マセラティ・グランスポーツ(FR/6AT)マセラティ、再発見。

マセラティ・グランスポーツ(FR/6AT)マセラティ、再発見。

筆者にとって10年ぶりのマセラティ・グランスポーツ試乗。10年前に比べて印象が変わっている点が多かった。いずれも美化されていた思い出をより一層美しくした。

グランスポーツを知るために

マセラティ・グランスポーツを知るためには、マセラティ・クーペまで遡る必要がある。いや、もっとだ。3200GTまで遡る必要がある。

4シーターのグランドツアラーとして生まれた3200GTは、外装をイタルデザインが、内装をエンリコ・フミアが生み出したのだった。一度みたら忘れられないブーメランのようなテールライトは、世界で初のLEDを内蔵する。3.2リッターV8ツインターボは370psを生み出し、同時期のクアトロポルテ(335ps)を上回った。

1998年から4年間の販売を経て、2002年から欧州でマセラティ・スパイダー/クーペに代替わりする。ブーメランのようなテールライトは、よりオーソドックスな形状に置き換わったものの、基本的なデザインは3200GTと共通で、デザイナーも同じであった。

マセラティが3200GTまで20年間使用し続けた先述のパワートレインは、自然吸気の4.2リッターV8に置き換わり390psを湧出。フェラーリと共同開発で、クランクケースとシリンダーヘッドはアルミ製、単体重量は184kgとなる。

その後、この記事の主役であるマセラティ・グランスポーツ/グランスポーツ・スパイダーが生まれる。デザインはフェラーリ-マセラティ・コンセプト・デザイン部門を仕切るフランク・ステファンソンがリードし、よりスポーティでエッジの効いたディテールとなる。

クーペ・スパイダーと同じく自然吸気4.2リッターV8を搭載するも、最高出力は10psアップの400psに到達。6速マニュアルトランスミッションは廃止され、「カンビオコルサ」と名付けられた6速パドルシフト式セミオートマティックのみの設定となった。

車体ディメンションは、スカイフックサスペンション(後述)の採用により車高のみが変化。全長4523mm、全幅1822mm、ホイールベース2660mm(クーペ比)という数値は不変である。

10年ぶりグランスポーツ邂逅

今回一緒にドライブしたレセンス編集部員は、グランスポーツのデビュー時、プライベートカーとして所有していた過去があり、およそ10年ぶりに2人でこの車に向き合うことになった。

当時2人の共通認識は、フェラーリほどまではいかないまでも、ルックスとサイズともに「立派なグランドツアラー」というものだった。

しかし改めて見てみると、マセラティ・グランスポーツはずいぶんと小さい。グラントゥーリズモがデビューしたり、SUVが台頭したりと車そのものが随分と大きくなったというのが理由だろう。

懐かしさと同じくらいに、このサイズ感に気持ちが高まってくるのであった。

スカイフックと呼ばれる可変サスペンション(後述)の標準採用もあって、全長/全幅は変わらないまでも、車高はマセラティ・クーペの時代より10mm下がっている。またエアロダイナミクスの向上のために前後左右のスポイラー、アンダーパネルが見直された。結果、空気抵抗係数が改善された(0.33→0.31)。

内装のマテリアルも見直され、カーボンの挿入やテック・クロスの採用によりいくぶん現代的になった。ステアリングも太さを増した。

何より舌を巻くのは、イタリア人のブルーの使い方の巧みさである。大胆で華やか。ただしやり過ぎないところで踏みとどまるコーディネートは、「青」のニュアンスをDNAレベルで使いこなせるからではないかとさえ思う。

スーツであろうが、レザーであろうが、イタリア人にしか見極められない塩梅がある。

再会 印象が変わっていった

エンジンが目覚めると、そこそこ大きな排気音が響く。ごく一般的な自家用車に比べると音量は大きいけれど、当時ほど迫力を感じることはない。これもまた感覚の麻痺だ。今の車がいかに演出されているかを痛感する。

確かにマセラティ・クーペより太いステアリングは握り心地がよい。明らかにスポーティネスを押し出す意図が汲み取れる。

ノーマル、もしくはオート・モードで走る限り、排気音は控えめで、いや、排気音というよりエンジンが発する機械的な音の方が目立つ。スポーツに切り替えると、野太く乾いた音になる。グラントゥーリズモのような管楽器的ではなく、雄々しい。

乗り心地を硬いとは思わなかった。コイルオーバーのショックアブゾーバーを組み合わせる可変ダンピングシステム「スカイフック」が、1秒につき40回ホイールの動きをモニタリングしてくれるおかげで適切な仕事をしてくれる。

これにステアリングが連動してくれる。車体が小さく、パワーが十二分にあるから、特に現代マセラティと比較するとグランドツアラー的というよりスポーツカーの身のこなしに近い。

変速は、低速で走る限り、明確な息継ぎがある。モードを激しくすると、変速ショックも大きい。古典的だ。その分ダイレクトでもある。

脚色されたセクシーさではなく、パワーとバランスにより実直な乗り物であると感じ、今のマセラティとは異なる走りにクラっときた。

当時はもっと艶やかなツアラーだと思っていたのに…。再会すると印象が変わっていた。印象はもっと良くなっていた。あるいは当時、私はマセラティという存在に、乗る前から呑まれてしまっていたのかもしれない。車って面白い。

SPEC

マセラティ・グランスポーツ

年式
2006年
全長
4523mm
全幅
1822mm
全高
1295mm
ホイールベース
2660mm
トレッド(前)
1530mm
トレッド(後)
1540mm
車重
1680kg
パワートレイン
4.3リッターV型8気筒
トランスミッション
6速AT
エンジン最高出力
400ps/7000rpm
エンジン最大トルク
452Nm/4500rpm
サスペンション(前)
ダブルウィッシュボーン
サスペンション(後)
ダブルウィッシュボーン
タイヤ(前)
235/35 ZR19
タイヤ(後)
265/30 ZR19
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価格
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