クーペ・フィアット(FF/6MT)色褪せぬどころか

クーペ・フィアット(FF/6MT)色褪せぬどころか

クーペ・フィアットはエンスージアストのなかで強く記憶に残る車だろう。そんな車のなかには今乗るとがっかりするものがある。クーペ・フィアットは、果たして?

フィアットの意欲作

フィアットの意欲作、クーペ・フィアットの生産開始は今から30年前の1994年。翌年の1995年に日本に上陸した。

直列4気筒のターボエンジン搭載モデル(195ps)がまず導入された。1997年には直列5気筒ターボエンジン搭載モデル「20V」が加わる(220ps)。

この時代の5気筒、そして20Vと読んでピンときたあなたは鋭い。ご想像の通り、ランチア・デルタ・インテグラーレが搭載したものと同じである。

テスト車はそのリミテッドエディションであり、スパルコのストラットタワーバーやエンジン・スターター・ボタン、そしてレカロ製スポーツシート、専用エアロパーツを組み合わせている。

「市販されるFFで最速」と謳われていた当時が懐かしい。

斬新すぎる?内外装

デビュー当時の存在感の大きいイメージとともに生きてきて、30年後に邂逅。そのとてつもなく小さいサイズに驚く。

全長×全幅×全高:4250×1765×1340mm。ホイールベース:2540mm。

ぶくぶくと膨れ上がった昨今の車たちに見慣れた目には、とても新鮮にうつる。

デザインはフィアットのデザイン部門チェントロ・スティーレが行った。チームを率いたのはクリス・バングルだ。

何より斬新なのが前後フェンダーの上にカミソリで切り込んだようなスラッシュラインではなかろうか。

スラッシュラインに目が行きがちだが、その上、フェンダーのショルダーラインは、また違った角度でふくよかに盛り上がっている。じつに優美だ。

ヘッドライトも一緒にがばっと開くクラムシェル型のボンネット、すべすべの何も貼られていないトランクフード、ダブルバブルのヘッドライト…。特徴の塊。それでいて全体がぎりぎりのバランスで保たれており、結果的に美しい。イタリア人の創造性に脱帽するしかない瞬間だ。

赤を大胆に使ったピニンファリーナ・デザインのインテリア。ダッシュボードの中心に堂々と貼り付けられるピニンファリーナのエンブレムなど、どこをとっても新鮮で、今見ても特別な車に乗っていると強く感じさせてくれるのだった。

色褪せるどころか…

プッシュスタートスイッチで直列5気筒エンジンが目覚める。排気音過多の現代車とくらべてエンジンそのもののピュアで元気な音が室内に届いてくる。

大きくストロークするシフトノブを1速へ。アップライトに座った状態でペダルを踏み、上を向いたステアリングを握りしめる。クラッチを離せば車体は自然と前に出る。アクセルを踏むとフロントノーズがむくりと上を向きながら一気に加速する。

「加速にドラマがある」と編集部員が言った。踏めば踏んだ分だけダッシュし、音が力強く響くようになる。演出とは無縁の「生っぽい」加速である。

絶対スピードこそ速くないけれど、とても速いスポーツカーに乗っているような感覚。自然と笑みがこぼれる。

アンダーステアは強い。ステアフィールもあいまいだ。しかし楽しさという面においては、現代のどのFF車にも負けていない。自分の腕で封じ込めようとする醍醐味がある。

当時の憧れの車は山程あれど、いざ今乗り直してがっかりすることがあるのは事実。期待が実力を上回るのだろう。しかしクーペ・フィアットは違う。デザインと走りがちっとも色褪せていない。むしろ今だからこそ魅力が増している車である。

SPEC

クーペ・フィアット

年式
1999年
全長
4250mm
全幅
1765mm
全高
1340mm
ホイールベース
2540mm
トレッド(前)
1490mm
トレッド(後)
1480mm
車重
1330kg
パワートレイン
2リッター直列5気筒ターボ
トランスミッション
6速MT
エンジン最高出力
220ps
エンジン最大トルク
31Nm/2500
サスペンション(前)
ストラット
サスペンション(後)
トレーリングアーム
タイヤ(前)
225/45 ZR16
タイヤ(後)
225/45 ZR16
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