英国発のSUV。中でも最高峰といえるロールス・ロイス・カリナンとベントレー・ベンテイガ。2台を比較試乗し、個性を浮き彫りにする。
INDEX
カリナンという意欲作
ロールス・ロイスのSUVが出る。そんな事実が明らかになったのは2015年。それから3年、「カリナン」としてワールドプレミアを果たした。
カリナンという名は、1905年、世界最大のダイヤモンドの原石(3106カラット)が発見された南アフリカの「カリナン鉱山」にちなんでいる。
同社が4WDを採用したのはカリナンが初で、「最も万能なファミリー&レジャー用高級ラグジュアリーSUV」と表現。最大渡河水深は540mm。(使うかどうかは別として)オフロード走行用のボタンが備わるのも特徴である。
パワートレインは6.75リッターV型12気筒ツインターボエンジン(571ps/5000rpm、850Nm/1600rpm)
ボディサイズは全長:5340mm、全幅:2000mm、全高:1835mm。ホイールベースは3295mm。2750-2850kg。
参考までにロールス・ロイス・ファントム(8代目=現行型)は、全長:5770mm、全幅:2020mm、全高:1645mm。ホイールベースは3550mm。
カリナン=ロールス・ロイス最大のモデルだと思われがちだがそんなことはない。
もう1台。参考までにレンジローバー(5代目=現行型)のロングホイールベース仕様は、全長:5250mm、全幅:2210mm、全高:1870mm。ホイールベースは3120mmとなる。
ベンテイガの立ち位置
この記事ではもう1台、ロールス・ロイス・カリナンと並べるクルマがある。ベントレー・ベンテイガ(2017年式)である。いわば「マイナーチェンジ前」のモデルとなるこれもまた、ベントレーが初めて世に送り出したSUVとなる。
2015年、ドイツ・フランクフルトショーで初公開され、その翌年にはここ日本でも実車が披露された。
テスト車は6リッターW型12気筒ツインターボ(608ps/6000rpm、900Nm/1250-4500rpm)を搭載する。
ボディサイズは全長:5140mm、全幅:2000mm、全高:1740mm。ホイールベースは3000mm。2440kg。
ロールス・ロイス・カリナンと比べると、ベントレー・ベンテイガはおよそ190mm前後に短く、170mm左右に小さく、80mm背が低く、220kg軽い。
とはいえ同じフォルクスワーゲン・グループかつ基本を同じくするアウディQ7(同年式で最も上位グレードの3.0TFSI)と比べると、ベントレー・ベンテイガは80mm前後に長く、25mm左右に幅広で、50mm背が高く、430kg重い。
その巨体ぶりが伝わるだろうか。
ちなみにベンテイガの名前の由来は、ロシアなどの広大な針葉樹林「タイガ」や、カナリア諸島グラン・カナリア島の巨岩「ロケ・ベンタイガ」から来ている。
イギリスの発音ではベンテイガの「テ」の位置を強めに発音する。
浮遊する巨体カリナン
2台が並ぶ姿を目にして初めに浮かぶ言葉は、やはり「大きい」だった。
例えばレンジローバーやメルセデス・ベンツGクラスを目にしても随分大きなクルマだと思うけれど、これらは格別。ノーズの高さや、比較的スクエアなボディ形状などが一層そう感じさせている。
ロールス・ロイス・カリナンは巨大ダイヤ、ベントレー・ベンテイガは巨岩。「大きさ」が紐づく命名になったことが極自然に感じられる。大きい……。
まずハンドルを握ったのはロールス・ロイス・カリナンからだった。
ドア・オープンのボタンを押すと、執事が膝を曲げてお辞儀をするかのように車高が下がる。「失礼します」。思わず声が出そうになる。フロアマットというよりも絨毯と呼びたくなる毛足の長いフロアに脚をかけて腰を下ろすと別世界だ。
明るい色調のウッドパネル、レッドのレザーステアリング、白のレザーフェイシア。切り立った現代工芸というより、旧き佳き西洋館の客間を思い起こさせる、静謐な空気で満たされている。
走り出すと、カリナンは揺れることも、傾くこともなく、ふわりと歩を進める。クルマは静止したままで、外の風景だけが後退しているような感覚におちいる。
22インチ? 疑ってしまう。重い=遅い、ホイールが大きい=硬い、そんな当たり前の「法則」を片っ端から打ち砕いていく。浮遊したような乗り心地だ。
アクセルを踏み込む。静かな迫力。ブワっと遥か遠くで控えめに排気音が聞こえる。流れる風景のスピードだけが速まる。
汗一滴もかかずに、高みへ。外界なんて、何のその。ロールス・ロイス・カリナンはつまりそういうクルマである。
ベンテイガによる驚き
ロールス・ロイス・カリナンからベントレー・ベンテイガに乗り換えると、同じ英国出身のハイラグジュアリーSUVであるものの、共通している所と、大きく異る所の2つの共存を目の当たりにする。
まずもって共通するのは英国らしいハンドクラフトの粋だ。レザー、ウッド、そして削り出し/磨き上げた金属素材。
これらを決して捏ねくり回すことはせず、たんたんと組み合わせる。素材が優れているがゆえにできる芸当だ。いずれも一朝一夕では達する事ができない。
もうひとつパワートレイン。数値スペックだけ見るととてつもない「ビーストっぷり」を想像しそうだが、これらは脇役。大きな排気量も、たっぷりのピストンも、あくまで気配を消すために選ばれた。
真逆だと感じたのはハンドリングである。ベントレーのそれは、スポーツカーの延長線上にあると断言できる。
ステアリングセンターから切り増してゆくと、初期ゲインこそ小さいものの、スッと鼻先が向きを変えていく。巨体から想像出来ないかもしれないけれど、それはとても優美な回頭マナーである。
過去、九十九折りで徹底的に走らせた時もそうだった。コーナー手前でブレーキを踏むと、スーッとノーズが沈んでゆき、左に切れば右前がじわっと沈む。右後ろに荷重を与えながら脱出。一連の動きが、機敏すぎることも重すぎることもなく、あっさりと完結してしまうのである。
この様はポルシェのカイエン(いずれのグレードも)の延長線上にあると言える。カイエンの軽さに、程よい重みを肉付けしてゆくとベンテイガになる。
ボディサイズからはなかなかイメージできないかもしれないが、身のこなしはあくまで徹頭徹尾、軽やかなのだ。
歴史の第一章に過ぎず
ロールス・ロイス・カリナンとベントレー・ベンテイガを突き合わせ、それぞれのメーカー初となるSUVが、各社の特徴を見事に体現しているよう思えた。
カリナンは、この世の中で最上級の移動を求めている向きに適切だろう。隅々まで平穏な挙動は当然のことなのである。
またカリナンはファントムと異なり、休日にみずからハンドルを握ることの喜びもある。そのうえ走破性まで兼ね備えているのだから、ブランドの掲げるプライスタグは安いといっていいだろう。
そしてベントレー・ベンテイガを見ると、総じて居住性は世の他のクルマと比べて突出しているものの、みずからハンドルを握ることで魅力をさらに感じられるクルマだということを改めて感じる。
ベントレーというブランドの出自を紐解いていくと、必ずレースの歴史に行き着く。ドライバーズカーの究極が、ベントレー、なかでもベンテイガと言える。
さて、カリナンという名は、世界最大のダイヤモンドの原石からちなんでいると述べた。冒頭の話に補足がある。その原石、世界最大といえど、より大きな原石の一部。残りはまだ見つかっていない。
ロールス・ロイス・カリナンもまた、同社の意欲作の第一弾に過ぎない。今後、どのように磨きがかけられるか楽しみだ。
一方のベントレーも、このモデル以降、マイナーチェンジモデルや、パワートレインの異なるモデル、ひいてはEWB=エクステンデッド・ホイールベース(ロングホイールベースと呼ばないところがなんとも英国らしい)が登場している。
英国最高峰のSUV(たち)の歴史はまだ始まったばかりである。
SPEC
ロールス・ロイス・カリナン
- 年式
- 2019年
- 全長
- 5340mm
- 全幅
- 2000mm
- 全高
- 1835mm
- ホイールベース
- 3295mm
- 車重
- 2750kg
- パワートレイン
- 6.75リッターV型12気筒ターボ
- トランスミッション
- 8速AT
- エンジン最高出力
- 571ps/5000rpm
- エンジン最大トルク
- 850Nm/1600rpm
- サスペンション(前)
- ダブルウィッシュボーン
- サスペンション(後)
- マルチリンク
- タイヤ(前)
- 255/50R21
- タイヤ(後)
- 285/45R21
ベントレー・ベンテイガ
- 年式
- 2017年
- 全長
- 5150mm
- 全幅
- 1995mm
- 全高
- 1755mm
- ホイールベース
- 2995mm
- 車重
- 2440kg
- パワートレイン
- 6リッターW型12気筒ツインターボ
- トランスミッション
- 8速AT
- エンジン最高出力
- 608ps/6000rpm
- エンジン最大トルク
- 900Nm/1250-4500rpm
- サスペンション(前)
- 4リンク
- サスペンション(後)
- トラペゾイダルマルチリンク
- タイヤ(前)
- 275/50R20
- タイヤ(後)
- 275/50R20