マセラティ・クアトロポルテ・スポーツGT S(FR/6AT)何ということでしょう!

マセラティ・クアトロポルテ・スポーツGT S(FR/6AT)何ということでしょう!

イタリア車のなかでも忘れられない車に共通するのは、ある1つが突出している「特化型」の性格。言うまでもなく褒め言葉である。

スポーツGT Sとは?

マセラティ・クアトロポルテ・スポーツGT Sは、2008年、同社の記録的なセールスの最中に生まれたスポーツグレードである。

この年、マセラティは全世界で前年+17%、国内でも+25%の販売となった。

同時期、クアトロポルテはSグレードが全体の14%を占めた。グラントゥーリズモもSが19%に。スポーツ性が人気だという記録が残る。

さらに拍車をかけるために投入されたのがスポーツGT Sというわけだ。

4.7リッターV8自然吸気は10ps増しの440psに。0-100km/h加速タイムも0.3秒短い5.1秒に。最高速度は5km/h高い285km/hに。

外観はブラックアウトされたディテールが目立つ。車高は前後それぞれ15mmと11mm低い。

一方インテリアはラグジュアリー志向に思える。ささやかなチタン・テックス加飾のほかは大部分をアルカンターラが温かみのあるステッチによって縫い止めされる。それらしいのは大きくなったシフトパドルくらいだろうか

ため息漏れる排気音

何よりため息が漏れるのは、いうまでもなくクアトロポルテ・スポーツGT Sのエグゾーストノートだ。

しばらくのクランキングの後に、排気管の中を何度も反響しながら野太く乾いたサウンドが連続的に響く。フォーーー。アクセルを踏み込んでみると一段と高まる音が、震えるように響く。音量はかなりのもので、大きくアクセルを踏みつけるとカントリーサイドならば1km先でも耳に届くレベルにある。

この車のデビューから程なくして、ストラディヴァリウス(1731年製ロマノフ)とマセラティのサウンドの共通点を、「音響心理実験」、「生体情報計測実験」、「周波数分析」の3本柱で大真面目に見出している。

実験結果は、迫力があり、創造力をかき立て、脳を活性化させるうえに、明瞭な整数次倍音があるという評価だった。

さらに10年前に遡ると、特に女性がマセラティのサウンドを耳にするとテストステロン値が異常に高まるという実験結果をワイヤード誌が発表している(VWポロでは下がった)。

私がいかに気の利いた言葉でこの音を表現するよりも、艶やかな様は伝わろう。

何より音!音!音!

走らせてみると音意外に印象的なポイントは正直なところない。

スカイフックサスペンションを備えないため、足さばきはどこかいびつな印象だし、ハンドリングも落ち着いたものではない。(あるいはテスト車が装着しているオーリンズの車高調のせいかもしれない。ノーマルはもう少ししっとりと落ち着いている。)

乗り心地はたしかに当たりに丸みはあるものの、常にひょこひょこと上下動するし、ノーズの反応も一貫性がなく、あまり意図した方向に車を動かせないのである(私が下手だと言われればそこまでだけれど…)。

トランスミッションの変速はなめらかだけれど、これもシングルクラッチ式ATに比べて…というところに留まる。故障リスクが少ないという点を褒めるというのも寂しい。

つまりドイツ車のような完全無欠なサルーンを求める向きにとっては、納得のしようのない出来栄えである。正直にいって。

同じ年式のスーパーサルーンを横並びでみても、機械的に「優れた」車は多い。

ただ、4.7リッターV8自然吸気の生み出す、そして管楽器のような排気管が伝えるサウンドは、先述のとおり芸術である。これだけが全ての悪癖を拭い取る。まるでなかったかのようにする。走り終わると口が半開きになり、目がうつろになり、手足は痺れきっている。

スーパーカーならまだしも、サルーンでこのようになるのは、クアトロポルテのそれもスポーツGT Sに限ったことである。ビブラートをあたりにこだまさせながら、ゆっくりと走るのもよし。思い切りアクセルを踏んづけるのもよし。

朝であろうが夜でああろうが、渋滞の都心でも、ワインディングでも、私はこのサウンドを永遠に聴いていたいと思うのだった。

ドイツ車のりの戯言

モダン・マセラティのテイストを尊重しつつ、4枚のドア、流麗で、しかしどこか癖のあるデザインを施したのは日本人である。

このボディの中に身を収め、アクセルを踏めば、快楽の世界に一直線。下手をすれば「飛んでしまう」サウンドに身を浸す。

そういえば私の友人も、2人がこのクアトロポルテ・スポーツGT Sを所有している。1人は、これから生まれてくる女の子のために、後部座席にチャイルドシートをつけた。

果たしてどんな家族だけの移動になるのだろうか。その子はどんな大人に育ってゆくのだろうか。ちっとも羨ましくないといえば、それはまっかな嘘。ドイツ車のりの戯言=僻みなのだ。

SPEC

マセラティ・クアトロポルテ・スポーツGT S

年式
2010年
全長
5110mm
全幅
1895mm
全高
1420mm
ホイールベース
3064mm
トレッド(前)
1580mm
トレッド(後)
1600mm
車重
2050kg
パワートレイン
4.7リッターV型8気筒
エンジン最高出力
440ps
エンジン最大トルク
490Nm/4750rpm
サスペンション(前)
ダブルウィッシュボーン
サスペンション(後)
ダブルウィッシュボーン
タイヤ(前)
245/35ZR20
タイヤ(後)
295/30ZR20
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