メルセデス・ベンツG350d(4WD/9AT)おいでやす、Gの世界におこしやす

リセールをさほど気にする必要のないモデルを選ぶ際、思い切ってこんな個体はどうだろう?乱暴な足し引きで新車価格はAMG63の約半額、しかし色味の注目度はその何倍?

リセールをさほど気にする必要のないモデルを選ぶ際、思い切ってこんな個体はどうだろう?乱暴な足し引きで新車価格はAMG63の約半額、しかし色味の注目度はその何倍?

それはいかにもハイブランド

男も女も好んで日常的に使っているという点で、Gクラス=ゲレンデは“走るルイ・ヴィトン”である。

有名タレントがゲレンデに目をつけ始めた90年代ならば、黒や白、銀でも十分に目立っていたし、それ以外の選択肢があるということすら想像できなかった。

ヴィトンで言えばさしずめモノグラムやエピというわけだ。

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そのうちにスタイルやエンジンのバリエーションが増えてゆき、街のなかで頻繁に見かけるようになっていく。

いや、定番として街中で溢れはじめたからこそ、新種が登場しては世間の注目を浴びてきた。

AMGバージョンや新世代ディーゼル搭載、4×4にマイバッハ、というわけで、あたかもダミエやヴェルミはもちろん、タイガ、マヒナ、スハリと“あの手この手”と繰り出してきたLVと同様の、それはいかにもハイブランドらしい戦略でもあった。

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そんなハイブランドの強さを推し測る指標は“定番が陳腐化しないこと”ではなかったか。モノグラムが飽きることなく多くのカスタマーに支持されているからこそ変わり種も生きる。マルチカラーなどはその典型というべきだろう。

ここに真っ赤なゲレンデがある。2020年夏に発表された特別限定車のマニュファクトゥーア・エディションだ。

カタログカラーにないコンフォグレーションの施された人気の仕様というのみならず、鮮やかなレッドとゲレンデの取り合わせという(世間一般的には)アンマッチな仕立てがいかにもツウ好みな一台で、白と黒のゲレンデしか見当たらない街中でのその目立ちっぷりと言えば容赦ない。

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ファンの拒否反応を起こさない

2018年に新設計となった。誰がどう見てもゲレンデスタイルを踏襲するものの、その中身は一気にモダンとなっている。

ポルシェ911のモデルチェンジによく似て、ファンの拒否反応を起こさない程度に新しくした、とも言える。

事実、その恩恵は多岐に渡った。数少ないデメリットと言えそうなボディサイズアップにしたところで、室内スペースの改善や走行安定性に寄与すると考えればデメリットだとは言い切れない。

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大きくなったのに街中での使い勝手が良くなったあたりも、手練れの改良というほかない。以前のゲレンデのドライブフィールには、“これを毎日使いこなしていらっしゃるなんて本当に頭が下がる”思いが個人的にはあった。

端的にいって、この手の大型SUVのなかでは旧型ディフェンダーに次いで乗りづらいシロモノだと思っていた。

ところが今のゲレンデは違う。もはやゲレンデの時代は終わった。メルセデス乗用車ラインナップの一角を担うという意味で、やっとGクラスの時代がやってきたと言っていいほどだ。

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なかでもディーゼルエンジンを搭載する一連の“d”は秀逸だと思う。

ステータスシンボルとしてのAMG63には憧れるものの、日常使いにふさわしいという点で350dに始まるシリーズに“ベストof G”の称号を与えていいだろう。

街中からロングツーリングまで、過不足なくこなす。せっかくのルイ・ヴィトンである。使い倒してこそ、本当の価値が見えてくるというものだろう。

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ハズシの美学を発見した人

目立ちっぷりが半端ないと書いた。これまでいろんな仕様のGクラスを試してきたけれど、六輪車や4×4を別格とすれば、その注目度は過去イチ級だ。

白や黒のGクラスなら街中でしょっちゅう見かけるし、それゆえの匿名性も魅力だという人にとって赤い選択肢はあり得ない。どこを走っていても“身バレ”注意なのだから。

目立つことが嫌いだけれど、Gクラスに乗りたいというのは端からすれば自己矛盾だけれど、それだけモノグラムは普及したということだ。今時ルイ・ヴィトンを提げているだけで人の注意を惹くことはない。

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そうだとわかっていても赤いGクラスにはなぜか惹かれてしまう。

どうしてなのだろう。走らせながらその理由を考えて、京都は北山の店舗にクルマを返す間際に思いつく。

京都弁でいうところの「かいらし(い)」からだ。白や黒だと厳つくて、そのうえ爆音撒き散らすAMGグレードならまるで武闘派なモデルであるにも関わらず、赤いだけでマルメの顔すらチャーミングに見えてくる。同じ理由でヴィンテージブルーも可愛らしい。

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いかついクルマなのにチャーミング。ベンツなのに赤い。定番とは真逆の雰囲気。

そこにハズシの美学を発見した人(=ツウ)にとって、それは得難い選択肢の一つとなるのだった。

こんなGクラスなら乗ってみたいなぁ。否定派にさえそう思わせる力がこの個体にはあった。モノグラムのヴィヴィエンヌ仕様である。

SPEC

メルセデス・ベンツG350d

年式
2020年式
全長
4660mm
全幅
1930mm
全高
1975mm
ホイールベース
2890mm
車重
2500kg
パワートレイン
3リッター直列6気筒ディーゼルターボ
トランスミッション
9速AT
エンジン最高出力
286ps/3400~4600rpm
エンジン最大トルク
600Nm/1200~3200rpm
タイヤ(前)
275/50R20
タイヤ(後)
275/50R20
  • 西川淳 Nishikawa Jun

    マッチボックスを握りしめた4歳の時にボクの人生は決まったようなものだ。以来、ミニカー、プラモ、ラジコン、スーパーカーブームを経て実車へと至った。とはいえ「車いのち」じゃない。車好きならボクより凄い人がいっぱいいらっしゃる。ボクはそんな車好きが好きなのだ。だから特定のモデルについて書くときには、新車だろうが中古車だろうが、車好きの目線をできるだけ大事にしたい。

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