フェラーリSF90ストラダーレ(4WD/8AT)この時代に生まれて

フェラーリSF90ストラダーレ(4WD/8AT)この時代に生まれて

フェラーリSF90ストラダーレの試乗レポート。プラグインハイブリッドで最高出力1000ps超えの最新モデル。「Eマネッティーノ」上の「クオリファイモード」まで味わうことで、フェラーリが今、何を見つめているのかを紐解く。

新しい時代のフェラーリ

――この記事でドライブするクルマは、ハイブリッド・パワートレインのフェラーリです。電気だけで走ることもできます。なお1000psを超えます。

そう言われて、すんなりと受け入れられる読者はどれくらいいらっしゃるだろう? 

フェラーリは多気筒エンジンを当たり前のように載せてCO2を撒く、しかも管楽器みたいな快音が自慢ではないの? そう思う人の方があるいは多いだろう。

しかし今、フェラーリは「ある意味」まったく違う世界に向かおうとしている。いや、もう既に突き進んでいる。

この記事を読み終わったあなたは、そのことを強く実感することになるだろう。

まずはパワートレイン構成からおさらいしよう。

ICEは4リッターV型8気筒ターボ。バンク角は90°。7500rpmにて780psを、6000rpmで800Nmを叩き出す。搭載位置はリアミドだ。

これを計3基のモーターが加勢する。フロントに2基、リア1基。前者は135ps/85Nm(×2)、後者は204ps/266Nm。システム合計出力は1000psに達する。

1998年、ブガッティからヴェイロンが華々しくデビューした。約1000psを叩き出した。パワートレインはV型8気筒を2つくっつけて、ターボチャージャー4基でドーピング。排熱の難しさから開発は頓挫しかけ、ついに製品化したものの、50Lの冷却水と23Lのエンジンオイルが常に必要だった事を考えると、いかにスマートなパワートレインが技術によって実現したか。感心せざるを得ない。

サーキット由来のモデル

フェラーリSF90ストラダーレが搭載する4リッターV型8気筒と、3つの前後モーターが生み出す力が、どの様に伝わり、どんな結果を引き出すのだろうか。

先述のフロントモーター(2基)は、左右ホイールにマウントされる。リアモーター(1基)は、リアミドに位置するICEと8速デュアルクラッチATの間に組み込まれる(実質4WD)。

8速オートマティックを介し、前:255/35ZR20、後ろ:315/30ZR20のタイヤが地面を蹴る。

なおフェラーリによると、リアモーターは、フォーミュラ1由来のMGUK(モーター・ジェネレーター・ユニット・キネティック)で制御されている。

ここでピンと来たあなたはモータースポーツまでしっかり追っている証。そう「SF90」はフォーミュラ1の2019年シーズン、セバスチャン・ベッテルとシャルル・ルクレールがステアリングを握ったマシンそのものの名前である。

SFはスクーデリア・フェラーリ。90はチーム創設90周年。ではストラダーレは? イタリア語で「道」、である。

フォーミュラ1で培った技術と、公道を走るプロダクションカーとを結びつける意図があるネーミングなのである。

充電コードを引き抜くと

ガレージからの出発を待つフェラーリSF90ストラダーレには、充電コードがプラグに繋がれていた。

乗り込むと硬めのシートに身が引き締まる。横方向に3本伸びるデイライトだけがパッと点灯した刹那「ロォーーーン」。加速するにつれて高音の「ルォーーーン」。未来感漂う、電動車の音である。

SF90ストラダーレには大きく2つのモードセレクターが備わる。従来「マネッティーノ」と呼ばれるドライブモードセレクターがステアリング右下に、反対側の左下には「Eマネッティーノ」と呼ばれるタッチ式のセレクターがあり、Eドライブ/ハイブリッド/パフォーマンス/クオリファイの4モードからなる。

端的に、Eドライブは電力による走行優先、ハイブリッドは電力/ICEの力の切り替えを車両側が判断する。パフォーマンスは、ICEが積極的にバッテリーを充電、クオリファイは全パワーを目覚めさせるモードだ(命名は正直わかりづらい)

満充電状態でEドライブモードにしている限り、確かにICEは目覚めない。フェラーリによるとフロントモーターだけで25km航続でき、しかも最高速度は135km/hに達する。あるいは加速G(前後)が0.4Gに達するまでは電動走行。事実、想像以上に粘る印象だった。

思い切りフルスロットル

早速クオリファイモードにスイッチしてみた。ポンとエンジンが掛かる(ちょっと前までのスーパーカーらしい長いクランキングは、当たり前だけれど無い)

エンジン音は、フェラーリ製自然吸気エンジンのたおやかな回り方とは一味異なり、キリッと太い音で、鋭くエッジの効いた回転感である。

思いっきりフルスロットル。たまげた。

1速、2速、3速……まだ後輪はズルズルと滑っている。同時に機械側の介入の絶妙な匙加減に恐れ入る。怖くない。

ただし、ついにタイヤがグリップしたなと思った頃には、もう脳がついていけず。

体感というのは過去の体験であるとつくづく感じる。体が想像している位置と、クルマのある位置が大きくずれている。想像より遙か先までクルマは進んでいる。

0-100km/h加速タイム=2.5秒とはそういうことだ。体内の血液が、背中側に寄っているようだ。寒気さえする。

熱くたぎるというよりも

一方で不思議な感覚に陥ることになる。

エッジだらけの低いボディに身を収め、1000psがもたらす0-100km/h=2.5秒の世界を体感した後だというのに心は波紋1つない湖のように静まり返っていた。

理由に行き着くまでにしばらく時間がかかったが、筆者なりの答えはこうである。

パワートレインばかりに目が行きがちなフェラーリSF90ストラダーレ。しかしシャシーが印象を左右しやすい。

従来比+20%の曲げ剛性、+40%のねじり剛性を誇るシャシーは、路面からの入力をサラっと受け流す。また限りなく低くマウントされたICE(エンジンフードを開けて覗くと驚く程低い)、そしてエレクトリックパワートレインによる重心高の低さ。余計に乗り心地はよくなる。

普通ならば跳ね上げた小石がタイヤハウスをバチバチと叩くはずなのに、遮音性も随分高いから室内にはエグゾーストノートを始めとする必要な情報だけが入ってくるのもSF90ストラダーレの特徴だ。

冒頭で述べたとおり、フェラーリは新しい世界に向かっている。同じPHEVの296GTBに比べると、SF90ストラダーレは、かなりわかりやすくその存在を強調している。

そよ風にゆれる木々の葉音を聞きながら、電動音を発するフェラーリで走る。今現在フェラーリが考えていることの最先端を体験するのも、このクルマを手にすることができる者だけの特権である。

SPEC

SF90ストラダーレ

全長
4710mm
全幅
1972mm
全高
1186mm
ホイールベース
2650mm
車重
1570kg
トランスミッション
8速AT
タイヤ(前)
255/35ZR20
タイヤ(後)
315/30ZR20
メーカー
価格
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