アストン・マーティンDBX(4WD/9AT)とろけるような

アストン・マーティンDBX(4WD/9AT)とろけるような

2023年一発目の試乗はアストン・マーティンDBX。アストン・マーティンが放つSUVの第一作目は、既に成熟を感じさせた。どんな人がこの車に合うかを考えた。

意外と大きいこの車

アストン・マーティンDBXは、同社初のSUV。2019年末に発表され、2020年に英ウェールズ南部のセントアサン工場で生産が始まった。

グレードは単一。2022年にDBX 707が加わる。DBXは、V型8気筒ツインターボと9速ATを組み合わせる。いずれもメルセデスAMGから借り受ける。

一方のプラットフォームはDBXの為に専用で立ち上げた。フレームは、お家芸ともいえるアルミ押し出しとなる。

ボディサイズは大きい。全長×全幅×全高=5039×2050×1680mm。ホイールベースは3060mmに達する。

たとえばベントレー・ベンテイガが全長×全幅×全高=5140×2000×1740mm。ホイールベースは3000mm。

ランボルギーニ・ウルスは全長×全幅×全高=5112×2016×1638mm。ホイールベースは3003mm。

参考までにポルシェ・カイエン・ターボGTは全長×全幅×全高=4940×1995×1635mm。ホイールベースは2895mmとなる。

このボディサイズ、特にホイールベースには、デザイン上の意図もあるのだという。内外装を見ていこう。

内外装に表れる意図

アストン・マーティンDBXの外観には、アストン・マーティンらしさが詰まっているように思える。大きなグリルやヘッドライト、テールライトに至るまで、中でもヴァンテージのエクステリアとの共通点が多い。

チーフ・クリエイティブ・オフィサーのマレック・ライクマンも後日談として「DBXが純粋なアストン・マーティンであることを伝えたかった」とコメントしている。

ホイールベースの長さは室内空間のためであることは言うまでもないが、ホイールを極端に前後に配置する(オーバーハングを短くする)という目的も果たしている。結果的にスポーツカー的になるという視覚効果もある。

サイドウインドウの上下長、サイドボディの上下長の比率が、1/3:2/3というのも、実にスポーツカー的な判断だと感じる。

サイドボディ下部が大きくえぐられている。躍動感の演出と、ボディ厚みを排除する狙いもあるとライクマンも認める。細かなエッジと全体的な流麗さがアストン・マーティンらしい。

インテリアもヴァンテージとほとんど同じだと言っていいが、見慣れたこのデザインを、少し高い視点から見下ろすのは新鮮。ゴージャスだけれど没入感がある。いつもの風景だ。

快適性と官能の均整

アストン・マーティンDBXを走らせて驚くのは、その乗り心地のまろやかさである。アストン・マーティンが、しかもマット・ベッカー(元ロータスのエンジニア)が設計した車、という先入観をもって触れたものだから、もっと「スポコン」的な立ち位置を想像していた。

けれど何より乗り心地がいい。じわりとボディが上下にストロークし、操舵反応も絶妙にマイルド。巧みな9速ATによるトルクのキャッチアップなど、登場直後にも関わらず成熟を感じた。

ウインカーの音や各種アラートの音までほとんど全てがヴァンテージで聞き覚えのあるのもで、穿った見方をすれば「流用だらけ」になるのかもしれないが、穏やかな心臓の鼓動のような心地よい音のお陰で嫌な感じもしない。

強いて言うならばインフォテインメントや散らかったスイッチは今後見直してほしいとは思うものの、不満が走りによって霧散するのもアストン・マーティンらしさだといえよう。

サスペンションとステアリングの味付けは2段階、ドライブ(パワートレイン系)とエキゾーストは3段階の区分けとなるが、すべてを引き上げたとて、上品さは残る。かといってダルではない。これほどのスポーティとラグジュアリーの両立に感心した。

メルセデスAMGが放つV型8気筒ツインターボ(M177型)のビートもスイート。V型12気筒自然吸気があれば…と嘆くのは贅沢かもしれないが、フェラーリ・プロサングエが登場した今、好敵手の筆頭格になり得るかもしれない。

後部座席に移動しても印象が変わらなかった。広い上に、頭が不必要に揺さぶられることもない。快適性と官能の好バランス。DBXに驚かされた。

DBXが似合う人とは

完璧なまでの快適性と官能の好バランスを一発目から探り当てたDBXに、かなり厳しい方をすれば「アストン・マーティンらしさはどこにあるのか?」という問いが生まれてくる。

デザインにはアストン・マーティンらしさが色濃く反映されているけれど、こと走りにおいては随分と器用にまとまっているし、刺激よりも全体のまとまりに感心してばかりだった。

不器用でもいいから刺激を、バンカラでもいいから衝撃を…他のアストン・マーティンを知る者にとっては、そんなことを思うかもしれない。

でも資料を辿っていけば、雪山にいけなかったアストン・マーティン・オーナーの希望を叶えるという旨のテキストに行き当たった。そうか、すでにスポーティでペッタンコなアストン・マーティンにオーナーにとっては、DBXは所有欲を満たしつつも、行動の幅を広げてくれるのかと腑に落ちた。

スーパーSUVが欲しい向きにとっても、DBXは他となかなか被らない。需要はそこにあり、DBXはそれにきちんと応えている。

そういった意味でアストン・マーティンDBXは同社史上のマスターピースになりうる可能性を最初から華麗に手にした。いいぞ!と思える向きは迷うことなく資金を投じる価値がある。

SPEC

アストン・マーティンDBX

年式
2021年
全長
5039mm
全幅
1998mm
全高
1680mm
ホイールベース
3060mm
車重
2245kg
パワートレイン
4リッターV型8気筒ツインターボ
トランスミッション
9速AT
エンジン最高出力
550ps/6500rpm
エンジン最大トルク
700Nm/5000rpm
サスペンション(前)
ダブルウィッシュボーン
サスペンション(後)
マルチリンク
タイヤ(前)
285/40 YR22
タイヤ(後)
325/35 YR22
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