メルセデス・ベンツ300TE(FR/4AT)「ゼンキ」の味

メルセデス・ベンツ300TE(FR/4AT)「ゼンキ」の味

メルセデス・ベンツ280E(中期)/E320(後期)に加えて、300TE(前期)のステーションワゴンに試乗。もとを辿れば、その車の真の存在意義もわかるものだ。

ミディアムクラスの「前期」

2022年の12月にレセンス編集部はメルセデス・ベンツW124の中期=280E(ミディアムクラス)と後期=E320(Eクラス)に比較試乗し、度々アクセスランキングの上位入りした。読者の皆様の関心の高さがうかがえる。

前期、中期、後期のディテールの違いや、安全性への飽くなき(いな狂気的なまでの)挑戦はその記事に詳しい。

メルセデス・ベンツ280E/E320(FR/4AT) 魅惑の「イチニーヨン」

今回試乗するのは、S124…つまりステーションワゴン。グレードは300TE。前期にあたる。

かなり厳密な話をすると、純粋な日本マーケット向けの300TEは1990年〜、言い換えれば中期モデルからの導入となっていた。

試乗する個体は1987年式である。日本には1987年〜230TEだけが存在した時代だ。

「前期」のディテールに迫る

外装は、いわゆる「前期」の典型的ディテールで、マニアはこれだけで唸るかもしれない。

アルミホイール周囲には15個の穴が開く。ドアハンドルやバンパー、サイドミラーは樹脂製の無塗装。いわゆるサッコパネルと呼ばれたクローム入りのボディサイドパネルはまだない。

中期〜中後期モデルと共通する部分としては、フロントグリルが大きくヘッドライト内側と接する点。ウインカー・レンズもオレンジ色だ。

テールライトも3色に色分けされ、セダンはレンズ上端〜ナンバープレート上端が一直線に並び、どことなく外連味のない印象を受ける。

私が驚いたのはシートの座り心地だ。かねてから「前期のシートは別物」と聞いていたが、中期以降の特に布シートは、程よい反発とクッション性で長くドライブしても疲れないから、これより良い物は想像しづらかった。が、違った。例えるならばトランポリンのようで、座面全体が大きく動いて上下からの入力を吸収。走らせれば乗り心地もより良く感じられるはず。

基本的なインパネ周りは、前期〜後期にかけて大きく変わらない。細かな所でいえば、燃料計が収まるもっとも左のメーター下部にエコノメータがあり、これは燃費を意識させる。またエアバッグが備わらない。だからステアリングはすっきりとしている。私には握りが細く、径が大きく感じられた。実測値はどうだろう。助手席前方にもエアバッグがなく小物入れになる。

ワゴン/セダン 各世代の走り

走りの印象はどうだろう。

前期〜最終モデルに至るまで、全幅は前:1740mm、後:1884〜1885mmを維持する一方で、トレッドは前:1495mm→1505mm、1490mm→1500mmに拡大しており、タイヤサイズが195/65 15インチと変わらぬゆえフットワークの違いを感じる。想像がつくかも知れないが、前期〜中期の方が、中後期〜後期よりも明らかにひらりと走る印象がある。

同時につくづく、タイヤに頼り切る現代の車との違いを感じる。シャシー完結型なのだ。

2960ccの直列6気筒ユニットは93年の排気量拡大までフラッグシップ機であったが、そもそも車じたいがエンジンに依存したコンセプトではないからか、黒子に徹するイメージ。市街地をゆったりと走らせる限り、不足はなかった。

124系のどのモデルにも共通することではあるが、とかく乗り心地がふわりとしている。車体にやわな感じもない。たしかにセダンの方が剛性感があり、開口部の大きさゆえか、ごくたまにうねりを伴う路面で車体後端がわななくこともあったが、ごくたまにである。申し分ない。

KEジェトロ(燃料圧力噴射×電気制御)ゆらいの燃料システムが理由だと推測されるが、エンジンの掛かりだしや、ふとした時のアイドリングで少し心許ない気もする。しかしそれより「味わい」的要素のほうが色濃いのがふしぎ。

124系の滋味が世代を語らせる

最終モデルでさえ1996年。およそ30年も前の車である。そのなかでもこの300TE(いわゆる前期にあたる)は、見た目こそ大きく違わないのに走りは確かにクラシカル要素がある。

そういえば海外でも、前期/後期型のことを、英語でそのまま「ZENKI/KOKI」と言うことが増えた。それだけ日本車が人気であり、また一般人からしたら「?」な違いを、厳密に味わう喜びや余裕が広まっている。

スポーツカーでもないこのメルセデス・ベンツのセダンにも、マイナーチェンジ前後の違いを喜ぶファンがいる。ひとえに「124系」の滋味に満ちたキャラクターだからこそだ。

どんな天候でも毎日乗る車ではないのが前期型…とここまで書いてはたと気づく。124系の、とりわけ前期型は立派なクラシックカーになっている。それも誉れ高きクラシックカーになっている。

SPEC

メルセデス・ベンツ300TE

年式
1987年
全長
4765mm
全幅
1740mm
全高
1490mm
ホイールベース
2800mm
トレッド(前)
1495mm
トレッド(後)
1490mm
車重
1470kg
パワートレイン
3リッター直列6気筒
トランスミッション
4速AT
エンジン最高出力
185ps/5700rpm
エンジン最大トルク
260Nm/4400rpm
サスペンション(前)
ストラット
サスペンション(後)
マルチリンク
タイヤ(前)
195/65 VR15
タイヤ(後)
195/65 VR15
メーカー
価格
店舗
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