企みはだから“誰のためにもならない”かもしれない。

自動車ライターの興味を満たすだけの試みというわけだが、高速道路を走り出した途端、試してよかったという幸福感に満たされた。

そのドライブフィールの心地よさは、ここ十年来のエンジン付きロールス・ロイスの全てを上回っていた。タイヤはまるで大理石の床の上を無抵抗に転がるかのよう。それでいて思う方向へとしっかり進むという安心感を常に与えてくれる。

もちろん微小なショックや風を切る音も聞こえてくるのだけれど、それすら心地よいと思わせるライド感である。

ロールス・ロイス・スペクター(4WD)ゴーストではない、もうひとつの幽霊(中編)

高速で走るその1秒1秒がリッチ。だから追い越し車線に出て無闇に急ごうなどという気持ちにすらならない。

自分の時間を嗜みつつ走ろうと思うから、下品なSUVに抜かされようが、スーパーカーに追いつかれようが、なんとも思わない。どうぞご自由に。まぁ、ロールス・ロイスと知って煽ってくる輩はいなかったけれど。

ロールス・ロイス・スペクター(4WD)ゴーストではない、もうひとつの幽霊(中編)

ロールス・ロイスと共有時代のベントレー・コンチネンタルRに初めて乗ったとき、同じような気分になった。

以来、様々な超高級車を試し、いろんな乗り心地を経験し、特に最近のロールス・ロイスの心地よさには“これ以上なし”と思っていただけに、まだこれほどまでに素晴らしいライドフィールを新たに出せるものなのかと、ただただ驚くほかない。

3トンに迫る車重も、高速道路をドライブ中にそれを嫌味に感じることは皆無だった。その不思議な感覚も幽霊と名乗るにふさわしい。

ロールス・ロイス・スペクター(4WD)ゴーストではない、もうひとつの幽霊(中編)

急速充電器に繋ごう

快調に西を目指す。途中で神戸の山中を抜ける都市高速も使ったが、スペクターはドライバーズカーとしても甚だ優秀で、なんなら有馬温泉あたりで降りて六甲山のワインディングを試したい誘惑にさえ駆られる。

ここでの重量を必要以上に感じることがない。重量バランスを計算し尽くされているのだろう。ステアリングフィールは軽やかだけど堅実で、リニアリティも高い。

動きはスーパーナチュラルであり、必要十分なモータートルクが3トン近い巨体をストレスなく推し続ける。絶対的な速さというより、凄まじいまでの塊感のほうに驚く。

ロールス・ロイス・スペクター(4WD)ゴーストではない、もうひとつの幽霊(中編)

あっという間に世界で二番目に長い吊り橋が見えてきた。明石海峡大橋だ。ナンチャラブリッジなどとヘラヘラ言わず日本語の名前がいい。

個人的にはこの橋に近づく際の本州側の少し曲がった大きなトンネルが大好物で、ハイスピードコーナリングにおける車両の姿勢変化をじっくりと味わうようにしている。

スペクターのそれは、ただ安定していただけでなく"クルマ運転好き"を喜ばせるに十分な走りであった。腰が落ち着き、尻が喜ぶとでも言おうか。

ロールス・ロイス・スペクター(4WD)ゴーストではない、もうひとつの幽霊(中編)

大橋を渡る。ちょうどお昼どき。

京都を出たとき75%ほどだったバッテリー残量もまだまだ余裕がある。充電器は反対側のエリアにしかないし、上下でつながっているとはいえちょっと移動が面倒だ。

どうしよう...

おいしいレストランもまた上りのエリアにしかないらしい。やっぱり90kWhの急速充電器に繋いでおこうということに。

この決断が後々効いてくるとは知る由もなかった。(後編へ続く...)

文:西川淳(Jun Nishikawa)

ロールス・ロイス・スペクター(4WD)ゴーストではない、もうひとつの幽霊(中編)
ロールス・ロイス・スペクター(4WD)ゴーストではない、もうひとつの幽霊(中編)

SPEC

ロールス・ロイス・スペクター

年式
2024年式
全長
5475mm
全幅
2144mm
全高
1573mm
ホイールベース
3210mm
車重
2890kg
モーター
電気モーター×2
エンジン最高出力
584ps/900Nm
タイヤ(前)
255/40R23
タイヤ(後)
295/35R23
  • 西川淳 Nishikawa Jun

    マッチボックスを握りしめた4歳の時にボクの人生は決まったようなものだ。以来、ミニカー、プラモ、ラジコン、スーパーカーブームを経て実車へと至った。とはいえ「車いのち」じゃない。車好きならボクより凄い人がいっぱいいらっしゃる。ボクはそんな車好きが好きなのだ。だから特定のモデルについて書くときには、新車だろうが中古車だろうが、車好きの目線をできるだけ大事にしたい。

    著者の記事一覧へ

メーカー
価格
店舗
並べ替え