イタリア車のなかでも忘れられない車に共通するのは、ある1つが突出している「特化型」の性格。言うまでもなく褒め言葉である。
私がいかに気の利いた言葉でこの音を表現するよりも、艶やかな様は伝わろう。
何より音!音!音!
走らせてみると音意外に印象的なポイントは正直なところない。
スカイフックサスペンションを備えないため、足さばきはどこかいびつな印象だし、ハンドリングも落ち着いたものではない。(あるいはテスト車が装着しているオーリンズの車高調のせいかもしれない。ノーマルはもう少ししっとりと落ち着いている。)
乗り心地はたしかに当たりに丸みはあるものの、常にひょこひょこと上下動するし、ノーズの反応も一貫性がなく、あまり意図した方向に車を動かせないのである(私が下手だと言われればそこまでだけれど…)。
トランスミッションの変速はなめらかだけれど、これもシングルクラッチ式ATに比べて…というところに留まる。故障リスクが少ないという点を褒めるというのも寂しい。
ただ、4.7リッターV8自然吸気の生み出す、そして管楽器のような排気管が伝えるサウンドは、先述のとおり芸術である。これだけが全ての悪癖を拭い取る。まるでなかったかのようにする。走り終わると口が半開きになり、目がうつろになり、手足は痺れきっている。
スーパーカーならまだしも、サルーンでこのようになるのは、クアトロポルテのそれもスポーツGT Sに限ったことである。ビブラートをあたりにこだまさせながら、ゆっくりと走るのもよし。思い切りアクセルを踏んづけるのもよし。
朝であろうが夜でああろうが、渋滞の都心でも、ワインディングでも、私はこのサウンドを永遠に聴いていたいと思うのだった。
SPEC
マセラティ・クアトロポルテ・スポーツGT S
- 年式
- 2010年
- 全長
- 5110mm
- 全幅
- 1895mm
- 全高
- 1420mm
- ホイールベース
- 3064mm
- トレッド(前)
- 1580mm
- トレッド(後)
- 1600mm
- 車重
- 2050kg
- パワートレイン
- 4.7リッターV型8気筒
- エンジン最高出力
- 440ps
- エンジン最大トルク
- 490Nm/4750rpm
- サスペンション(前)
- ダブルウィッシュボーン
- サスペンション(後)
- ダブルウィッシュボーン
- タイヤ(前)
- 245/35ZR20
- タイヤ(後)
- 295/30ZR20