アルファ・ロメオ・スパイダー(FR/5MT)遊びをせんとや生まれけむ

アルファ・ロメオ・スパイダー(FR/5MT)遊びをせんとや生まれけむ

端的に言って緩い作りのアルファ・ロメオ・スパイダーだがデザインや元気のよいパワートレインがそれらを覆い、むしろ緩さも味わいにする。これこそオールド・アルファだ。

アルファ・ロメオ・スパイダー

アルファ・ロメオ・スパイダーは、アルファ・ロメオが生み出した2シーター・スポーティカーである。今回試乗するモデルはその初代の4番目(シリーズ4と呼称)の世代にあたる。

まずは、シリーズ1〜4の歴史を簡単に振り返っていこうと思う。

101系(ジュリエッタ)の後継、105系としてアルファ・ロメオ・スパイダーが産声をあげたのは1966年のこと。ボートテールとは読んで字のごとし。まるでボートの様なリアが窄んでいく優雅な形状をもつ、ピニンファリーナの力作だった。途中、「1600」と呼ばれる1570ccモデルから、「1750」=1779ccに最上位モデルが切り替わった。また「1300ジュニア」=1290ccも、手の届きやすいモデルとして後から加わった。

1970年にシリーズ2となる。流麗なボートテールは後部をバスっと切り落としたコーダトロンカ(カムテール)になる。これにより抗力係数が向上したのだという。最上級モデルは「2000」=1962ccに昇格。「1600ジュニア」が続いた。「1300ジュニア」もあった。

13年後、3番目のモデルが加わる。やはり特徴はリアにある。ウレタン素材のスポイラーは、ギュッと上に跳ね上がる。フロントグリルも大きくなった。1570ccと1962ccが存在した。

こうして考えると、同じ世代に区分けされつつも、それぞれのシリーズが、フルモデルチェンジ並のロングスパンで生きたことになる。

そしてシリーズ4。今回の主役だ。

1990年にシリーズ4が登場した

1990年に登場したシリーズ4。1993年の販売終了を考えると、シリーズ4だけが短い期間だったといえる(様々な事情があった)。

外装の特徴は黒いバンパー類がボディ同色かつスムージングされた点。テールライトも左右フルワイドになった(164からインスパイア)。

ダッシュボードも近代化され(といっても今から30年も前だ)、5速MTに加え3速ATも加わった。キャブレターエンジンはボッシュのモトロニック・インジェクションに置き換わった。

乗り手を極端に狭めない世代ともいえる。

車体寸法は、簡単にいってしまえば「低く、細長い」といった印象が強い。全長×全幅×全高=4260×1630×1290mm。幌と閉じていると直角方向にルーフラインが立ち上がるためヒョッコリ背が高く見えるが、随分低い。

インテリアで印象的だと私が感じるのは、やはりセンターコンソール前方からこちらに向かって突き出すシフトノブで、これだけでどんな運転体験なのかわくわくしてくるものだ。

色々な悪癖を覆い隠す「魔法」

ドアを閉じると小さな車体が揺れる。シートポジションは低く、ペダル/ステアリングまでの距離は日本人の平均的な体格だと遠く感じる。イタリア車に乗っていることを実感する。

クラッチペダルを踏んでエンジンを掛けるとアルファ・ロメオ・スパイダーは簡単に目覚めた。キャブ時代のスパイダーみたいに、何度もアクセルを踏んで目覚めさせるといった古典的なクラシックカー的「儀式」は不要だ。

長めでやや曖昧な感触、ストロークが長めのシフトノブをニュッと1速にインサート。アクセルを少し煽れば1961ccの直列4気筒エンジンが唸る。簡単にスタートした。

はっきりいって飛び切りの加速を披露するわけではない。それに車体はゆるい。厳密には、ロール軸に対して、車体前後でバラバラの動きをする。もっといえば前後で左右真逆になるときもある。ともなって乗り心地も柔らかいだけで、入力を収縮させようという意図はない。

でも気持ちが晴れやかだ。ツインカムエンジンが衝撃的なまでに元気で非現実の世界だ。ボディデザインも前後に伸びやかで、やっぱり非現実の世界だ。アルファ・ロメオって考えてみたらずっとそういう車だった。今のアルファ・ロメオはすっかりハイクラスの洗練されたおしゃれさんになったけれど、そうか90年代まではこれだったよな…と、煤けていた自分のセンサーが次第に敏感になりつつあるのを感じる。

色々と気になっていたことがバカらしくなり、元気なエンジンをぶん回して美しいボディをどんどん手なづけてゆく快感がたまらなく楽しくなる。何ならばこのゆるいボディの「お陰」で楽しいドライビングになっているとも感じる。

「蛇の毒にやられる」。とは、いわゆる古典的なアルフィスタが使う、車への陶酔の表現だけれど、今この瞬間、間違いなく私もこのアルファ・ロメオ・スパイダーに耽溺している。

「遊びをせんとや生まれけむ」

この車がデビューするよりさらに800年前に、イタリアとは縁もゆかりもない日本で「梁塵秘抄」という今様集があった。後白河院が編んだ。そこにこんな言葉がある。

「遊びをせんとや生まれけむ」

様々な解釈があるけれど、「人は遊びをしようと生まれてきた」という意味合いの裏には、反語的に「生まれてきたはずなのに、気付いたらあくせく働き、人間関係に喜怒哀楽している」というものが多くの捉え方だ。

アルファ・ロメオ・スパイダーに乗っていると、この車の緩さと色気に酔い、この言葉が自然と思い出されるのだった。

SPEC

アルファ・ロメオ・スパイダー

年式
1993年
全長
4260mm
全幅
1630mm
全高
1290mm
ホイールベース
2250mm
トレッド(前)
1340mm
トレッド(後)
1290mm
車重
1180kg
パワートレイン
2リッター直列4気筒
トランスミッション
5速MT
エンジン最高出力
120ps
エンジン最大トルク
170Nm/4200rpm
サスペンション(前)
ダブルウィッシュボーン
サスペンション(後)
リング
タイヤ(前)
195/60 R15
タイヤ(後)
195/60 R15
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