ロータス・エヴォーラは、ロータスの遺伝子に快適性、そしてV型6気筒の官能をミックスさせた、他に代わりのいない存在。どんな人に向いた車であるのかを、試乗で探った。
INDEX
彗星のごとく現れたロータス
ロータス・エヴォーラ。2008年7月に世界初公開されたこの車は、かつてスパルタンなモデルが居並ぶロータスのラインナップの中で、上級思考のGTモデルとして期待されつつ市場に投入された。
「Evolution(進化)」「Vogue(現代の)」「Aura(趣)」から成る造語だといわれるエヴォーラ。そのモデル名からも、当時の既存モデル群とは異なるコンセプトであったことがわかる。
興味深いのは2022年9月現在、日本国内の公式ウェブサイトにはエリーゼ/エキシージ/エヴォーラの名が並んでいるのに対し、英国本国のそれには3モデルの名前さえなく、代わりにエレトレ、エミーラ、エヴァイヤの3モデルのみが表記されている。今まさにロータス・ブランドの過渡期なのだと実感する。
今回のテスト車は2座の背後が荷室となるが、エヴォーラは当時、2+2(2座の後ろにもう2座)というパッケージングで披露された。同じパッケージングの有名モデルといえば、誰がなんと言おうと、やはりポルシェ911だろう。エヴォーラがデビューした2008年まで時を戻すと、ポルシェ911において、997型がいわゆる後期型になった頃、ということになる。
911カレラ(997)は全長×全幅×全高:4435×1810×1310mm、ホイールベース:2350mmであったのに対し、エヴォーラは全長×全幅×全高:4380×1850×1230mm、ホイールベース:2575mmであった。
つまりエヴォーラは911より、55mm短く、40mm幅広で、80mm低い。一方でホイールベースが225mm長い。
いっぽうエヴォーラはそのホイールベースの間にエンジンが載る。911カレラ(997)はエンジンがリアアクスルより後ろに載っている。だから結果的に、室内空間は911カレラの方が広い。
ロータス・エヴォーラを解剖
筆者自身、エヴォーラはとの再会は7〜8年ぶりのことで、つくづく「サイズ感がわかりづらい」デザインだなと思う。いつもいい意味で裏切られるのだ。
写真で見ると、腰高で、エリーゼを膨張させたようなイメージを描きがちだけれど、実際に目にすると、感覚的に想像の6割くらい小さいし、1.5倍くらい幅広く、低く、小さく感じられる。外観のディテールはスポーツカー(いやスーパーカー)の定石を踏んでいるともいえる。
具体的には丸目2灯のテールライトが横幅いっぱいの位置に鎮座している点、リアを上から覗けばエンジンが見える点、低く幅広のプロポーションなどだ。近くで見るとボディパネルは複雑な造形で構成され、空気の流入/流出口の数も多い。
VVA(Versatile Vehicle Architecture)と呼ばれるアルミ製モノコック構造はエリーゼ/エキシージと共有するものの、これらだと乗り降りで苦労していたサイドシルは100mm→80mmまで削減。座面高もエリーゼより高いため、まずお尻を捩じ込んで、外に放り投げたままの足を持ち上げてコックピットにインすると言った特殊能力は不要である。
とはいえそれでもシルの厚みは80mmあって、かつ一般的には低い車であるから、一度同乗者にも試してもらう方が無難だろう。余談ではあるが、モデルイヤー後半からは、サイドシルの幅を43mm、高さを56mm縮小している。その上で剛性はキープしているとロータスは言う。
さて、コックピットに体を収めると、眼前に広がるのはレザーで覆われたダッシュボード、アルミを削り出したスイッチ類。いずれもシンプルな構成であるものの、ステッチの点数が多く、温かさと上質さを感じさせる。テスト車の内装が濃いブラウンであるのも、居心地の良さの要因になっているはずだ。
そしてセンターコンソールに見えるのがIPS(Intelligent Precision Shift)。この車のもう1つの特徴である。
通勤快速としても使えるか?
IPS(Intelligent Precision Shift)とは6速ATのことで、エヴォーラの場合はトルクコンバーター式を採用する。
シフトエリアは、最上部に左からR(リバース)、N(ニュートラル)、D(ドライブ)が中くらいの丸いボタンで横並びになる(右/左ハンドルいずれも同じ並び)。その下に最も大きい丸ボタンでP(パーキング)。さらにその下に「SPORTS」が最も小さい丸ボタンとして設置されている。
Dボタンを押してスタートすると、やや強めのクリーピングでエヴォーラは前に進む。まずは通常モードで走る。実に平和な乗り味だと言うのが第一印象である。
アルミ×モノコックという、いかにもなガタピシ感が不思議なほど丸め込まれている。ピーキーな感じがしないのは長いホイールベースの恩恵だと感じる。もう1つ、IPS(=6速AT)による車重増(+60kg)も効いているのだろうと考える。
通勤快速として使えるぞと、ちょっと欲しくなっている自分がいる。
SPORTSボタンを押すと、エンジンが豹変する。スーパーチャージド3.5リッターV6(350ps/7000rpm、400Nm/4500rpm)は、レヴリミットを突き抜けるかの如く回る。排気音の抜けもいい。乾いた音だ。
どんどんアクセルを踏み抜きたくなる衝動に駆られる。アクセルを離せば、盛大なバブリングがバチバチと響く。
きょうび、3.5リッターでさえ「大排気量」だと言われる。やはりこのサイズの、しかもV6エンジンにしか出せない色っぽさがあるのだと改めて実感する。
最後に考えたいのは、エヴォーラは誰向きの車なのか、である。
エヴォーラは誰のための車?
GT的キャラクターを目指して作られたエヴォーラ。とはいえ、そこかしこに「ロータス感」は漂っている。これはもう隠しようのない事実である。
その「ロータス感」とは、ドアの開閉時の音、外部からの音の入り方、先述の不思議なシフトボタン配列などである。
これらは、「走りを最優先するロータス感」と置き換えることもできるかもしれないけれど、ドイツ人が作るグランドツアラー(つまりポルシェ911など)を考えると、あれっと感じる材料にもなる。
でも楽しい。それは全速度域にいえること。平凡な速度でも、スポーツモードにすれば快音×アフターファイヤー音を楽しめる。乗り心地だって良好だ。
そして傍から見たときの「趣味性」が色濃くある。ポルシェに乗っている人は「ポルシェに乗っている人」とひとくくりにされるかも知れないけれど、ロータス、である。「むむ? さてはかなり好きだな」と、もしかしたら車好きのお友達だって増えるかもしれない。
もう少し踏み込んでいうと、911(特にリアエンジン・リア駆動)は、峠に持ち込んで「キマった!」と思える回数が、その特異なパッケージゆえあまり多くない。それなりの腕が求められる。
ミドシップのエヴォーラは、コーナーが見えました! ドン!とブレーキ! そこでスッと荷重が中央→前にいき、出口に向かってワワワっとアクセルを踏めば自分を中心に曲がってくれる。
万一リアが流れてもアジャストしやすい。ガードレールにアタックする確率が911より少ない。楽しめる幅が大きい。
あとはあなた次第。奥様を説得する際は、くれぐれもノーマルモードで。間違ってもロータスのエスプリ(精神)なんてクドクドと説かないこと。煙たがられます。
通勤にも快適、ATだから楽ちん。座席の後ろにラゲッジを放り込める。これだけでいいんです。というかそれがエヴォーラならできるんです。
説得できれば、あとはお楽しみの時間。土日、グローブをはめて、ちょっと細身のスニーカーを履いて山に行って下さい。木々をつんざく快音。最高のバランス。思う存分にタイトコーナーをやっつけて。
それが出来る、究極の二面性をもった車がロータス・エヴォーラなのである。
SPEC
ロータス・エヴォーラ
- 年式
- 2013年
- 全長
- 4380mm
- 全幅
- 1850mm
- 全高
- 1230mm
- ホイールベース
- 2575mm
- トレッド(前)
- 1560mm
- トレッド(後)
- 1560mm
- 車重
- 1450kg
- パワートレイン
- 3.5リッターV型6気筒スーパーチャージャー
- エンジン最高出力
- 350ps/7000rpm
- エンジン最大トルク
- 400Nm/4500rpm
- サスペンション(前)
- ダブルウィッシュボーン
- サスペンション(後)
- ダブルウィッシュボーン
- タイヤ(前)
- 225/40ZR18
- タイヤ(後)
- 255/35ZR19