「そんな性能どこで使うの?必要?」いかにも日本らしい冷ややかな常套句だ。GT-Rよ、甘やかされることなく真っ向から力で世界に挑め。名だたる世界の名車を蹴散らせ。
目覚める獣
スタートボタンを押す。次の瞬間、3.8リッターV6ツインターボが息を吹き返し、低く野太い咆哮がキャビンに響き渡る。
空気が揺れる。鼓膜が震える。GT-Rはただのクルマではない。その鼓動が、まるで乗り手の精神を試すかのように伝わってくる。
2016年式のGT-R。R35は2007年のデビュー以来、進化を続けてきたが、この年のモデルは特に境目に立っている。
なぜなら、2016年はマイナーチェンジ前の最終型だからだ。
翌2017年モデルからはフロントフェイスが大きく変わり、インテリアも刷新された。しかし、この2016年式は、それ以前のピュアなR35の最終進化形ともいえる。
後期型の洗練もいいが、この荒々しさこそGT-Rの本質ではあるまいか。
Dレンジに入れる。すぐに感じるのは、機械の圧倒的な剛性感。ステアリングを握る手のひらに、路面の情報がダイレクトに伝わってくる。
アクセルをわずかに踏み込むだけで、ツインターボが牙を剥く。交通の流れに乗るどころか、常にリードする存在だ。
GT-Rは速い。しかし、それだけではない。ただのスピードでは表現できない「圧倒的なもの」がここにある。
一般道を流すだけでも、その個性が滲み出る。サスペンションは硬質だが、2016年モデルではダンパーのチューニングが変更され、従来のモデルよりもしなやかになった。
低速でも突き上げがマイルドになり、街乗りでのストレスが軽減されている。
とはいえ、GT-Rがフワリと優しくなることはない。路面を蹴り、押しつぶすような独特の動き。これこそGT-Rだ。
一般道での猛威
GT-Rは速すぎる。これは、もはや「普通の道」では収まらない存在だ。だが、あえて一般道のみで試すことで、このクルマの本質が見えてくる。
まず、剛性感が圧倒的だ。ボディが微動だにしない。少々荒れた舗装路でも、GT-Rは泰然としている。
高剛性モノコックと絶妙なダンパーチューニングが、まるで戦闘機のような安定感を生み出している。まるで路面と融合しているかのような一体感だ。
そして、加速。このクルマは、低速域から異次元のトルクを発揮する。信号待ちからの発進すら「速すぎる」と感じるほど、瞬時に加速し、あっという間に制限速度へ到達する。
ここにきて思う。GT-Rは、法規の範囲内で遊ぶことを許してくれない。もっと広い場所、もっと自由な空間で本領を発揮するべきマシンだ。
しかし、だからこそ「普通の道」で乗る意味がある。
ハンドリングも鋭い。電子制御4WDシステム「ATTESA E-TS」が、前後のトルク配分を最適化し、常に理想的なトラクションを生み出す(一般道では分かりづらいけれど)。
ステアリングを切れば、重厚な車体が意のままに向きを変える。このクラスのクルマにありがちな「速いけれど扱いづらい」という要素はほとんどない。
だが、GT-Rは決して「手懐けやすいクルマ」ではない。アクセルを踏むほどに、クルマが牙を剥く。制御されているとはいえ、乗り手に覚悟を求める。その緊張感が、GT-Rを特別な存在にしているのだ。
日常の風景とともに
駐車場にGT-Rを停める。エンジンを切ると、ボンネットの下で冷却ファンが唸りを上げ、金属が冷える音が微かに響く。乗り終えた後でも、GT-Rはまだ生きている。
このクルマは、果たして日常の相棒になり得るのか?
結論から言えば、「可能だが、覚悟がいる」。トランク容量は十分で、二人なら長距離旅行にも使える。燃費は市街地でリッター6km前後、高速ならばリッター10kmを超えることもある。
スーパーカーとしては優秀な数値だが、日常のクルマとして考えると、やはり燃費と維持費は相応の負担になる。
とはいえ、GT-Rは他のスーパーカーとは違う。例えばフェラーリやランボルギーニのように、特別な日にだけ乗るような「非日常のクルマ」ではない。
GT-Rは日常を「特別なものに変えるクルマ」なのだ。
普通の通勤路がサーキットのように感じられ、ただの買い物が特別な時間になる。クルマとの対話を求めるなら、GT-Rはこの上ない相棒になり得る。
2017年モデル以降、GT-Rはさらに洗練され、乗り心地や静粛性が向上した。しかし、それは「乗りやすいGT-R」への進化でもあると僕は思う。
対して2016年モデルは、荒々しさを残した「純粋なR35」だ。どちらを選ぶかは乗り手次第だが、クルマとの対話を求めるなら、この2016年モデルには独特の味わいがある。
エンジンを止めたあとも、GT-Rの鼓動はしばらく残る。次にエンジンをかけるとき、またこのマシンと対話が始まる。GT-Rに乗ること。それは、単なる移動手段ではなく、一つの体験なのだ。
SPEC
日産GT-R プレミアムエディション MY15
- 年式
- 2016年式
- 全長
- 4670mm
- 全幅
- 1895mm
- 全高
- 1370mm
- ホイールベース
- 2780mm
- 車重
- 1750kg
- パワートレイン
- 3.8リッターV型6気筒+ツインターボ
- トランスミッション
- 6速AT
- エンジン最高出力
- 550ps/6400rpm
- エンジン最大トルク
- 632Nm/3200〜5800rpm
- タイヤ(前)
- 255/40ZRF20
- タイヤ(後)
- 285/35ZRF20
上野太朗 Taro Ueno
幼少から車漬け。ミニカー、車ゲーム、車雑誌しか買ってもらえなかった男の末路は、やっぱり車。今、買って買って買ってます。エンジンとかサスとか機構も大事だけれど、納車までの眠れない夜とか、乗ってる自分をこう見られたいとか、買ったからには田舎に錦を飾りにいきたいとか、そんなのも含めて、車趣味だと思います。凝り固まった思想を捨てたら、窓越しの世界がもっと鮮やかになりました。