アストンマーティン・ヴァンテージAMR(FR/7MT)古典×モダンの新感覚

アストンマーティン・ヴァンテージAMR(FR/7MT)古典×モダンの新感覚

アストンマーティン・ヴァンテージに7速マニュアル・トランスミッションを組み合わせると立ち位置がぐっと変化する。新エンジンを味わい尽くす魔法のツールが7速MTなのだ。

新生アストンマーティンの進化

2017年、およそ12年ぶりに4代目として生まれ変わったアストンマーティン・ヴァンテージ。ラインナップ内での立ち位置は引き継がれるいっぽうで、デザインやパワートレインは少なからぬ変更が施された。

全長×全幅×全高=4380×1870×1260mm、ホイールベース=2600mmの3代目に対し、新型は全長×全幅×全高=4470×1940×1270mm、ホイールベース:2700mmと、全長は90mm、全幅は70mm、全高は10mm、ホイールベースは100mm拡大された。

代替わりするにあたり3代目の4.7リッターV8自然吸気(2008年以前は4.3リッター)は、4リッターV8ツインターボになる。M177型と呼ばれるユニットは、2015年4月からメルセデスAMG C63(W205)に使用され始めたもので、出力違いでE63やG63等に転用された。

アストンマーティンではDB11やDBXが共有している(パワー/トルクは異なる)。今回テストするヴァンテージAMRも同様に搭載する。

ではヴァンテージとヴァンテージAMRはどう違うのか? 次項で探ってみよう。

ヴァンテージAMRとは何なのか

まずAMRとは、アストンマーティン・レーシングの略。競技車両開発のノウハウが注ぎ込まれた証で、高性能市販モデルに冠される。

2019年5月に発表され、即完売したヴァンテージAMRは、限定200台であった。ヴァンテージ・ヒーローエディション(141台)とヴァンテージ59(59台)に大別される。

ヒーローエディションは、
サビロ・ブルー
オニキス・ブラック
チャイナ・グレー
ホワイト・ストーン
のエクステリア・カラー展開となる。

59は、スターリング・グリーン×ライム
の色合いになる。これは1959年のルマン24時間レースで1-2フィニッシュを達成した「DBR1」からインスパイアされている。

インテリアはいずれもAMRらしいライム・カラーを選べる。他は色味やテクスチャーによる差異が与えられる。とはいえ、発表時の資料を掘り起こしても仕様は複雑に込み入っている。

端的にいうと、59は先述のボディカラーと専用ロゴや刺繍が識別点で、ライムの差し色が多い、といった感じだろうか。

何よりのポイントは、ヴァンテージAMRにグラツィアーノ社の7速マニュアル・トランスミッションが組み合わされている点。(ともなってEデフから機械式に置き換わる)

このあたりがどのように楽しみ方に影響するのかが、この記事の焦点になりそうだ。

生まれ変わった内外装デザイン

以前の記事、アストンマーティンV8ヴァンテージ(FR/6AT)最初で最後のマスターピースでも触れたことだけれど、先代モデルのデザインの完成度は誰もが認めるものだった。

だからこの4代目が担う重責は、かなりのものだったと想像するのは容易い。

魚の口のように大きく開いた伝統的なグリルや、アメリカのホラー映画「スクリーム」に出てきた「ゴーストフェイス」の目みたいなテールライトばかりが筆者は気になっていた。

しかしこれらはボディカラーによって印象を変えることを改めて知る。オニキス・ブラックで塗られたテスト車は、要所をカーボンで武装する。同系色でまとまるボディが木々を反射させながら複雑なボディ造形を浮かび上がらせる。

内装に目をやると、シートの中心やルーフに、ライムグリーンの縦ストライプが、全体に暗い印象の室内を明るくしている。何かと操作に迷うインパネの並びや、やや時代遅れのセンターモニターをカバーしきれるかどうかは別として、「特別仕立て」の車に乗っている実感はある。

そして中心に鎮座するのが、丸い握りのマニュアル・ギアシフトだ。1速ギアが左手前に設置され、2速がその右上、以後Hパターンになる配置を取り、ほとんど発進でしか使わぬ1速を除いたギアチェンジに集中できる並びとなる。

V8ターボ×MTがもたらす新鮮味

スコンッとも、ガチッとも異なる、ややグニュっとした感触でギアは1速のエリアに入り、最後にカチッと手応えが伝わる。いっぽうのクラッチミートの感触は明快で、わずか2000rpmから湧き出す625Nmの大トルクもあいまってスムーズなスタートを切ることができた。

その後、2速にインサートしようとしたら、4速に入った。3速→2速とシフトダウンしてみようとしたら3速の代わりに1速に入りかけた。めったに運転しないドッグレッグの7速MTであること、7速ゆえの各ギアの物理的な近さに慣れるまでに、少しばかり時間がかかる。

慣れてくると、たっぷりとしたトルクのあるV型8気筒をマニュアルで御す快感が病みつきになる。1速でも2速でも3速でも、大きなトルクが湧いてくる。高ケイデンスでペダルを掻くのも楽しいけれど、高いギアひと漕ぎで、ぐっと進むロードバイクのあの漲る感覚を思い出す。

肉厚のV8ターボ×MTはこんな感じなのか…。ATと異なり、常に変速タイミングを選べることも、このV8ユニットの旨味を引き出している。

また、タイトなボディコントロールのおかげで、ダブついた感覚が一切ないのもいい。

シフトノブの先にあるレヴカウンターを模したボタンを押すと「AMSHIFT」と呼ばれるオートブリッピングがアクティベートされ、自分が運転するよりも上手な(?)迫力あるシフトダウンが叶う。

ATからMTに置き換わるだけで、まるで違う車になったような感覚になる。

肉体的に楽しむためのモデルだ

もう1つ。アストンマーティン・ヴァンテージの魅力は、その足元にある。前:ダブルウィッシュボーン、後:マルチリンクの生みだす乗り心地の良さは、スポーツカーである事を忘れさせるほど快適だ。

たっぷりとしたV型8気筒に、マニュアルトランスミッションでムチを打ち、しかもしっとりとした乗り心地、なのにタイトな感覚。甘い、しょっぱい、甘い、しょっぱいの繰り返しに、みるみるうちに魅了されている感覚がある。

MTに置き換わるだけで、ヴァンテージの魅力が開放されたのだった…。

退任してしまった元・名物CEOのアンディ・パーマーはこのヴァンテージAMRのデビュー時「マニュアルトランスミッションによる人車一体の走りを、バーチャルの世界ではなく、肉体的に楽しむためのモデルです。」
とコメントしている。またマニュアル車の投入の継続を明言している。

どうかこんな車が、今後のアストンマーティンからも販売され続けてほしいと願わずにいられない。現代における宝物といえる車であった。

SPEC

アストンマーティン・ヴァンテージAMRヒーローエディション

年式
2020年
全長
4470mm
全幅
1940mm
全高
1270mm
ホイールベース
2700mm
パワートレイン
4リッターV型8気筒ツインターボ
トランスミッション
7速AT
エンジン最高出力
510PS/6000rpm
エンジン最大トルク
625Nm/2000-5000rpm
サスペンション(前)
ダブルウィッシュボーン
サスペンション(後)
マルチリンク
タイヤ(前)
255/40R20
タイヤ(後)
295/35R20
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