ポルシェ911 50周年アニバーサリー(RR/7AT)限定モデルだけのアジを有す

カレラSベースで1963台のみ生産。しかしガワだけの限定車にあらず。3.8リッターのRRに通常組み合わされないワイドボディを装備し、このモデルのみの設定が輝く。

カレラSベースで1963台のみ生産。しかしガワだけの限定車にあらず。3.8リッターのRRに通常組み合わされないワイドボディを装備し、このモデルのみの設定が輝く。

この「さりげない迫力」

雨がやんだ。ゴルフ場の取り付け道路、並木の隙間、陽光、ポルシェ911 50周年アニバーサリーのガイザーグレーメタリックのボディを優しく浮かび上がらせる。

その色合いは、一見すると落ち着いたグレーに見えるが、光の角度によってシルバーにもダークグレーにも、アイボリーにも変化する。

控えめでありながら、確固たる存在感を放つ──まさに911というモデルが歩んできた50年の歴史を体現するカラーだ。

ポルシェ911 50周年アニバーサリー(RR/7AT)限定モデルだけのアジを有す

50周年アニバーサリーモデルは、1963年に誕生した初代911(901型)へのオマージュを込めた特別なモデルである。

ベースは991型カレラSだが、ホイールアーチはワイドボディ仕様となり、リアフェンダーがわずかに張り出している。

この「さりげない迫力」が、他の911とは一線を画している。

ポルシェ911 50周年アニバーサリー(RR/7AT)限定モデルだけのアジを有す

フロントにはポルシェ伝統の丸型ヘッドライトが鎮座し、50周年モデル専用にデザインされたクロームトリムがガイザーグレーのボディに絶妙なコントラストを生み出している。

リアには「50」エンブレムが誇らしげに配され、その下には専用のダブルエグゾーストパイプが覗く。

専用デザインのフックス・ホイールを模した20インチホイールも、このモデルのアイコニックなディテールだ。

シルバーベースにつや消しブラックを組み合わせたカラーリングが、クラシックとモダンを見事に融合させている。

ポルシェ911 50周年アニバーサリー(RR/7AT)限定モデルだけのアジを有す

ドアを開けてコクピットに身を沈めると、そこは「伝統と革新」が溶け合った空間が広がっていた。専用のグリーン文字盤が採用されたメータークラスター、ヘッドレストに刺繍された「50」ロゴ、千鳥格子柄のファブリックシートがレトロな雰囲気を醸し出す。

だが、その操作感は完全にモダンだ。センターコンソールには最新のPCM(ポルシェ・コミュニケーション・マネージメント)システムが搭載され、サテンメタル仕上げのスイッチ類が精緻な触感を生み出す。

キーをひねると、リアに搭載された3.8リッター水平対向6気筒エンジンが目を覚ます。マフラーから響く乾いた排気音──それは紛れもなく「911の音」だ。

久しぶりの「着火」だからだろう。少しカラカラと乾いた音に聞こえるのは、オイルが下がっているからだろう。これもまた水平対向エンジンを心臓部に収めるからこその特徴で、らしさともいえよう。

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「まるで別のエンジン」に

7速PDK(デュアルクラッチトランスミッション)をDレンジに入れてアクセルを踏み込む。ガイザーグレーのボディが滑るように動き出し、3.8リッターの自然吸気フラットシックスが瞬時に反応する。

420psのパワーがリアタイヤにダイレクトに伝わる。この感覚はターボ車とは一線を画す、NA(自然吸気)ならではの「伸びの良さ」だ。

トルクは最大440Nmを5600rpmで発生。低回転域から十分なトルクが湧き上がり、4000rpmを超えると「まるで別のエンジン」になったかのようにパワーが炸裂する。

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PDKの変速は、いつ乗っても電光石火だ。ダウンシフト時にはオートブリッピングが作動し、エンジン回転数が瞬時にマッチングされる。まさに「機械と人間が一体化した」かのような感覚がある。

ワインディングロードに差し掛かると、911 50周年モデルの本領が発揮される。リアエンジンならではのトラクションの強さが、コーナーの立ち上がりで明確に現れる。

リアアクスルには「PASM(ポルシェ・アクティブ・サスペンション・マネージメント)」が装備されており、走行状況に応じて瞬時にダンパーの減衰力が調整される。結果として、コーナリング中の安定感と限界域でのコントロール性が格段に向上している。

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フロントの電動パワーステアリングも見事だ。インフォメーションがたっぷりと手のひらに伝わり、タイヤが今どのようにグリップしているのかを直感的に感じ取ることができる。

ブレーキ性能も圧巻。フロントに6ピストン、リアに4ピストンのアルミ製モノブロックキャリパーが装備され、ローターはPCCB(ポルシェ・カーボンセラミックブレーキ)仕様。

ペダルタッチは剛性感に満ちており、わずかな入力で的確に減速していく。

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911の歴史を未来へと受け継ぐ

高速道路に乗り込むと、911 50周年アニバーサリーのキャラクターがまた違った顔を見せる。

100km/h巡航時のエンジン回転数はわずか2000rpm。ロードノイズや風切り音は見事に抑え込まれ、静かで快適なクルージングが楽しめる。

エンジンをスポーツモードに切り替えると、排気音が一気に野生的なサウンドに変わる。アクセルを踏み込むと、7500rpmまで一気に吹け上がるそのレスポンスは、まさに自然吸気エンジンの真髄。

ポルシェ911 50周年アニバーサリー(RR/7AT)限定モデルだけのアジを有す

長距離移動でも快適なシート、理想的なドライビングポジション、ボルスター(側面)のホールド感が絶妙だ。

911 50周年アニバーサリーは、決して「特別仕様車」に終わらない。これは911の歴史を未来へと受け継ぐ、ひとつの「到達点」だ。

伝統の水平対向6気筒エンジン、RRレイアウト、ポルシェ独自の走行哲学。50年の間、変わらずに受け継がれてきた「911の魂」がここにある。そして、50年後にもその魂はきっと変わらずに存在しているだろう。

ポルシェ911 50周年アニバーサリー(RR/7AT)限定モデルだけのアジを有す

キーを抜いて振り返る。リアに輝く「50」のエンブレム。

ポルシェ911 50周年アニバーサリー──それは、過去と未来をつなぐ「時空の架け橋」である。

「投機対象」であるという側面はいったん置いておいて、この世代、この車の魅力を無視するわけにはいくまい。

SPEC

ポルシェ911 50周年アニバーサリー

年式
2014年式
全長
4491mm
全幅
1808mm
全高
1295mm
ホイールベース
2450mm
車重
1440kg
パワートレイン
3.8リッター水平対向6気筒
トランスミッション
7速AT
エンジン最高出力
400ps/7400rpm
エンジン最大トルク
440Nm/5600rpm
タイヤ(前)
245/35ZR20
タイヤ(後)
305/30ZR20
  • 上野太朗 Taro Ueno

    幼少から車漬け。ミニカー、車ゲーム、車雑誌しか買ってもらえなかった男の末路は、やっぱり車。今、買って買って買ってます。エンジンとかサスとか機構も大事だけれど、納車までの眠れない夜とか、乗ってる自分をこう見られたいとか、買ったからには田舎に錦を飾りにいきたいとか、そんなのも含めて、車趣味だと思います。凝り固まった思想を捨てたら、窓越しの世界がもっと鮮やかになりました。

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