日産セドリック・グランツーリスモSV(FR/4AT)「ハコ」のセダンの魂と共に

昨今「走りを楽しむためのセダン文化」が廃れかけているようだ。それに伴い、数多くの名車の「車名」が断絶している。セドリック、懐かしい響きと共に思い出してみよう。

昨今「走りを楽しむためのセダン文化」が廃れかけているようだ。それに伴い、数多くの名車の「車名」が断絶している。セドリック、懐かしい響きと共に思い出してみよう。

バブル期の輝きを纏ったセダン

2025年の今、旧車ブームの波が押し寄せる中で、1988年式の日産セドリック Y31型「V20ツインカムターボ グランツーリスモSV」は、単なるクラシックカーを超えた存在感を放っている。

時代は電動化へと突き進み、内燃機関を楽しむ機会は減る一方だ。しかし、このセドリックに乗ると、かつての日本が誇ったスポーツセダンの魂が色濃く宿っていることを実感する。

Y31型は「ハイソカー」としてのイメージが強いが、グランツーリスモSVはその中でも異色のスポーティグレードだ。

日産セドリック・グランツーリスモSV(FR/4AT)「ハコ」のセダンの魂と共に

バブル景気の真っただ中、パワーこそがステータスであり、日産はこのモデルに2リッターV型6気筒DOHCツインカムターボ「VG20DET」エンジンを搭載した。

スカイラインやローレルと共通のエンジンであり、スポーティな走りを求めるユーザーに向けた仕様となっている。

日産セドリック・グランツーリスモSV(FR/4AT)「ハコ」のセダンの魂と共に

ボディデザインもまた、通常のセドリックとは一線を画す。グランツーリスモシリーズ専用の低めのルーフライン、専用バンパーやサイドモール、精悍なリアスポイラーが特徴的で、オーナードライバーを意識した設計になっている。

直線を基調としながらも、どこか流麗な印象を与えるスタイリングは、時代を超えてなお美しい。同時に、当時の「スポーツセダン」としてのアイデンティティを強く感じさせる。

日産セドリック・グランツーリスモSV(FR/4AT)「ハコ」のセダンの魂と共に

今のクルマにはない独特の味

キーをひねると、VG20DETエンジンが目を覚ます。

直列6気筒特有の滑らかなアイドリング音に、ターボ特有のわずかなコンプレッサーノイズが混ざる。これは、現代の静かなEVとはまったく異なる世界。

エンジンの息吹がダイレクトに伝わり、「これから走るぞ」という昂揚感を与えてくれる。

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軽くアクセルを煽ると、ターボチャージャーが一瞬遅れて過給を始め、エンジンが甲高い音を奏でる。

今となっては小排気量ターボが主流となり、2リッター直6ターボは貴重な存在となった。特に、このVG20DETは7000rpm近くまで淀みなく回り、ターボが効き始めると一気にパワーが盛り上がる。

210psという数値は、2025年の視点では決して突出したものではないが、そのフィーリングは今のクルマにはない独特の味がある。

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走り出すと、電子制御4速ATのスムーズな変速が心地よい。現代の多段ATやDCTのように瞬時にギアを選ぶわけではないが、その分、エンジンの鼓動を楽しみながらリズムよく走れる。

特にターボの効きを感じながら高回転にもっていくと、まるで当時のスカイラインやシルビアのような走りの楽しさを味わえる。

サスペンションはフロントがストラット、リアがリジッド・アクスル・リーフ式という、セダンらしい構成。

日産セドリック・グランツーリスモSV(FR/4AT)「ハコ」のセダンの魂と共に

しかし、グランツーリスモSVはやや硬めのセッティングが施されており、コーナリング時のロールは適度に抑えられている。

最新のスポーツカーのようなシャープなハンドリングとは違うが、どっしりとした安定感があり、高速巡航時の直進性も抜群だ。

これは、まさに「グランツーリスモ(長距離走行)」を意識したチューニングといえる。いいなあ。

日産セドリック・グランツーリスモSV(FR/4AT)「ハコ」のセダンの魂と共に

走りを楽しむためのセダン

時代が進み、セダンというカテゴリそのものが希少になった。日産のラインナップからもセドリックの名は消え、今やSUVとEVが主役となっている。

しかし、それだからこそ、Y31型グランツーリスモSVは今の時代において特別な意味を持つ。

まず、直6ターボというエンジン自体が希少になった。日産も今や直列6気筒エンジン搭載車を見つけることさえむずかしい。スポーティな味付けを持ったFRセダンは絶滅寸前。今ではクラウンすら一部SUV化し、純粋な後輪駆動のスポーツセダンは数えるほどしか残っていない。

日産セドリック・グランツーリスモSV(FR/4AT)「ハコ」のセダンの魂と共に

このセドリックに乗ることは、かつての「走りを楽しむためのセダン文化」を追体験することに他ならない。

また、デザインの魅力も無視できない。2025年現在、多くのクルマは空力を意識した曲線基調のスタイリングが主流だ。しかし、Y31型の直線を活かしたボディラインは、今見ると逆に新鮮であり、時代を超えた美しさを持っている。

何より、このセドリックには「機械を操る楽しさ」がある。最新のEVやハイブリッド車のように、電子制御で最適化された走行フィールではなく、ドライバーが自分の感覚でエンジンを回し、ターボの効きを感じながら走る楽しさ。

それこそが、このクルマの最大の魅力なのだ。

日産セドリック・グランツーリスモSV(FR/4AT)「ハコ」のセダンの魂と共に

エンジンを止め、分厚いドアを閉じたとき、ふと「クルマを操る喜びとは何か」と考えさせられた。

たんなる移動手段ではなく、乗る人の人生に寄り添い、走る喜びを教えてくれる存在。

それこそが、Y31型セドリック V20ツインカムターボ・グランツーリスモSVの持つ、2025年における価値なのだろう。

SPEC

日産セドリック・グランツーリスモSV

年式
1988年式
全長
4690mm
全幅
1695mm
全高
1400mm
ホイールベース
2735mm
車重
1480kg
パワートレイン
2リッターV型6気筒ターボ
トランスミッション
4速AT
エンジン最高出力
185ps/6800rpm
エンジン最大トルク
216Nm/3600rpm
タイヤ(前)
205/65R15
タイヤ(後)
205/65R15
  • 上野太朗 Taro Ueno

    幼少から車漬け。ミニカー、車ゲーム、車雑誌しか買ってもらえなかった男の末路は、やっぱり車。今、買って買って買ってます。エンジンとかサスとか機構も大事だけれど、納車までの眠れない夜とか、乗ってる自分をこう見られたいとか、買ったからには田舎に錦を飾りにいきたいとか、そんなのも含めて、車趣味だと思います。凝り固まった思想を捨てたら、窓越しの世界がもっと鮮やかになりました。

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