アルピナD5Sリムジン・アルラット(4WD/8AT)感じる心

アルピナD5Sリムジン・アルラット(4WD/8AT)感じる心

アルピナに乗ると、自然と耳を、心を澄ませている。アルピナの味があるのか、と。このような心持ちにさせるのがアルピナだ。走らせる前から、私達はアルピナを感じている。

D5Sリムジン・アルラット

この記事で触れるアルピナD5Sがデビューしたのは2020年。「G30」と呼ばれる7代目5シリーズのマイナーチェンジに沿って、アルピナD5Sもデビューした。

3リッター直列6気筒ツインターボ(それぞれのタービンサイズが異なる)を引き続き搭載する一方で、最高出力は326ps→347psに、最大トルクは700Nm→730Nmに増強された。

D5「S」と名前がつくものの(普通の)D5が存在するわけではなく「D5Sリムジン・アルラット」というのが正式名称だ。リムジン=セダン/サルーン、アルラット=4WDを意味する。

なおマイナーチェンジ前までは「D5Sビターボ・リムジン・アルラッド」を名乗った。特にビターボ=ツインターボを声高に謳う必要がなくなったという判断だったのかも知れない。

日本史上はD5Sリムジン1種類だが、ドイツ本国ではツーリング=ワゴンも存在する。

さて、気になってくるのはそのD5S、アルピナによってどのような手が施されているか、である。次項で追っていこう。

D5Sは何がどう特別なのか

この時代のアルピナD5Sには「アルピナ・スポーツ・サスペンション」が備わる。パワートレインを主体に調和を重んじた設定を目指した。

電子制御正規のダンパーは、伸び側(=リバウンド)のスピードと、縮み側(=コンプレッション)のスピードをアルピナが調律した。

またアルピナの特長ともいえるニュートラルなハンドリングのために、ウィッシュボーンを調整してフロントのキャンバーを1°ネガティブにした。これはグリップにも効く。

xドライブと呼ばれるBMWの四駆システムにも手が入った。なかでも前後トルク配分が通常の5シリーズと異なる。後輪重視の設定だ。

タイヤはピレリ。新車状態であれば「ALP」刻印つきのPゼロで、前:255/35 ZR20、後:295/30 ZR20となる。標準のPゼロとは、使用する素材が異なっている。

ホイールは鍛造で、鋳造よりもバネ下重量が約25%異なる。アルピナはアジリティのためだというが乗り心地にも影響すると考える。

ブレーキはブレンボ製で、前:395mm、後:398mmのディスクとなる。オプションで軽量ドリルド・ローターと高耐熱パッドも選べた。

内外装は、アルピナの定石

いわゆる前期型からエアインテークのサイズが約40%拡大した。Mスポーツのものを基本とするのは、新世代、つまり創始者ブルカルト・ボーフェンジーペンからアンドレアスに代替わりした新時代を感じさせる要素だと思う。

先述の20インチホイールやアルピナブルーのボディカラー、シルバーのデコラインに、リアエプロンの中に組み込まれる左右2組のツインテールパイプなど、この車はアルピナらしい外観となっている。

室内も同様ミルテウッドが左右に堂々と、しかし繊細に広がるダッシュボードや専用のコンフォートシートもアルピナの定石通り。ラヴァリナ・レザーのスポーツステアリングは1本ずつ手作業で仕上げられる。すべすべとして柔らかい。温かみがあり、ずっと握っていたくなる。

デジタルメーターがさり気なくアルピナのブルーに変わっている点も見逃せない。デジタル時代の配慮。神は細部に宿るのである。

しかし私は走り出して違和感を覚えた。

アルピナらしくない?走り

目覚めたてのアルピナD5Sリムジン・アルラットは、想像を超えた逞しい音を周囲に響かせた。握ったハンドルは私のアルピナへのイメージよりも、かなり太かった。

走り出しも強大なトルクが車体を突き進める。まるで戦車みたいだ。もっといえばM5のようだ(禁句かもしれないけれど…)。

乗り心地はどうだろう。ハタハタとアシを繊細に動かしながら車体を落ち着ける一昔前のアルピナと比べると「ラップタイム重視!」とまではいかないものの、やはり随分骨太だ。

相応の速度域―大半はスピード違反で捕まる―に近づけば、しっとりと落ち着く。日本の一般的な速度域よりももっと高い所を想定して造られた車のようだという印象をもった。

ワインディングでもトルクフルで骨太な印象は変わらない。ここまで読むと、鈍重でパワフルなだけの車だという印象を抱くかもしれないが、ことハンドリングにおいてはアルピナそのもの。操舵初期から繊細すぎるほどの反応を示し、また4WDであるのかと疑わしくなるほどリアから内に向けて車体が回り込んでゆく。

細かく区分けしてD5Sを見つめると、かつての奥ゆかしさは霧散してしまったけれど、全体としてはアルピナなのかもしれない…。ここでふと思ったことがある。

そもそも「アルピナ」とは

アルピナの造る製品が変わった。というのはここ最近よく聞いていた言葉だ。

創業者のブルカルト・ボーフェンジーペンから息子のアンドレアスおよびフロリアン・ボーフェンジーペンに経営を実質的にバトンタッチしてから…。純正タイヤがミシュランからピレリに置き換わってから…。憶測が絶えない。

私がアルピナの内部事情に詳しい人物と会話した際には「BMWの性能が年々高まっていて、アルピナの定めるレベルに持ち上げる労力が昔より減った」という旨の事を言っていた。

2025年にはBMWへアルピナの商標譲渡が決まっている。

アルピナは今、激動のさなかにいる。

何よりアルピナのステアリングを握ることで、「この車も真のアルピナか」と全神経を集中させることが、そもそも特別なこと。

ジャンクフードに慣れた舌が、繊細な出汁のグラデーションに気づけないのと同じように、アルピナをドライブするということは、車と向き合う乗り手の「センサー」が試される。感じようとする気持ちがあるからこそ、そのような行為が、行為として成り立つのである。

SPEC

アルピナD5Sリムジン・アルラット

年式
2021年
全長
4980mm
全幅
1870mm
全高
1480mm
ホイールベース
2975mm
トレッド(前)
1610mm
トレッド(後)
1600mm
車重
1960kg
パワートレイン
3リッター直列6気筒ディーゼルターボ
トランスミッション
8速AT
エンジン最高出力
347ps/4000-4200rpm
エンジン最大トルク
730Nm/1750-2750rpm
サスペンション(前)
ダブルウィッシュボーン
サスペンション(後)
インテグラル・アーム
タイヤ(前)
255/30 ZR20
タイヤ(後)
295/30 ZR20
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