メルセデスAMG E63は、そのオンとオフの違いが乗り手を驚かす。E63とE63 Sの違いを整理しつつ、モードによるキャラクターの豹変にフォーカスする。
W213型 AMG E63について
今回試乗するメルセデスAMG E63は、その名前の通りEクラスを基本に、メルセデスAMGがチューンナップしたモデルだ。
ベース車両のW213型(5代目)にあたり、AMGモデルの中でも最上位にあたる「63」は、
・E63 4マティック・プラス
・E63 S 4マティック・プラス
・E63 S 4マティック・プラス・エディション1
・E63 4マティック・プラス・ステーションワゴン
・E63 S 4マティック・プラス・ステーション
が最終的にラインナップされていた。
試乗車はいわゆる「前期」にあたり、2016年デビュー(2017年拡充)、「後期」は2020年にデビューしている。
まず気になるのは「E63」と「E63 S」ではないだろうか? 次項にまとめておこう。
E63とE63 Sの違いはどこ?
「E63」と「E63 S」の違いは、主に走りの質に関連する部分に集約される。
まずはパワートレイン。「One man - one engine」と呼ばれ、1人のマイスターが、最初から最後まで手作業で組む4.0リッターV8ツインターボ(M177)は、E63が571ps/5750-6500rpmと750Nm/2250-5000rpmを生み出すいっぽう、E63 Sが612ps/5750-6500rpmと850Nm/2500-4500rpmを生みだす。ちなみにメルセデスAMG GTも同系統のエンジンを搭載し、その際のメルセデスAMG GT Rが585psであった。
またドライブモードの設定も異なる。快適性を重視したC(コンフォート)、ESPは解除しないながらステアリングのアシスト量が減るS(スポーツ)、さらに排気音量が高まりサーキット走行まで視野にいれたESP制御となるSプラスまではE63とE63 Sで共通ながら、E63 Sには「レース」モードが備わる。レースモードではESPが「スポーツハンドリングモード」に切り替わり、サーキット走行特化型のセッティングになる。
エンジン/排気システム/サスペンション/ステアリング/トランスミッション/ESP(オン/スポーティ/オフ)/LSDの介入をいずれも自分好みに組み合わせられるI(インディビジュアル)は両車ともに備わる。
なおこのLSDは、E 63が機械式を採用するのに対し、E63 Sは電子制御式となる。
最後にブレーキ。E 63は前後360mm径のドリルド・ベンチレーテッド・コンポジットディスクとフロント:6ピストン、リア:1ピストン・キャリパーとなる。いっぽうE63 Sはフロントに390×36mmドリルド・ベンチレーテッド・ディスク、リアに360×24mmドリルド・ベンチレーテッド・ディスクを備える。
またE63 Sには「AMGダイナミックエンジンマウント」が備わる。これは磁性流体エンジンマウントであり、アグレッシブなドライビング時はマウントが硬くなる。
かんたんに纏めると、コスメティックな差別化ではなく、走行環境の違いを想定した、エンジニアリングによる差別化といえそうだ。
モード切り替えによる豹変
メルセデスAMG E63に乗って走り出すと、まずは大ぶりのゆったりとしたシートに心地よくなる。E63 Sは、各所にナッパレザーがあしらわれるけれど、E63も申し分なく上質な仕立てだ。
柔和な乗り味となめらかな反応で、私は「ふつうのEクラス」に乗っていると思ったほどだった。
C(コンフォート)モードでは、V型8気筒といえど1000-3250rpmの低負荷時には2番/3番/5番/8番のシリンダーを休止する。実質4気筒で、滑空するように歩を進める。
ステアリングの反応もじつにマイルド。メルセデス・ベンツEクラスらしさがちっとも失われておらず、終始安楽な移動となる。
これをまずSモードに切り替える。先述の通り排気音は変わらぬまま、ステアリングが程よく重みを増す。肩が凝るような重みではなく、いうなればポルシェ・パナメーラに近い、気持ちのいい反応と回頭性をみせてくれる。
Sプラスで豹変する。音は盛大。ゴロゴロゴロとけ猛々しい音。車が視界に入っていなければ、雷鳴かと思う音質である。ニュートラルモードでアクセルをひとふかしすると、音程は低いまま、音圧がどっと高まる。
ステアリングはごっちりと重たくなり、ボディの上下動はハンマーで叩かれたみたいに小さくなる。どことなく大きな岩石を想像する乗り味は、はっきりと強烈で、これまでの平穏は別の車での出来事だったのかとさえ思う。
この極端なまでの二面性こそ、これまでのモデルと比べても、また他メーカーのライバルと比べても突出した部分であると感じた。
先述のE63ならびにE63 SのLSDの差は、正直に申し上げて、はっきりと公道で味わうことが出来なかった。とはいえ長く続く高速コーナーでアクセルを踏み続ければ、普通の車ならば円運動を拒み、外へ外へと逃げ出すようなシチュエーションでも車は内側に向かってよく曲がってくれた。E63 Sの前後0:100駆動も味わってみたいところだけれど、公道+アルファの環境では、E63でさえ有り余る実力だと感じた。
この車はどんな人に向いているのだろうと考える。セダンというフォーマルな形で(とはいえ、やんちゃさは完璧に隠せてはいないけれど)日々の生活をともにし、1人の時間には豹変ぶりを存分に味わう。ジキルとハイド。正反対のキャラクターを味わい尽くす。そのうえドイツ品質(イタリア的危うさは無くてもよい)。そんな車を求める人なのだろうと思う。
SPEC
メルセデスAMG E63 4マティック・プラス
- 年式
- 2018年
- 全長
- 4995mm
- 全幅
- 1905mm
- 全高
- 1460mm
- ホイールベース
- 2940mm
- トレッド(前)
- 1650mm
- トレッド(後)
- 1595mm
- 車重
- 2040kg
- パワートレイン
- 4.0リッターV型8気筒ツインターボ
- トランスミッション
- 9速AT
- エンジン最高出力
- 571ps/5750-6500rpm
- エンジン最大トルク
- 750Nm/2250-5000rpm
- サスペンション(前)
- 4リンク
- サスペンション(後)
- マルチリンク
- タイヤ(前)
- 265/35R20
- タイヤ(後)
- 295/30R20