レンジローバー・スポーツHSE(8AT/4WD)仕立てに宿る美意識

誰かが選んだ装いに、自分と通じる価値観や、まだ知らなかった美意識を感じたとき──そこにこそ、中古車選びの醍醐味がある。

誰かが選んだ装いに、自分と通じる価値観や、まだ知らなかった美意識を感じたとき──そこにこそ、中古車選びの醍醐味がある。

背伸びではない上質さ

このクルマに乗り込んだ瞬間、不思議な安心感に包まれる。高い着座位置、厚みあるステアリング、深く沈み込むシート。すべてが上質で、けれども仰々しさはない。

レンジローバーファミリーに共通する、「豪華であること」を押しつけない英国的な抑制の美意識が、このレンジローバースポーツHSEにもしっかりと反映されている。

レンジローバー・スポーツHSE(8AT/4WD)仕立てに宿る美意識

テスト車のHSEグレードでは、標準モデルのSEと比べて、サスペンション制御など走行性能面のほか、内装や快適装備にも洗練が施される。ホワイトのオックスフォードレザーシート、静かに艶をまとうようなパネルやトリムの質感。天井を開ければパノラマサンルーフから光が降り注ぐ。

華美にならない、けれど確かな違いがある。その差は、長く付き合うほどにじわじわと効いてくる。この車は、背伸びではなく、静かに選び抜かれた仕立ての上質さをまとっている。

レンジローバー・スポーツHSE(8AT/4WD)仕立てに宿る美意識

年式を感じさせない装い

ボディカラーは有償オプションとして設定されていた「マリアナ・ブラック」。一見するとブラックだが、光が当たるとネイビーに見える。マリアナ海溝の深い青をイメージして作られたという。

見る角度や天候によって異なる表情を見せ、陰影の奥に静かな気品をたたえる。同じブラックでも、標準設定のサントリーニ・ブラックとはまとう空気がまるで違う。

レンジローバー・スポーツHSE(8AT/4WD)仕立てに宿る美意識

足元にはAG製の22インチ鍛造ホイール。純正とは異なる装いだが、全体の印象を引き締めるアクセントとなっている。軽量かつ高剛性。見た目の華やかさだけでなく、乗り心地や走行性能にも配慮された、実用と美の両立だ。

2016年製というと、確かに少し古さを感じる年式ではある。だがこの車は、マリアナ・ブラックと鍛造ホイールという仕立てによって、むしろ“今の感性”にフィットする個性を得ている。

レンジローバー・スポーツHSE(8AT/4WD)仕立てに宿る美意識

踏み込めば、表情が変わる

搭載されるのは3.0リッターV6ガソリンスーパーチャージャー。最大トルク450Nmを3,500回転で発生するエンジンは、踏み出しこそ静かだが、深く踏み込んだときに明確な変化を見せる。

音が変わる。身体の芯に響くような低音が立ち上がる。静粛性を極めたフルサイズレンジでは逆に味わえない刺激。これが「スポーツ」と名のつく理由なのだろう。実際の加速フィールも、数値で表せない余裕と粘りを備えている。

高速域では、どっしりとした安定感が際立つ。ボディ全体が路面を掴むように沈み込み、挙動は常に落ち着いている。エアサスが不快な突き上げを吸収しつつ、適度な反応の早さを保つ。ステアリングには常に適度な重みがあり、入力に対して律儀に応える。SUVとしての安心感と、グランドツアラーのような滑らかさが共存している。

レンジローバー・スポーツHSE(8AT/4WD)仕立てに宿る美意識

日常と非日常を結ぶSUV

街乗りでは都会的なセンスをまといながら、ひとたび山道やワインディングに足を踏み入れると、本来のレンジらしい安定感と懐の深さが立ち上がる。特にコーナーが続く道では、姿勢変化の少なさが頼もしい。

つまりレンジローバースポーツは、「山にも、街にも似合う」クルマなのだ。これはフルサイズレンジでは少し過剰だし、イヴォークでは足りない。両方の世界にしっくりと溶け込む絶妙な立ち位置を、スポーツは静かに担っている。

レンジローバー・スポーツHSE(8AT/4WD)仕立てに宿る美意識

弟分ではない

同じ車名を冠する車であっても、スポーツはフルサイズレンジの廉価版ではない。初代(L320型)はディスカバリー3とプラットフォームを共有していたが、スポーティな味付けが施されたモデルだった。

今回試乗した2代目モデル(L494型)では、アルミ製モノコックボディを採用し、軽量化と高剛性を実現。これにより、洗練された走行フィールを手に入れている。

見た目は似ていても、走りの質はまったく異なる。ラグジュアリーを保ちつつ、運転することそのものにフォーカスした味付けが、このモデルの独自性を形づくっている。

レンジローバー・スポーツHSE(8AT/4WD)仕立てに宿る美意識

フルサイズレンジと比べたときに感じる“緊張感のなさ”もこの車の魅力のひとつだ。フルサイズが王者の威厳を漂わせているのに対し、スポーツはもう少しカジュアルで、日常と地続きの空気をまとう。

構えず、無理せず、それでいて芯のあるデザインとキャラクターが、この車を“自分のもの”として受け入れやすくしている。

出会いはいつも・・・

2016年製というほどよい時間の経過は、この車の“価値”をむしろ高めている。市場では現実的な価格帯に落ち着きながらも、ブランドの威厳と機能は健在だ。

派手さはない。だが、ひと目で「何か違う」と思わせる風格。これは、時間が与えた余裕のようなものかもしれない。

そして何より、新車のように何ヶ月も待つ必要はない。気持ちが動いた、そのタイミングで手に入れられる。中古車とは、そういう“直感の買い物”だ。

こういう一台と出会えるタイミングは、いつもほんの一瞬だけ。

だからやめられないのだ。

レンジローバー・スポーツHSE(8AT/4WD)仕立てに宿る美意識

SPEC

レンジローバー・スポーツHSE

年式
2016年
全長
4855mm
全幅
1985mm
全高
1800mm
ホイールベース
2920mm
トレッド(前)
1690mm
トレッド(後)
1685mm
車重
2140kg
パワートレイン
3リッターV型6気筒スーパーチャージャー(ガソリン)
エンジン最高出力
340ps/6500rpm
エンジン最大トルク
450Nm/3500rpm
サスペンション(前)
ダブルウィッシュボーン
サスペンション(後)
マルチリンク
  • 河野浩之 Hiroyuki Kono

    18歳で免許を取ったその日から、好奇心と探究心のおもむくままに車を次々と乗り継いできた。あらゆる立場の車に乗ってきたからこそわかる、その奥深さ。どんな車にも、それを選んだ理由があり、「この1台のために頑張れる」と思える瞬間が確かにあった。車を心のサプリメントに──そんな思いを掲げ、RESENSEを創業。性能だけでは語り尽くせない、車という文化や歴史を紐解き、物語として未来へつなげていきたい。

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