メルセデス・ベンツ280E/E320(FR/4AT) 魅惑の「イチニーヨン」

メルセデス・ベンツ280E/E320(FR/4AT) 魅惑の「イチニーヨン」

「イチニーヨン」と皆が呼ぶメルセデス・ベンツ・ミディアムクラスならびにEクラスが、デビューから40年になろうとしている今もなお評価されている理由を試乗で探った。

「イチニーヨン」経験者かどうか

車を語り合う際、しばしば「イチニーヨンに乗ったことがあるか」という話題になる。

この「イチニーヨン」は、メルセデス・ベンツW124のことを指すことが多い。

先代はW123。W124は1985年に本国発表。86年に日本上陸した。W123からは、より小さいボディのW201=コンパクトクラスが派生。W124はミディアムクラスと呼ばれた。

年式は4つに大別される。見た目で判断できる。前期(1986〜90年)は、ドアハンドルやバンパー、サイドミラーが樹脂製。ボディサイズには樹脂製のモールのみ。周囲に15個の穴を設けたホイールが特徴だった。

中期(1990年)は、ボディサイド下端に、サッコプレート=クロームモール入りパネルが貼り付けられる。ドアミラーにもメッキのモール。サイドミラーもボディ同色になった。

1993〜1994年の短い期間を中後期という。メカニズムの変更が主。唯一目で見て分かるのは、15穴のアルミホイールが8穴になった点。あとは中期型と、ほとんど同じ。

後期は1994〜1996年。バンパーが違う。フロントグリルも小ぶりに、ヘッドライトの内側にはカーブがつく。ウインカーはクリアに。バンパーはボディ同色。テールはスモーク。精悍かつちょっとワルな印象ともいえる。

ちなみに厳密にはW124のWはセダンを指す。Sはステーションワゴン、Aはカブリオレ、Cはクーペを指す。厳密には…。

アクセルを踏む、あれ、進まない

「正しい姿勢こそ、最も疲れない座り方」。メルセデス・ベンツの提唱だ。臀部が座面に触れると平板に感じるものの、しっかりと腰を下ろすと適度な反発とともに沈み込む。

ハンドルの向こうには、徹底して整理された計器類。「疲労は目から始まる」これもまたメルセデス・ベンツの哲学だ。ダッシュボードの形状/素材は光の反射防ぐことを優先する。

少し大きいなと感じるステアリング。これは成人の肩幅が基準。スイッチの配置も、疲労の低減、運転中の操作を考慮している。印字も明快。ライトスイッチも1つ、スモールからリアフォグまでが纏められる。理にかなっている。

独特なシフトゲートは手首を軽くスナップすれば動く。アクセルを踏む。進まない。もうちょっと踏む。進まない。グッと踏み込む。ジワリとW124は進み始める。アクセルペダルの重さは左右ハンドルで異なる。けれど基本的には重い。おかげで高速域での繊細な操作に向く。

ウインカーを出そうと左手の指がレバーを探るも空を切る。そう、右に1本。このレバーもロー/ハイビームの切り替え、間欠ワイパー、ウォッシャー、ウインカーまでを司るのだった。

すべては運転に集中するため、もっといえば安全のためにやっているに過ぎない、と、メルセデス・ベンツは平然と言うだろう。マジメだ。

「ピッチングセンター」とは何か

どの時代の124系にも共通する魅力は乗り心地だ。路面から伝わる入力をトロンと丸め、車体全体で柔らかく受け止める。車体がギュッと沈み込んだかと思えば、スッと伸び、シタっと落ち着く。サスペンションと車体、ボディが一体になって仕事をする。

そう感じられる理由として、「ピッチングセンター」というキーワードが浮かぶ。

想像して欲しい。

一般的な車の前輪が、段差を踏む。前輪は浮かび上がり、後輪は沈む。直後に後輪が段差を踏む。先程とは逆に前輪は沈み後輪は浮かぶ。

つまりシーソーの様に、前後にギッコンバッタンと浮かんでは沈む(=ピンチングする)。

その支点の部分が「ピッチングセンター」と呼ばれる。ピッチングセンターは車重や前後のサスペンションの形状によって変わる。これが「なんだか落ち着かない」だとか「ゆったりした乗り心地になる」といった印象を左右する。

124系はどうか。ちょっと信じられないかもしれないけれど、ピッチングセンターが車の後端より遥かに後ろに存在する。

だから先述のシーソーの様に前後が別方向に浮き沈みするのではなく、前も後ろも同じ様に沈み、同じ様に浮かぶ。バウンスする、といえばイメージしやすいだろうか。

これが、頭/視線の動きを変えづらい。運転席以外の住人もリラックスする。独特な心地よさにつながっている理由である。

リサーキュレーティングボール式を採用したステアリングから手に伝わってくる情報もたっぷりとしている。しっとりとした上質なフィールは、現代のメルセデス・ベンツが参考にしていることがうかがえるのだった。

「イチニーヨン」は走る生き字引

後席ヘッドレストの間はファースト・エイド・キット(絆創膏/包帯/止血剤)がある。リアボンネットを開いた際に反射板が大きく見える。

万が一衝突したら、ボンネットより前をクシャッと潰し、堅牢なセミモノコックボディが乗員を守る。ステアリングコラムさえ、衝撃吸収式のコルゲートタイプだから縮んで折れ曲がり、ドライバーへのダメージを減らす。ブレーキペダルも前方に落下。足を保護する。燃料タンクも変形しづらいリアアクスル上にある。

言うまでもないが先端のメルセデスのマスコットが倒れるのも歩行者を守るためだ。ルーフが比較的柔らかい構造であるのも、人が事故で乗ってしまった場合に頭部への衝撃を守るため。

ここまで書いてきたことは、全てが1つの目的の為に選択された手段にすぎない。自分を、乗員を守り、万が一の時に相手も守る工夫だ。

そして何より驚嘆するのは、ふわりとした乗り心地やしっとりと上質なハンドリング、アクシデントに遭った際の対策がすべて、電子制御に頼らない機械的な解決策だけをもって実現してきたことである。

コストを余すことなくかけられた結果だと言い切れないのは、隅々まで哲学を押し通そうとした「執念」のようなものが、ハンドルを握っているとひしひしと伝わってくるからだ。

「イチニーヨン」は、走る「生き字引」。メルセデス・ベンツの信念、いや自動車の有るべき姿を学ぶことができるのであった。

改めて何がすごいって、現代のエアサスや複雑な構造に頼らずにこれを実現してきたことなのだ。

SPEC

メルセデス・ベンツ・ミディアムクラス280E

年式
1993年
全長
4740mm
全幅
1740mm
全高
1450mm
ホイールベース
2800mm
トレッド(前)
1510mm
トレッド(後)
1500mm
車重
1530kg
パワートレイン
2.8リッター直列6気筒
トランスミッション
4速AT
エンジン最高出力
200ps
エンジン最大トルク
277Nm/3750rpm
サスペンション(前)
ストラット
サスペンション(後)
マルチリンク
タイヤ(前)
195/65 R15
タイヤ(後)
195/65 R15

メルセデス・ベンツEクラスE320

年式
1995年
全長
4740mm
全幅
1740mm
全高
1445mm
ホイールベース
2800mm
トレッド(前)
1510mm
トレッド(後)
1510mm
車重
1560kg
パワートレイン
3.2リッター直列6気筒
トランスミッション
4速AT
エンジン最高出力
225ps
エンジン最大トルク
317Nm/3750rpm
サスペンション(前)
ストラット
サスペンション(後)
マルチリンク
タイヤ(前)
195/65 R15
タイヤ(後)
195/65R15
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