メルセデス・マイバッハS650(FR/7AT)マイバッハにしかできないこと

メルセデス・マイバッハS650(FR/7AT)マイバッハにしかできないこと

メルセデス・マイバッハSクラスは、率直にいってSクラスと似通うところが多く感じられる。実際に乗ってみると? マイバッハらしさとは? 前後席に乗り込み検証した。

そもそもマイバッハとは

「マイバッハ」

その音からもどこか特別な空気をまとう。

マイバッハは人の名前。ヴィルヘルム・マイバッハ。1846年生まれのかの男に目をつけたのがゴットリープ・ダイムラー。ダイムラー社の創設者だ。

ダイムラーのもと、エンジニアとして働いたヴィルヘルム・マイバッハは、1901年、メルセデス第1号を設計。世界で初めて4輪ガソリン自動車を発明した人物としても知られる。

ツェッペリン伯爵の硬式飛行船の開発に協力するため、1909年に独立。息子、カール・マイバッハとともに、エンジン製造の会社を始めた。その年、63歳だった。

シュトゥットガルトで死去するまでの20年、息子(とその従業員)との二人三脚の関係は続き、その間、航空機のエンジンや腕時計、高級車を世に送り出した。

1952年、息子のカール・マイバッハが引退。1966年にダイムラー・ベンツは50%の株式を取得。3年後にMTU(Motoren und Turbinen Union)と社名を新たに、鉄道用のエンジンなども生産。

2002年、超高級車の存在を欲したダイムラー社は「マイバッハ」の名を冠したモデルを発表。これが今回試乗するメルセデス・マイバッハS650の先祖といえる。

新生マイバッハの2代目

新生マイバッハの登場から、この記事の主役である2代目の登場まで15年もかかったのは、ブランドが一時期消滅していたからだ。思うように収益化できなかったことが理由である。

2013年の廃止。そして翌年。「マイバッハ」という独立ブランドではなく、メルセデス・ベンツのサブブランド「メルセデス・マイバッハ」としてブランド名は復活。

S560(右ハンドル)、S560 4MATIC(左ハンドル)、S650(左ハンドル)の3台が日本マーケットで発表された。

S560は4リッターV型8気筒ツインターボを、S650は6リッターV型12気筒ツインターボを搭載。それぞれ2253万円、2253万円(FRと4WDで値段は変わらず)、2761万円のタグを掲げた。

外観上の大きな違いは、まずはホイールベースだ。Sクラス・ロングより200mm長い。足元のスペースのみならず、前後に優雅で伸びやかな印象を与えている。

ぬめっと光る20インチ鍛造アルミホイールも、明らかに「普通ではない」オーラを放つ。

内装の最大の違いは、もちろん後部座席にある。そしてこここそが、今回のインプレッションの中心になるのである。

スペックではわからない

後部座席に腰をおろす。当たり前に装備されるシートクーラー/シートヒーターの隣に、人がハーマンミラーのラウンジチェアで寝そべるような図柄のスイッチがある。

これを押すと、シート全体が後方に43.5°倒れ込みながら、ふくらはぎの下からオットマンが出現する。前方、助手席もぐっと姿勢をすくめて視界がひらけてくる。

足元は77mm広くなる。天井を見上げるとSクラスより大きなヘッドクリアランスのおかげでセダンなのに圧迫感がない。

車が進み始めると、ささやかだけれどなめらかで威厳のあるV12サウンドが聞こえる。かといってその音は大きくなることもなく、控えめであることに徹する。

それ以外に聞こえてくる音といえば、エアコンのシューっという音のみ。隣にトラックが見えてはっとする。まるでノイズキャンセリングのヘッドホンをつけているように静かだ。

メルセデス・マイバッハはフルリクライニング時の着座位置とサイドウインドウの距離まで計算し、音響特性も考えているという。

遮音材や特殊なシーリング技術など、数値スペックでは現れ得ない違いにまで、徹底してこだわっている。

ハンドルも握ってみると

本来の使い方を考えると、これでインプレッションを終えてもいいかもしれないが、ステアリングを握ってみることにした。

眼前に広がるのは、基本的にはSクラスのそれ。しかしよく見ると、ダッシュボード中央の時計がIWCであったり、アームレストにマイバッハのエンボス加工が施されていたりと、特別な車であることをさり気なく物語る。

ステアリング・レシオの変更は無いため、回頭性はSクラスに準ずる。じわりとした反応でメルセデスらしい心地よさと言えるだろう。

先述の6リッターV12ツインターボユニットは、実はAMGが開発したものだけれど(馬力もトルクも全くの同値)、メルセデス・マイバッハ用のセッティングが施されているという。

たしかに排気音は、明らかに異なる。AMG S65は、排気パイプのなかで反響するかのような、低音+中音の大きめな和音であるのに対し、マイバッハS650は低音+ささやかな高音で音量そのものも小さく上品だ。

とはいえアクセルを踏むと、それなりの「雄叫び」に変わる。音量こそ控えめながら、太く豊かなトルクが湧き上がる。加速にオーラがあるとすれば、それは明らかに12気筒の為せる技。燃焼間隔の短さ、ピストンの慣性力の小ささが、絹のようななめらかさを実現する。静止状態から意図的に強くアクセルを踏み込む。大柄な男を3人乗せていたマイバッハS650は、しばらく車体を左右に滑らせながら加速していった。

今や高級SUVが跋扈する時代ゆえ、船のようなふわりとした乗り心地はセダンタイプの得意領域とはいい難い。

けれど予てから評判がよいマジックボディコントロールのおかげで、限られた可動域のなかで完璧な衝撃吸収を実現する。コーナリング時に最大2.65°まで車を内側に傾ける機能も相まって、至極平和な移動となった。

この車にしかない魅力は

繰り返しになるがショーファードリブンでもSUVを使うシチュエーションが増えた。快適性においてもSUV優勢の場合が増えた。

しかしながら今回走らせてみて、サルーンであるからこそのフォーマル感が間違いなくある。

もう1つ驚いたのは、特に車に詳しくない人でもこのマイバッハS650をみると振り返って見てくること。一見メルセデス・ベンツSクラスに見えなくもないが、メッキの使い方や見慣れたSクラスよりも明らかに長いホイールベースが、ただならぬオーラを放っているのだろうと思った。

またショーファードリブンを最優先して作った車は、ハンドルを握った瞬間に退屈になることが経験上少なからずある。

けれどこのS650は、快適性/安心感、そして官能性が高いレベルにある。ドライバー想いのオーナーであれば、S650を選ぶ理由がたっぷりと揃っているはずだ。

後席のために助手席を倒した際、メーターにはこんなメッセージが表示される。「ドアミラーが見にくい場合は、助手席を移動させるか、ヘッドレストをはずしてください」。

真面目、実直、完璧主義。メルセデスにしか作ることのできない最高級車があるのだと、ひとり納得した。

SPEC

メルセデス・マイバッハS650

年式
2017年
全長
5465mm
全幅
1915mm
全高
1495mm
ホイールベース
3365mm
トレッド(前)
1630mm
トレッド(後)
1650mm
車重
2360kg
パワートレイン
6.0リッターV型12気筒ツインターボ
エンジン最高出力
630ps/4800-5400rpm
エンジン最大トルク
1000Nm/2300-4300rpm
サスペンション(前)
4リンク
サスペンション(後)
マルチリンク
タイヤ(前)
245/40 R20
タイヤ(後)
275/35 R20
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