ロールス・ロイス・スペクター(4WD)ゴーストではない、もうひとつの幽霊(前編)

ロールス・ロイスの放つEV、スペクターへ試乗。今回は前/中/後編の3回に渡りRESENSE読者へお届け。前編は得体知れぬ「スペクター」へ距離を詰めるところから。

ロールス・ロイスの放つEV、スペクターへ試乗。今回は前/中/後編の3回に渡りRESENSE読者へお届け。前編は得体知れぬ「スペクター」へ距離を詰めるところから。

私的な今年のイヤーカー

今年(2024年)2月のこと。

横浜で初めてスペクターに触れてしばらく試したのち、「私的な今年のイヤーカーは早くも(2月)コレで決まり!」とポストしてしまった。

あれから3ヶ月。

その間もたくさんの新型車をテストしたが、とりあえずスペクターを上回るクルマはいまだにない。依然として私のイヤーカー。おそらく、今年これから登場して日本の道を走るクルマのなかにもスペクターを上回ってくるモデルはないのではないか。

ロールス・ロイス・スペクター(4WD)ゴーストではない、もうひとつの幽霊(前編)

問題があるとすればこの大きさだろうか。全長5.4m超え、幅はもちろん2m超え、高さもほぼ1.6m、ホイールベースは2ドアながらなんと3.2mオーバー。

ロールス・ロイスとしては標準的なボディサイズ、かもしれないが、それでも以前の2ドアモデルであるレイスに比べるとひと回りは大きい。京都駅の一般車乗降レーンに音もなく近づいてきたスペクターはほとんどSUVに見えた。

大きさだけじゃない。スタイリングの異様さというか、発するオーラが半端ない。グリーンに薄いシャンパンゴールドという品の良い2トーンカラーがその存在感を際立たせている。フロントマスクはいかにもロールス・ロイスで、それ以外の何者でもない。

ロールス・ロイス・スペクター(4WD)ゴーストではない、もうひとつの幽霊(前編)

このグリルにしてこの顔つき、後ろから迫られたなら誰もが道を空ける、と同時に頭まで下げてしまいそうな押し出しの強さがある。

そういう意味ではフロントからの眺めに個性はない。

むしろ異様さを感じるとすればそれはリアからの姿を見たときだろう。なんだ、このむべぇっと下唇を出した魚のようなデザインは! エレガンスとは実に“外し”の確信犯的な美学でもあったのだ。

ロールス・ロイス・スペクター(4WD)ゴーストではない、もうひとつの幽霊(前編)

真のハイエンドブランド

リアセクションの見どころはやはり大きく張り出したフェンダーと、そのうえでルーフからリアエンドへと潔くくだるラインのダイナミックな組み合わせだ。

もはやクーペと呼ぶことさえ躊躇われるほどの存在感だけれども、レイスから続くロールスクーペの新たなデザイン文法がここにある。大昔のロールス・ロイスもリアセクションのデザインには独特の個性があったものだ。

ロールス・ロイス・スペクター(4WD)ゴーストではない、もうひとつの幽霊(前編)

大きな後ろヒンジドアを開けてみる。独特な空気がなかから匂い立ってくる。ロールスロイスの香水、ならぬ香皮。なぜか少し生ぬるく、幽霊のようにもわっと漂い出す。クルマ好きならばいい意味でクラクラする香りである。

シートというよりもソファと言いたくなるような厚手の運転席に収まった。少し登って座る。いつ座ってもロールス・ロイスのシートは素晴らしい。これ一脚で軽自動車くらいは賄えそうだ。

フル電動になったからと言って、そこは伝統を重んじる真のハイエンドブランドである。ドライバーを狼狽させることはない。今まで通りに動かせば良いと、ただ包み込むようにクルマが存在するのみだ。

ロールス・ロイス・スペクター(4WD)ゴーストではない、もうひとつの幽霊(前編)

そろりと発進。

微速域における所作の精度こそが超高級車らしさの見せどころ。

フル電動というとなぜか鞭打ちになりそうな加速を奨励する傾向にあるが、あれはむしろバッテリーと電気モーターによる出力を制御し切れていなかったためであって、決して凄まじい加速性能を狙ったわけではなかった。

綿密かつ正確に制御さえできれば、スペクターのように気持ちよく自然に、ドライバーの思うままに巨体を動かすことができるのだった。

ロールス・ロイス・スペクター(4WD)ゴーストではない、もうひとつの幽霊(前編)

“スペクター”もまた幽霊

京都の街中を流す。当たり前だが静か。でも、それは以前の12気筒エンジンを積んだロールスだって同じだ。実はV12がノーズに収まっているんです、と言われても信じるかもしれない。それぐらい、スペクターの乗り味はモダン・ロールスの典型である。

舗装というカーペットのうえを滑り転がるように走る。進むべき方向の意思をしっかりもって動く。乗り込んでしまえばボディサイズに緊張することはもはやなく、むしろ視線の高さに助けれ、動かしやすいとさえ思う。

そう、ボディサイズの大きさはなんら問題ではなかった。そりゃそうだ、京都市内にはもっと大きなクルマ(例えば市バス)だって一方通行の街路へ躊躇いなく入っていく。

ロールス・ロイス・スペクター(4WD)ゴーストではない、もうひとつの幽霊(前編)

ルーフのみならずドアインナーも、なんならインパネも星空風だ。昼間はほとんど気にならないけれど、日が暮れるとかなり賑やか。

それでもドライビングの妨げにはならず、ただ助手席に座った人を、女だろうが男だろうが、喜ばせるのみ。そのあたりはギミックですら計算されている。

街ゆく人や並んだクルマの反応が面白い。驚きが先にくるのは当然だとして、もう一度見たいような見たくないような、ちょっと変わったリアクション。そこにちゃんと存在し、見えるものであるにもかかわらず、どうしてそこにいるのだろうか?という不安も混ざった表情...

なるほど“スペクター”もまた幽霊ではあった。(中編へ続く...)

文:西川淳(Jun Nishikawa)

ロールス・ロイス・スペクター(4WD)ゴーストではない、もうひとつの幽霊(前編)

SPEC

ロールス・ロイス・スペクター

年式
2024年式
全長
5475mm
全幅
2144mm
全高
1573mm
ホイールベース
3210mm
車重
2890kg
モーター
電気モーター×2
システム最高出力
584ps/900Nm
タイヤ(前)
255/40R23
タイヤ(後)
295/35R23
  • 西川淳 Nishikawa Jun

    マッチボックスを握りしめた4歳の時にボクの人生は決まったようなものだ。以来、ミニカー、プラモ、ラジコン、スーパーカーブームを経て実車へと至った。とはいえ「車いのち」じゃない。車好きならボクより凄い人がいっぱいいらっしゃる。ボクはそんな車好きが好きなのだ。だから特定のモデルについて書くときには、新車だろうが中古車だろうが、車好きの目線をできるだけ大事にしたい。

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