「デザインコンシャス」

2004年にデビューしたメルセデス・ベンツCLS。走行性能や安全性はメルセデスらしく、しかし感性に強く訴えかけるデザインコンシャスなモデルとしての役割を担っている。

2023年時点で3代目となり、基本コンセプトは踏襲しつつも、内外装のデザインは無駄が削ぎ落とされたものとなる（後述）。

3代目は3グレード（うち1つはAMG）存在し、この記事ではCLS220dが主役。

厳密には2018年に施されたマイナーチェンジ後のモデルであり、194psと400Nｍの2リッター4気筒ディーゼルターボこそ変わらないが、ヘッドアップ・ディスプレイが標準装備されたり新色が追加されたりしている。

「メルセデスらしさ」の現れは安全システムに代表される。内容はSクラス同等で、車両/車線/ガードレールを常時監視する先行者追従や、システム起動時には停止後の再発進までしてくれるほか、ドライバーがウインカーを点滅させた場合、周辺車両を確認して、自動で車線を変更する「アクティブレーンチェンジングアシスト」まで備わる。

新車価格は918万円だった。マイナーチェンジ前は799万円であったことを考えると驚きのプライスタグだが、昨今の自動車業界を取り巻く環境や円安を考えると致し方ないことか…。むしろ中古車価格の旨味を感じずにはいられないとも考えることができよう。

そんなコンテンツを、4ドアクーペが包み込む。メルセデス・ベンツはCLSのことを「デザインコンシャス」であり「トレンドセッター」だという。内外装を見ていこう。

トレンドセッターCLS

CLSをCLSたらしめるのは、やはりこの外観であろう。4枚のドアを有しながらも、上下に薄いグラスエリア、ともなって高いウエストライン、そしてなだらかに落ちてゆくルーフラインが特徴だ。サッシュレスウインドウもまたメルセデス製クーペの伝統である。

またこの世代からは台形型の大型グリルの両脇に尖ったヘッドライトが並ぶ。オグロメジロザメがモチーフになったのだという。中央にメルセデスのロゴ、周囲には小さなスリーポインテッドスターが無数に散りばめられる。

リアコンビネーションライトが低い位置に置かれているのはワイド感を強調するものだという。全体のエッジは削ぎ落とされ、シンプルな面表現になっているのも特徴だ。

内装はステアリングホイールが最新世代になった。握ったままコントロールできる領域が増えているのはありがたい。

その向こうに12.3インチの横長ディスプレイが2枚見える。タービンエンジンをイメージしたという送風口からは64色のイルミネーションが漏れ光る。

外観同様、内装もスムーズな面構成となる。

この世代から5人乗りになる。CLSとしては初めてのことである。後部座席の乗降性が高まっており、背もたれは40:20:40の分割可倒式。クーペフォルムでありながら490L〜520Lの荷室容量が確保されている。

外観と中身　どちらも

エンジンを掛けてまず感心するのはディーゼル特有の振動が最低限までミュートされ、音さえほとんど聞こえぬ点である。

また、静止状態からの加速時におけるトルクのキャッチアップはさすが。普段の移動ではディーゼルの方が心地よく、心強いと感じる。

心地よさには、それぞれの要素の連動も大きく寄与していると思う。たとえばアクセルペダルの踏み心地（＝重み）、制動の安心感、ステアリングの重みつけと操舵反応、とろりとなめらかな9速ATの変速マナーなど、それぞれがしっとりと調和しているのである。

乗り心地もまた、コンサバティブな足廻りの車のなかでは穏やかこの上ない。

ここでふと気づく。これはメルセデス・ベンツの味わいそのものである。そしてこれこそが、CLSの良さ。つまり、スタイリッシュでモダンな外装に身を収めつつも、メルセデスらしい「湿度」を味わえることがCLSにおける最大の価値なのだと実感した。

スタイリッシュであることはもちろん魅力のひとつだが、メルセデスらしさがきちんと詰まっているからこそ、デザインも、そしてメルセデスらしさも浮かび上がってくるのだ。