アルファ・ロメオSZ(FR/5MT)真の魅力は歴史だけでなく…

アルファ・ロメオSZ(FR/5MT)真の魅力は歴史だけでなく…

アルファ・ロメオSZに、2022年の今の視点で試乗してハッとさせられた。この車の魅力は、デザインやヒストリーに纏められがちだが、違う。鮮烈な走りにこそ圧倒的個性がある。

「普通」ではないアルファ・ロメオ

アルファ・ロメオSZ。ニックネームは「Il Mostro(イル・モストロ)」。SZはスプリント・ザガートの略。イル・モストロはイタリアで「怪物」の意。

名前からして「普通」の車ではない事はお察し? その実、「普通」ではない。

その名の通り、アルファ・ロメオSZは、イタリアのカロッツェリア「ザガート」が内外装のコーチワークを担当した。(ボディのデザインワークは、フィアット・グループ内チェントロ・スティーレが担当した。誤解なきよう…)

カロッツェリアとは自動車などの車体をデザインする事業者。イギリスではコーチビルダーとも言われている。

そしてザガートとは、ウーゴ・ザガートが創業したカロッツェリアであり、軽さと高い空力性能をもつ車体製造を得意とした。イタリアメーカーとのコラボレーションが作品の大半を占めるけれど、中にはオーテック・ザガート・ステルビオやトヨタ・ハリアー・ザガートなど、日本との縁も、過去、何かとあった。

現在はSZデザインと組織の名を改めており、チーフデザイナーはなんと日本人(原田則彦氏)というのも誇らしい。

そして、アルファ・ロメオSZとは、どんな車か? である。詳しく見ていこう。

アルファ・ロメオSZとは何者なのか

アルファ・ロメオSZは、ザガートの名をもつ多くの車がそうであるように下敷きとする車両がある。

アルファ・ロメオ75…と言われてピンと来ないレセンス読者もいらっしゃることが想像できるので、まずはそこから。

アルファ・ロメオ75は、1985〜1992年に生産38万6767台という大成功を収めた、小さなサルーンである。なおSZの生産台数は1036台。このオープン版となるRZの生産台数は諸説あるものの278台という数字を多く見る。

社内デザイナーのエルマンノ・シェルヴィーノがボディ真横のショルダーラインに、3つの角度で奇抜な線を引いた外観はもちろんのこと、トランスアクスル方式(エンジンとミッションを切り離し、後者を後輪側に移設=前後重量配分が理想的になる)の採用など、走りの面で優れたパッケージングであるのが特徴だ。

ちなみにこのパッケージングは、1972年から発売されたアルフェッタを基本としており、それが走りにどう影響するか? 

50年を経た2022年の今、見ものである。

癖になるヒミツは「繊細な違和感」

アルファ・ロメオSZのボディは、軽量化の為にスチール製のボディにFRPのカウルを当てて作られている。実際の車重も1260kgに抑えられる。

フロントから見ると、スクエアなレンズが左右3つずつ立体的に並び、その両脇に三角形のウインカーレンズがつく。他に無いライトユニットで、後の159やブレラ世代のモデルに影響を与えた。

そしてボディサイド。ボンネット後端からギュッとAピラーが立ち上がり、分厚いリアに向けてなだらかにルーフが落ちる。サイドラインもルーフに持ち上げられるように前から後ろにかけて躍動感を持って一直線に伸びる。Bピラーの延長線と、ドアラインが交差するように生まれ落ちたドアノブのデザインは秀逸で、他のディテールも日を変えれば、新たな気付きに出会えるほど凝っている。

現代の感覚からしても、そして当時の感覚からしても「いびつ」だという第一印象を描きそうだけれど、そこには繊細なバランスが潜んでいる。「何故か癖になる」というデザインは、すべて「繊細な違和感」という共通点があるように筆者個人は思えてならない。少なくともイタリア人にしか備わらない感覚だろう。

ドアを開けて飛び込んでくるのは、これまた不思議な形をした2脚のシート。サイドというより腰より下のサポートはボコッと前に飛び出す一方で、ヘッドレストに向けて縦につるんと伸びる。

後部座席は存在せずラゲッジを固定するためのベルトが縦に1本、左右で2本。しかし空間は大きく確保されている。なおトランクの収納は期待できない。

メーターパネルはカーボンがはめ込まれ、センターコンソール上部には4つのベリエ製のアナログメーター(電圧/油圧/水温/ガソリン計)が並ぶ。レーシーだ。

ルーフがグレーアウトされている為、外観からは気づきづらいが、ガラスの面積が大きく、ベージュ内装と相まって室内はとても明るい。色の組み合わせは、写真のとおり、赤いボディ/グレーのルーフ/ベージュの革内装しか設定されなかった。

真の魅力は、歴史背景のみならず

ステアリングコラム右側に、物理的なキーを挿し、撚るとエンジンが目覚める。

シンプルにエンジンからのサウンドであり、排気系でどうにかしようといった、今風の魂胆は一切見受けられない。(というか必要がなかったといえそうだ)

空ぶかしをしてみるとジュアーーンと適度な重みをもって回転が高まる。3.0リッターV型6気筒は、210ps/6200rpmと、245Nm/4500rpmを生み出す。

エンジンフィールは、英語で「zingy(ジンギー)」という表現がピッタリな、元気でワクワクするもの。

コクっと5速MTのシフトを1速に入れて走り出すと、軽い! と驚いた。先述の通り1260kgの車重は、確かに今となっては珍しい身のこなしに直結する。

車の動きがダイレクトなのはもう1つ、北米IMSA選手権に出場していたマシンであるアルファ・ロメオ「75ターボ」から流用するリアのド・ディオン・アクスルが効いていると思う。グッと粘り強さを見せつつも、姿勢変化に対して軽快に反応。正直、確かな上下動は伝わってくるけれど、特別な車に、特別な気持ちで乗るのだから、楽しさ優先でいいじゃないか。

小さいボディ(全長:4060mm、全幅:1730mm、全高:1310mm、ホイールベース:2510mm)、軽い車体、レースゆらいの脚など、奇抜なスタイリング以外にも魅力があると再認識した次第。

あっと驚いた 現在の中古車相場

15年以上前の記憶と比べると、遥かに元気に感じたアルファ・ロメオSZに惹かれてしまった筆者は(罪な仕事である…)、まんまと欲しくなってしまい、中古車相場を調べてみることにした。

…おもてたんとちゃう。最近流行りのそんな言葉がふわっと浮かぶ価格感だった。もっといえばほとんどが「応談」。3万km台後半で900万円を軽く超え、その倍の走行距離でも800万円は超える。

海外での販売実績はどうだろう。公式資料が残っていた2020年7月の「ヨーロピアン・サマー・オークション」における走行距離1300km(!)のSZの予想価格10万5000ユーロ〜12万5000ユーロというエスティメーションに対し、7万7000ユーロで流れた。

…え?

同時期の米ハガディ社のデータだと、もっともコンディションの悪いもので4万8000ドル。コンクールレベルのコンディションで10万9,000ドル。2022年9月13日時点のレートだと1556万6981円。

状態やレートに左右される為、単純比較はできないけれど、日本における新車価格が1565万円(税別)だったことを考えると、これはもう上げ相場といえる。

高騰した車に対して、「あの時買っておけば良かった…」というフレーズをよく耳にするし、なにも投機対象で車を買うわけでは無いのだから…と思う。

しかしながら、既にもう「あの時」は過ぎているかもしれないけれど、今が最後のチャンス? とも思えてきたのだった。

普段あまり相場に触れないようにしているレセンス試乗記。しかしこれは触れずにはいられまい。

そう感じたのはもちろん金額面のみならず、アルファ・ロメオSZの特異な歴史と、望外のドライビングファンゆえである。

SPEC

アルファ・ロメオSZ

年式
1994年
全長
4060mm
全幅
1730mm
全高
1310mm
ホイールベース
2510mm
車重
1260kg
パワートレイン
3.0リッターV型6気筒
トランスミッション
5速MT
エンジン最高出力
210ps/6200rpm
エンジン最大トルク
245Nm/4500rpm
サスペンション(前)
ダブルウィッシュボーン
サスペンション(後)
ド・ディオン
タイヤ(前)
205/55 ZR16
タイヤ(後)
225/50 ZR16
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